第4巻 第1章 『朝が来ない街』
朝が、来ない。
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空は明るい。
だが、それが“朝”なのか誰にもわからない。
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時計は動いている。
だが、時間は進んでいない。
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黒門。
……だった場所。
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「……変わったな」
浮浪雲は、缶を開ける。
音だけが、やけに鮮明に響いた。
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人がいる。
だが——
さっきと顔が違う。
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同じ男が、二人いる。
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「おい」
片方に声をかける。
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「お前、どっちや」
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男は、しばらく考えてから答えた。
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「……昨日の方や」
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「ほな、もう一人は?」
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「忘れた方や」
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浮浪雲は、ため息をついた。
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「めんどくさ」
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酒を一口。
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味が——
昨日と違う。
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「……安定してへんな」
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その時。
背後から声。
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「それが“崩壊後”だ」
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振り向く。
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あの男が、立っていた。
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今度は——はっきり見える。
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普通の人間の顔。
どこにでもいる男。
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「消えへんかったな」
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「完全にはな」
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男は静かに言った。
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「お前が“外した”からだ」
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「せやったな」
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浮浪雲は、笑う。
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「で?」
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「これが望みやったんか?」
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男は、街を見渡した。
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同じ人間が増えたり減ったりする。
建物が、微妙にズレる。
空が、一瞬だけ暗くなる。
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「……違う」
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「これは“副作用”だ」
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「ほな、どうする?」
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沈黙。
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「選ぶしかない」
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男は言う。
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「再び“固定する”か」
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「それとも——」
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浮浪雲が、先に言った。
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「このまま“自由にする”か」
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男は、ゆっくり頷いた。
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「ただし」
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「自由は、不安定だ」
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「人間は耐えられない」
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浮浪雲は、少し考えてから——
笑った。
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「そらそうや」
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「人間やからな」
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そして。
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「でもな」
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一歩、前へ。
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「それでもええ思うやつも、おるやろ」
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その言葉に。
空間が、わずかに安定する。
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「……まだ選びきれていないな」
男が言う。
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「当たり前や」
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「人生、そんなすぐ決まるかいな」
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その時。
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遠くで。
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“消えたはずの誰か”が、こちらを見ていた。
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浮浪雲の目が、細くなる。
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「……おるやんけ」
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男も振り向く。
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「……観測が残っている」
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浮浪雲は、ニヤッと笑った。
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「せやから言うたやろ」
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「完全には消えへん」
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そして——
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ゆっくり歩き出す。
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「行くで」
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「どこへ?」
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浮浪雲は、振り返らずに言った。
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「決まっとるやろ」
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「確かめにや」
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