第七話 父と息子
父が風呂からあがってきた。
父は僕を見て少し微笑んで言った。
「もう大丈夫そうだね。」
その意味はあまり人の気持ちが分からない僕でも分かった。
僕は母のことが大好きだった。
僕は父を嫌悪していた。正直、母が亡くなってからきつく当たってしまう時は何度もあったと思う。
恐らくそれは母が殺されてしまった原因は全て父にあったと考えていたのと、幼少期、母と仲良くしている父をよく思っていなかったからだと思う。
もちろん今はそんなことは思わないが、幼少期ずっとそう思ってしまっていたせいか父にはそのような感情を抱いてしまう。
それが膨れ上がってしまったのは父の再婚が原因でもあると思う。
だが母が亡くなってから父は母の代わりになろうと頑張ってくれていた。それが今なら分かる。
今日の事だって凄く心配してくれた。
それに毎朝、走りに行って帰ってきたら、父が仕事に行く前に作ってくれた弁当が置いてある。
毎朝忙しい中、早起きをしてお弁当を作ってくれる。
当たり前だと思っていた。今この瞬間まで。
父に嫌悪感を抱いている今の自分が情けなく思えてくる。
…そう思って父の顔を見たらいつもとは違う父が見えた。
大好きだった奥さんを自分が原因で殺され、残された子供二人を養うために1年間、一人で家事、仕事、送迎などをこなし続けた。
そんな中限界を迎え、母の事を忘れられるわけが無いのに僕たちを守るために結婚した。
母が大好きだった息子の体調を常に心配し、ここまで全力で走り続けてきたその顔は勇者のように見えた。
僕は父になんと言っていいのか分からなかった。
僕が言い出せずにいると横から
「おとうさん、今まで櫻を守ってくれてありがとうございました。多分、お父さんが居てくれたから今の櫻がいるんだと思います!」
紅葉が僕の言いたい事をまとめて言ってくれた。
でもこれだけは言わないといけないと思った。
「父さん。いつもお弁当とか作ってくれてありがとう。母さんが居なくなってから当たってしまう事もあったけど本当にごめん。これからは困ったら僕が助けるから、何かあったら言って。」
父は感動しながら言った
「櫻もよく頑張ったな。」
「ありがとう。父さん。」
二人は顔を見合わせて笑った。それにつられて紅葉も笑ってしまった。
父が言った
「紅葉さんも、ありがとうね。これからも櫻を見てやって欲しい。」
「もちろんです!櫻くんのことは任せてください!」
櫻はこの告白のような言葉の意味は感じ取れなかった。




