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零の継承者たち -天子の揺籃ルネ-  作者: あず
冥々裡の地獄ホンレフ
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第十三章 導かれし宿命①

「……ここね」


 氷のドームに導かれて、ジュノとステラが辿り着いた場所はどこかの建物。


「多少大雑把ではあるけど、私たちが見てきた限りこんな建物はなかったはずよね……」


 謎の建物へ誘われて躊躇するジュノ。

 それもそうだ。

 幼いステラを連れているのだから、何が起こるか分からない場所はなるべく避けたいのが心情。


〈ドドッ、ゴゴゴゴゴッ!〉


「これは、……恐らくフレイがアイリーンと衝突したのね」


 外の問題を知れる手段のない中、少し離れた場所で激戦を繰り広げる二人に予測を立てる。

 そんな不穏の音に、時間が限られているとでも言い表されているようだ。


 覚悟を決めて、背負ったステラを振り落とさないようしっかりおぶると、白い建物は内部へと扉が自動で開けて、ジュノとステラを歓迎するかのよう。

 そんな表向き白い建物の内部はとても暗く、目下に広がるのは雪を固めた白銀の階段で、暗い空間を僅かな蝋燭で照らしているだけの殺風景な空間。


 意を決して小さな蝋燭の灯りを頼りに踏み出した瞬間、扉は固く閉まり、引き返すことが不可能な状況を作られた。

 蝋燭に照らされていない場所はとても暗くて、階段があったのかすら判断付かないほど危うい空間を、ただひたすら歩くことを強制されてる。


「……ステラ、心して掛かりなさい」

「あいぃ!」


 ジュノの言葉でステラにも強い覚悟を心で感じ取る。

 ステラも一緒に目撃したこの残酷な現象に、大いに不安を覚えたからだ。


 ただジュノに背負われて、暖かな温もりと鼓動から感じ取れるからか、不安は通常よりも断然少ない。

 安らかな幸福を呼んでくれるフレイの腕の中と、絶え間ない心強さを呼ぶジュノの差が判らなくなっているようで、頭が堂々巡りを繰り返す中で、ステラもこれだけは分かる、絶対大丈夫だと。


***


「これ以上は無駄なようね……」


 一体どれほどの時間が経ったのか。

 幼いステラだけでなく、根気強いジュノさえ憂鬱になるほどの脱力感を体感する。

 心身が悲鳴を上げたからこそ、この時間を永遠というのが辛く、最悪な状況を深く考えれば考えるほど不安は増し、真っ先に押し潰されるのはステラの希望と考えが行き着く。


「じゅ……、じゅ、ジュノぉ……ぉ」


「大丈夫よ。泣かないで、ステラ」


 一旦ステラを下ろしてその場に座ると、ぐずるステラの機嫌をなるべく損ねないよう積極的にフレイを話題に出しながら、黒塗りか女性の姿に戻ったジュノは涙を丁寧に拭い取る。


「ジュノぉ、フレイぃ……好きぃ?」


 あまりに唐突で核心的なステラの質問に一時戸惑うジュノだが、幾ら払い取っても溢れていたステラの涙が止まり、唖然となるくらいステラの悲しく寂しい感情が遠退いているのだ。

 その事実がジュノの安心に繋がり、一時の気の緩みが心の言葉を紡ぎ出した。


「フレイは……、フレイは昔から私のヒーローだったのよ。優しくて、格好良くて、それでいて必要以上に涙脆くてね、……本当、昔から変わらないわ、変わらなさすぎよ……」


 元々口数の少ないジュノの感情は判別しずらいもので、ここぞとばかりにジュノに直撃するフレイへの想い。しかしジュノの言葉に直情的な言葉は出てこない。


「フレイぃ、好きぃ???」


「……その話はもうおしまい。この場から脱出する方法を考えましょう」


 口にしたくない事情が浮き彫りとなったことで、ステラの疑問が不発になった不満から、両頬をお餅のように膨らますことで不機嫌を表現させる。

 しかし不安だった涙はいつの間にか消えていた。

 事は解決せずに終わったが、ジュノといても楽しい気持ちが確実に育っているのは、ジュノの細やかな気配りによってステラの不安が上手く浄化した、ジュノの手腕かも知れない。


 元々唐突なジュノの来訪から、突然の同居。

 そんな状況で幼いステラに仲良くなれという方に無理がある。

 そんな中、かなりの年月が経ってもフレイにべったりなステラが、事情があれど今はジュノを心から頼っている。

 言葉こそ難しくとも、大変滑稽だとステラも感じているに違いない。


「さて、このまま進んでも無意味だということは判明したわ。次はそうね、蝋燭を消してみようかしら? 勇気はいるけれど、試さないと前に進むことは出来ないわ」


「うん、良いよぉ!」


 頼りない灯火でありながら、階段に上がる度、たった一つの蝋燭が現れてはまた消える現象。

 物は試しとジュノは大胆にも消しに掛かるがものの、火を消しても一時真っ暗になったかと思えば、火種もないまま灯火を再び復活させる。

 つまりは何一つ変わらないのだ。


「あら、無理なのね。ということは、この場には確実に建物の中心部に繋がる通路があるんだわ。必ずループから抜け出す方法がどこかに存在してるはずよ」


 蝋燭の灯火を頼りにして、思わず雪で固められた階段を掘り起こすも、ジュノが素手で掘るには無理があるようだ。

 懸命に掘ったことへの代償に、手先に少々ダメージを受ける。


「また黒塗りになれば……。いえ、簡単に破壊してどうするの。アレが導いた道なのよ、私たちにしかこのカラクリを解くことができないはず……」


「ジュノぉ、……大丈夫ぅ?」


「ええ、大丈夫よ。すぐ治るわ、安心して」


 この時ばかりはフレイのような力も自然治癒力も持たない身体が歯痒い。

 たった数センチ掘るだけで凄惨な状態になった爪先を見ては、情けなさからため息が出るほどに。

 そんな悔しさから指先を眺めることで、先ほどのアイリーンとの一戦が頭を過る。

 血を地面に落として、道が開けた事実を今、鮮明に回想されたのだ。


「まさか……、まさかね?」


 指先に有様を心配そうに見つめるステラをおぶって抱きしめて、ジュノは痛む人差し指を更に歯で皮膚を噛み切り、溢れる血を溢さないよう、ゆっくり蝋燭の炎に垂らした。


 瞬間、炎の勢いは増し、赤い炎から蒼い炎に様変わり、青白い光は周囲を照らすと、暗黒を蝋燭で灯る白銀の小さな空間は完全に消え、代わりに月のような丸い物体がこの場を照らす。

 そんな丸い物体の真下を見れば、大きな扉が神々しく存在しているのだ。

 地面は一面水浸しで、月らしきものが照らす明かりがジュノたちに届くほど細く、水面に揺らめいている。


「ステラ、……行くわよ」

「あいぃ!」


 その言葉でジュノの服を鷲掴み、前に抱かれているステラはジュノと気持ちを共有する。

 幸い扉は遠退くことはなく、苦労せずとも扉に近づくことができた。

 進む度に水面が靴裏に吸い付いて、ピチャン、ピチャンと独特の音色を奏でるように思える、魅惑と誘惑。

 水面に広がる波紋はどこまでも続く泉のようで、穏やかに軽やかに大きく広がる。 

 辿り着いた扉に少し躊躇しながらもゆっくり押すと、月が照らすだけのこの空間を、まるで太陽のような光線を解放させて、扉が開いた先を明るく華やかに彩った。



 突然の眩しい光を浴びるもすぐ目が慣れたことで、ジュノたちが視野に入れたものは、三百六十度硝子張りのドーム状らしき空間だった。

 驚くことに外部のあらゆる所に監視カメラでも備え付けたかのようで、まるでこのホンレフを統括するかのような場で、様々な場所と角度から多くの映像が映し出されている、それはまさに遠い未来的な空間に足を踏み入れたのだ。


 しかもただの映像で事済まず、体温感知器の様なサーモグラフィカメラや、有ろう事か放射線を使用して、体内の構造を見るガンマカメラの様なものまで見受けられる。


「この場所で……、ずっと監視していたと言うの?」


 一人何かに困惑しながらジュノはこの空間に漂う哀愁を感じ取るが、今はそれ以上に、外の世界が想像以上に深刻な状況になっている事実を、二人はこの大量の映像から知り得る。


「あいぅ! フレイぃ!」


 まるでセロハンのような、とても薄くかつ映像が見やすいよう半透明な素材で浮き出た画面に、思わず興味を惹かれていたジュノは、ステラが発言した方向へすぐに向く。

 しかしジュノの確認が遅れたのか、既にフレイの姿はなく、恐らくアイリーンらしき巨人が割れた地面に片足が挟まり、一時見動きが取れない情報が目に飛び込んだ。


「フレイは……、地下に落ちたのね?」

「……う、うん」


 ステラの発言でこの大量の情報の中からフレイを捜し出す。

 この画面を触れることに一時は躊躇したものの、流石のフレイの危機に勝手に手が動く。

 なにより画面に触れた瞬間、主に今現在のアイリーンの生態と身体の構造まで詳しくたくさんの文字で拵えてくれる。


 その様子を見たステラが慌てるように画面に触れるが、何一つ反応もびくともしない。

 もちろんこの事実に驚くのはステラだけではない。

 ジュノもまた、核心に迫ることばかりで、溢れる動揺が止まらないのだ。


「ジュノーぉ、早く……フレイぃぃい!」


「わ、分かったわ!」


 ある程度予想はしていたものの、ジュノへの執着は想像以上で、様々な憶測がジュノの脳裏を駆け巡る。

 間違いないのは、《この空間はジュノ以外操作できない構造》だということ。


「私が居た? ……違うわ、私はここに来たことがない。なら、なら、どうして?」


 操作しながら記憶の細部まで神経を尖らせ、自身との共通点を探しながら、フレイを助けるための駒を進める。

 そのあまりに滑らかに進む作業に、ジュノも驚きを隠せない。


「ジェームスは? ジェームスだけ心臓部への侵入を成功させていた、なぜ死を免れたの?」


 最初こそ不思議に思っていたが、よく考えれば都合のいい出来事は山ほど出て来る。

 全てはジュノに関連して、全ての行動はジュノを待ちわびていたという事実。


「まさか、本当にアレが実在しているということ? まさか……、あり得ないわ」


 混乱で頭がこんがらがるジュノ。そのあまりに複雑な心境は、ステラにまで届く。


「ジュノーぉ、ゆっくり……、ゆっくりねぇ?」


 この不可解な状況の中、心配したステラがジュノのために心から気遣う。

 勿論フレイとの再会が大前提ではあるが、それを差し引いたとしても酷く動揺しているジュノへの心配は、フレイ以外で初めての信頼を築いたことを示している。


「ありがとう、ステラ……」


 ステラの心配で動揺を一時正常にさせるために、ジュノはアレへの詮索は一旦止める。

 フレイの捜索に重点を置き、与えられたこの場をフル活用させる行動に精を出した。


 流れるような手さばきが可能なのは、この場がジュノ専用と言わんばかりに、精巧に造り込まれた位置と感覚で構成されているから。

 確かな情報を事細かく導いてくれるのは、ずっと見守ってくれる安心感を感じるから。

 確かな裁きを瞬時に決断できるのは、共に戦う心を共有する感覚がジュノに確かな自信を与えてくれるから……。


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