第四十六話 Sの部屋 ①
学生時代、親しくしていた友人Sの話。
Sは非常に明るい好人物で交友関係が広い。私とは対照的なタイプだったがなぜか気が合い、よくつるんでいた。
某夜、私はSと通話していた。特に用事があったわけではなく、先方が暇つぶしにかけてきたのに付き合う形で、小一時間ほど四方山話を続けていた。
私は普段から聞き役で、しゃべるのはほぼSである。その日も彼のハマっているアニメや友人の失敗談といった小ネタに延々と相槌を打っていたのだが、私はなるべく早く話を切り上げようと思っていた。Sの部屋に客が来ているらしいことに気づいたからだ。
人気者のSの家には、常日頃から大勢の人間が出入りしていた。私の滞在中、別の友人が訪ねてくることも珍しくなく、今回もそうなのだろうと思った。Sは「みんな自由にしているから気にしなくていい」と言うが、こちらとしては落ち着かない。重要な相談ならともかく、ただの雑談で客を待たせるのは忍びなかった。
彼の話が一区切りついたところでその旨を伝え、今夜はお開きにしようと提案した。
すると一拍置いて、「え?」と怪訝そうな反応が返ってきた。
「俺、今、部屋に一人なんだけど……」
その間にも、電話口からはSの声に混じって女性の声が聞こえている。なんと言っているかは不明だが、Sに話しかけているような口調でかすかに反響しているので、てっきり誰か来ていると思っていた。なんならSの彼女が焦れてちょっかいを出しているのではと考えていた。
そう伝えると、食い気味に否定された。この時点で、Sの声には怯えの色が混じっている。
「……テレビ、ついてる?」
「ついてない……! 何もついてない! ちょちょちょ待って、怖い怖い怖い!!」
恐怖が臨界点に達したのか盛大に慌てふためくSに、「なんかすまん。たぶん混線だから気にするな。お休み」と告げ、私は電話を切った。薄情な気もするが、正直な話、薄気味悪かったのだ。
翌朝、怖くてろくに眠れなかったというSから、きっちり責められた。その後、何か異変はなかったか訊いてみたら、特に何もないそうだ。
ただ、少々気になる話を聞いた。これについては、日を改めて話そうと思う。




