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桜は吹雪く  作者: 霜揺 あい
第一章

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第三話 視線

2人の関係が再び動き出したのは、暑い夏を越えた2年生の10月のことだった。


その日の放課後、櫻は拓海と一緒に駅へ買い物に来ていた。櫻の家の近くにある駅は、田舎のショッピングモールほどの大きさは無いものの、それなりの商業施設が併設されている。


その日、駅で事件は起こった。

その1時間前


櫻は人と接するのが苦手だ。だから買い物も一人で済ませたかったのだが、今日ばかりはそうもいかなかった。


「お前が俺と買い物なんて珍しいな」

「拓海が勝手に着いてきただけでしょ」

「まあ細かいことはいいとして、何を買うんだ?」

「もう冬だし、新しいコートを買う予定」

「じゃあ最初は服屋に行くか!」

「……はい」


2人は服屋へ向かった。

櫻にしてみれば、正直、寒さを凌げるなら何でも良かった。だが、適当に選ぼうとすると隣の男がうるさいのは目に見えている。そのため、いっそのこと拓海に選ばせることにした。


「これとかどうだ?」


楽しそうに拓海が掲げたのは、セールになっている真っ赤なパーカーだった。

正直に言って、拓海にはセンスがない。陰キャの自分がこんな派手な差し色をしても、似合うわけがないのだ。


それに、ほかにも赤を避けたい理由があった。

だが、それをそのまま口にすれば空気が悪くなりそうだったため、オブラートに包んで伝えることにした。


「せっかく選んでくれて申し訳ないんだけど……赤はあまり好きじゃないんだよね。赤以外で選んでくれる?」


拓海は櫻の気持ちを察したのか、「わかった」とだけ言って別のものを探しに行った。


数分後、拓海が無難な黒いコートを持ってきた。


「これはどうだ?」

「いいと思う」

「自分のやつなんだからもう少し興味を持てよ。……まあ、いいなら買ってこい。俺は店の外で待ってるから」


コートを会計し、櫻は拓海の元に戻った。


「ちょっとトイレに行ってくるから、この辺で待ってて」


拓海にそう言われ、櫻は通路の椅子に腰掛けて待つことにした。


しばらく経ったその時、櫻の後ろから、いかにも無職といった風体の小汚い男が、一つのバッグを抱えて通り過ぎていった。


あまり気にしても仕様がない。櫻はイヤホンで音楽を聴こうと、ポケットから取り出して耳にはめようとした。


――その瞬間、悲鳴が響いた。


女性の悲鳴に、周りの客が一斉にそちらへ注目する。

そのとき、櫻は前方を見てしまった。

櫻の目に、さっきの男が30代くらいの女性の腹部をナイフで刺す光景が、鮮烈に飛び込んできた。次の瞬間、女性の白いコートが血で真っ赤に染まっていく。


女性は僕の方に崩れ落ち、男は正気に戻ったのか、動揺しながらその場から逃げ出した。


その現場に、一番近くにいたのは櫻だった。


犯人に間違われるのではないか

――そんな問題ではなかった。


普通、人が目の前で刺されれば、怖くて逃げ出すか、あるいは刺された人を助けようとする。


だが、そのときの櫻は何もできなかった。ただ、身体がすくんで動けない。


周囲がにわかに慌ただしくなる。


「救急車と警察を呼べ!」

「止血しろ!!」


緊迫した声が飛び交う中、櫻の耳には別の声も届いた。


「あの人、人が目の前で刺されたってのに何してるのかしら……」

「邪魔だからどけよ」


その声を聞き、櫻はさらに動けなくなった。

呼吸が浅くなり、次第に過呼吸になっていく。

それは単なる衝撃などではなく、櫻の心に深く刻まれたトラウマに近い症状だった。


幸いにも刺された女性の傷は浅く、周囲の客が迅速に止血を行ったため、救急車が到着するまでは持ちこたえられる状態になった。


すると次に、周囲の視線が一斉に櫻へと向けられた。

心配してくれる視線だと、一瞬でも期待した櫻が馬鹿だった。


「君、動揺するのは分かるけど、邪魔になるってことが分からなかったの?」


女性を真っ先に助けた若い男性が、冷ややかな声を放った。

周囲からも同様の蔑むような視線が突き刺さる。櫻は何も言い返せず、ただ過呼吸に苦しむことしかできなかった。


そのときだった。


人混みの後ろから、一人の女子高生が周囲をかき分けて入ってきた。


その女子高生は櫻の手を強く握り締めると、

凍りついたその場から2人で連れ出すように走り去っていった。

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