表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮浪雲晴明事件場  『消失都市・黒門 ―見えない人間の記録―』 第二巻(大阪編)  作者: 智利


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/17

第3巻 第5章(最終章) 『選択される世界』


白が、砕ける。


世界が、バラバラになる。


音も、光も、意味も——

すべてがほどけていく。



その中心で。


浮浪雲だけが、立っていた。



「……強制的に外す気か」


周囲は、何もない。


いや——


何も“定まっていない”。



「ここは“未定義領域”だ」


あの男の声が響く。


姿は見えない。


だが、確実に“いる”。



「ここで観測を切れば、お前は完全に消える」



「……なるほどな」


浮浪雲は、静かに笑った。



「最後は“存在そのもの”か」



「お前は例外だ」


男の声は、どこか静かだった。



「だから危険だ」



「せやろな」



一歩、踏み出す。


足場はない。


だが、落ちない。



「で、どうする?」


男が問う。



「ここで消えるか」



「それとも——」



一瞬の間。



「戻って、従うか」



静寂。



浮浪雲は、目を閉じた。



浮かぶ。


黒門の喧騒。

酒の味。

どうでもいい会話。



そして——


思い出せない“誰か”。



「……あいつ」


小さく呟く。



「名前、出てけえへん」



胸の奥が、きしむ。



「消されとる」



その瞬間。


目を開ける。



「せやけどな」



顔を上げる。



「おるんや」



確信。


理屈ではない。



「俺の中に、まだ残っとる」



沈黙。



「それで十分や」



その言葉に。


空間が、わずかに震える。



「……非合理だな」


男の声。



「記録もない。証明もできない」



「せやな」



「それでも“ある”と言うのか」



浮浪雲は、笑った。



「あるもんは、あるんや」



一歩、前へ。



「お前が消してもな」



「完全には消えへん」



その瞬間。


空間が、大きく歪む。



「……なぜだ」


男の声に、初めて感情が混じる。



浮浪雲は、ゆっくりと言った。



「観測されんでも」



「覚えとるやつがおる限り——」



「消えへんからや」



沈黙。



長い、沈黙。



やがて。


男の声が、静かに響いた。



「……それが、誤差を生む」



「世界は歪む」



「崩壊する」



「だから、消す必要がある」



その言葉に。


浮浪雲は、首を振った。



「逆や」



「それがあるから、“人間”なんやろ」



一歩、さらに前へ。



「全部きっちり整えたらな」



「それ、もう人間ちゃう」



沈黙。



そして——


世界が、静かに戻り始める。



光が戻る。


音が戻る。


重さが戻る。



「……選んだな」


男の声。



「どっちやと思う?」



「……壊す方か」



浮浪雲は、笑った。



「ちゃうな」



振り返る。



「“外す方”や」



その瞬間。


空間の“固定”が外れる。



観測が、揺らぐ。



男の気配が、一瞬だけぶれる。



「な……」



「お前も“人間”やろ」



「完全やない」



「せやから——」



「外れる」



その言葉と同時に。


世界が、大きく歪んだ。



そして——


暗転。



■ エピローグ


黒門。


いつもの喧騒。



浮浪雲は、いつもの場所で酒を飲んでいる。



何も変わっていない。


ように見える。



だが——


ふと、視線を上げる。



向かいの席。



誰かが、座っている気がした。



顔は見えない。


名前もわからない。



だが——


確実に、“いる”。



「……おるな」



小さく呟く。



そして、グラスを一つ置く。



「飲めや」



返事はない。



だが——


ほんのわずか。


空気が、揺れた。



浮浪雲は、笑った。



「見えるもんが全部や思うなよ」



グラスを傾ける。



遠くで。


誰かが、こちらを見ていた。



それが——


誰なのか。


もう、確かめる術はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ