表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零の継承者たち -天子の揺籃ルネ-  作者: あず
冥々裡の地獄ホンレフ
57/102

第八章 禁じられた遊び③

「ね、ねえ、君はグアンの居る場所へ連れて行ってくれているんだよね?」


 たまに声を掛けるも謎の同胞はフレイの言葉に一切応じず、ただ黙々と道を誘導するだけ。

 先ほどの珍事によって氷は白濁したまま、周囲の様子も確認できないことから、この同胞が何を考えて誘導しているのか、全く分からないからこその不安が募った発言だった。


「なんだか、ますますジュノと一緒……」


 この同胞とジュノ。

 粗方の行動から見て、基本的な性格から始まり、属性、能力の仕様から思考に至るまで、思い起こせばキリがないほど共通点が多すぎるのだ。


「まあ流石にそれは無いとして、ここまで無言を貫かれるとちょっと困るな」


 右腕の付け根から下が存在しなままの屈強な紅塗りは、相も変わらず見た目にそぐわない思考を軟弱に巡らすが、右腕からの反応はグアンがいる位置から離れていると再三示す。

 つまり同胞は端からグアンと引き合わせる気が一切ないのだろう。

 敵か味方かの線引きが微妙で、どうにも判断付かない状況だが、間違いないのはグアンを守ろうとしているのは確か。


「だとすれば、僕が連れて行かれる場所は……」


 ある程度予測を立てたところで、ある光から成る光景がフレイの視野に飛び込んだ。


「これは、う、宇宙? ……じゃ、ない???」


 フレイが辿り着いた先は、廃材や大量のガラクタの山で溢れるゴミ溜め場だ。

 しかも全方位どこを見ても、全面真っ白な空間が漂っていて、空間の広さも判断出来ない上、広範囲の明るさで全てを赤裸々に見せる空間。

 そんな空間の中、一際目立つガラクタの山にフレイの関心が注がれる、それはこの文明にあるはずのない、使い古されて破損しているテレビやゲーム、箱型パソコンから薄型パソコンに至るまで捨て置かれていると言う衝撃。


「これは、間違いない。奴らがこの空間に集結している証拠だ!」


〈ガガッ、ガガガッ、ガシャッシャッ、ゴゴゴゴゴゴゴッ!〉


 核心突いた瞬間、突然フレイの進む階段が轟音を立てて崩れ落ちる音に反応する。


「こ、この音は空間を閉じた音、じゃない? ……何者かが空間をこじ開けたんだ!」


 歪んだ白い空間に爆炎と爆音に加え、割れた氷が鋭い凶器に変わり、フレイの身体に小さな傷を多く作る。

 その発端を高い視力で早々に正体を突き止めたフレイは力強く、天は高く、感情を懇々と湧き上がらせた。

 それほどまでにフレイが警戒する相手、それは。


「ふ、ふ、フッ・レッ・イィィぃいぃいぃぃぃいいい!」


 ねちっこい金切り声でフレイの名を呼ぶのは、皮膚を皮下組織まで剥いだあの時の人物。

 勢いそのままにフレイを標的に、高所から飛び降りる衝撃から桁違いの振動と重力を受けるはずが、驚くことに分厚い足の爪だけで緩和させたのだ。


 元々着地点としてフレイの頭頂部への攻撃が易々とかわされるのは想定内であり、たった一振りで両手の爪を異常に伸ばすと、間髪入れずにフレイへの攻撃を尽きることなく攻めた。

 しかし紅塗りはたった二本の指で両爪の交わるところを挟み、軽々と塞ぎ止める。

 丸く白光する紅塗りの輝きが増す瞬間、敵がその瞳に刻む想いは、まるで恋する乙女。


「ふ、フレイっ! フレイッ! フレイッ!」


 興奮を垂れ流し、感情を隠す方法など忘れたように、フレイへの想いが膨らむばかりで、間合いを取るため華麗に空中を舞う紅塗りのフレイを目に焼き付けて、心底見惚れる。


「ふ、フレイィィぃぃいぃい!」


 歪むフレイの白光は、冷ややかな目線を想像させるほどの冷淡な反応で感情を示すが、物言わぬ威圧に屈服するどころか、寧ろ逆効果を知らせるような敵の顔つきは、フレイに対する興奮を隠せそうにない模様。

 片腕のシルエットはまるで片翼の天使のように儚く美しくて、神々しくて、高揚するばかりの激しい心の高鳴りと、心底魅入り独自の世界観に入り込んだことから、あろうことか丸見えの筋肉の筋を跳ね除け、故意に柔い心臓をむき出しにする。


 この状況下においても無我夢中でフレイを求めて自欲に忠実な敵に対して、勝負の行方を鮮明にさせたフレイは、この無謀極まりない現実を知らせるための深刻な言葉を贈る。


「よせ、アイリーン。君は僕に勝てない」


 自身の名をフレイの口から聞き出せたことが快感らしく、この興奮を全身が歓喜に湧いて、大量のアドレナリンを限度なく分泌するアイリーン。

 それが合図かきっかけか。

 先程までの保湿が十分でなく、少ない粘膜だけで辛うじて潤していた身体を、湧き立つ興奮が新陳代謝まで促がすことで、緑の粘り気ある体液を多く分泌させた瞬間がアイリーンの本領発揮となる。


 常に開きっぱなしの口腔内から緑の分泌液を滴り落とすと、フレイを通り越してガラクタと交わらせ、黒煙を焚き出し、酷い悪臭と毒素と共にこの広く白い空間で存在を主張する。

 しかしこれほど緊張感漂う状況下、私欲と妄想で忙しないアイリーンと、その明らかな好意に対して無意識に回避できるフレイに天然具合が、妙にマッチする理解しがたい不思議。


 この二人の対峙は、危険な果実そのものとも言える。

 それも熟れすぎた上に少し腐った、艶めかしい香りが充満して、むせ返るような。


「フレイィ、私のぉお、フレイぃぃい! はぁぁああ、運命はぁぁああ、残酷ぅぅううう!」


 まるで残酷な運命に引き裂かれた悲劇のヒロインさながらに、アイリーンの想いと共に抗えぬ宿命を心底嘆く。

 そんな一人感傷に浸るアイリーンは、フレイを置き去ったまま暴走を続けて、身勝手なトキメキは遂に最高潮に達する。


「かぁぁあぁぁなぁしぃ、かぁあぁなぁあぁあしいぃ、さっ・だっ・めッ!」


 一頻り物思いにふけたアイリーンの口角なる筋肉の筋を挙げると、まるで別人のようにフレイへの攻撃を再開する。

 両手の中指を掃う仕草だけで瞬時に伸びた異常な長さの爪に、緑の毒素を滴らせて、緑の爪のデコボコな表面をなだらかに、先端は研ぎ澄まされた凶器に変えて、鋭い刃物と化した。

 しかしそんなアイリーンの俊敏な抗戦に一切動じないのがフレイ。

 その余裕がアイリーンの鼓動を高鳴らせて、想いが爆発するとより力が漲る。


「フレイはぁあ、私だけのぉ、もぉおぉお、のぉぉおぉおおぉお!」


 相変わらずの金切り声を空間に響かせながら自身を奮い立たせているが、その叫びは完全に雄の雄叫びそのもの。

 フレイに対する想いに夢中すぎて、溢れ出る下品さに本人は気付けていない。

 勿論、フレイはアイリーンの攻撃を避けること自体難しいことではない。


 ただ激しい動きからアイリーンの体液が飛び散ることで、紅塗りの身体には無数の穴が開く。

 自然治癒力を存分に活用するも、アイリーンの体液は酸が気体となって蒸発するまでの間で、傷口を治すことが不可能な猛毒なようで、故意か偶然か、盛大に飛び散らかせている。

 紅い身体が目も当てられないほど陥没していく様子は、目も当てられないほど酷いもの。


 左腕一本だけでアイリーンの攻撃を阻むも、真っ向から体液を浴びる左手は風穴が開くほどに、一時神経が寸断されることで左腕の神経に上手く命令が行き届かない。

 そんな危険的状況に陥って、フレイは同胞の狙いに気が付く。

 恐らく、『アイリーンの足止めを切望している』のだろうと。

 ならばフレイがすべきことは一つだけ。


「アイリーン、何か一つ違えば僕たちは仲間だったかも知れないね」


 アイリーンに気付かれないようボソッと呟いたフレイは、左腕の少ない神経を集中して伝達させるのは、アイリーンの後頭部を強引に掴む行為。

 柔く粘着く不気味な感触と、手のひらが溶けて水分が蒸発していく感覚は、フレイの細胞組織が何度も再生しようと集結していくことで、フレイしか知り得ない質感まで覚えていく。


「アイリィィイイィィンッッッ!」

「ふ、フレイィイィイィッッッ!」


 互いの名を叫ぶ声が広く響く音波は、この真っ白な空間に様々な音域で彩り、アイリーンの全身を駆け巡る神経が最高潮の興奮を呼び込んだことで、フレイへの執拗な攻撃は怯まない。

 しかしそんな余裕の雄叫びは、思いの外早く消え去ることとなる。


〈ゴオォッッッン!〉


 突如フレイの顔が接近する瞬間、アイリーンの興奮が脳天を突き抜けたと思えば、重度の脳震盪から始まり、脳から順に激痛が連鎖したからだ。


「言っただろう、アイリーン。君は僕に勝てないんだ、絶対にね」


 強く激しい鈍い音が一時空間を支配して、フレイによる渾身の頭突きは、アイリーンの柔い頭部に額から顔面にかけて痛々しいまで陥没すると、頭蓋骨が砕けると共に、計り知れない振動で脳の水分が圧迫されて後頭部を突き破り、脳みそはシャワーのように噴出する。

 そう理解が及ぶ前に、アイリーンの意識が体外へ逃げたことで、本来の身体の持ち主が戻ると、様々な激痛に襲われて、訳も分からず地獄の業火へ旅だった。


「……分かっていたけど、何の情報も置くことなく逃げたか」


 名も知らぬ亡骸は、骨まで完全消失されていく中、この短時間で完全回復を遂げたフレイの身体。

 感覚を確かめるように左腕をゆっくり動かすと、次の瞬間にはグアンが頭を過る。


「聞こえているんだろう! グアンが危険だ、今すぐ僕をグアンの所へ案内して欲しい!」


 空間が幾ら白く明るくとも、フレイにとってはただの闇と何ら変わらない。

 そんな空間に閉じ込めて、なにかしらフレイに思うことがあるのは確実だ。

 頑なに改心しない同胞の意思の表れは一体どこにあるのか。

 ただヒントすら与えてくれない相手に、期待を寄せるのは一旦止めて、唯一の望みとなるグアンの目覚めに期待を寄せる。


「きっとグアンが何らかの能力に目覚めれば、僕への態度もいくらか変わるはず」


 フレイには安定して抱きしめられた感覚を伝えてくれる右腕が、グアンは同胞の監視下で安らかに心身を癒す、そんな穏やかなイメージを彷彿とさせてくれるのだ。

 ただ媒体を持っているからと言って、グアンの行動や感情まで読めるわけではない。

 だからこそグアンに危険を伝える方法が無く、焦る気持ちがフレイを追い込む。


「アイリーン達がこの国を牛耳っている。早くグアンと合流しないと……」


 アイリーンがこの数秒で蘇っているのは把握している。

 だからこそ標的を変えて新たな方法で、特にグアンを追い詰めるのは間違いないだろう。

 同胞の方も並々ならぬ魂胆で、確実な勝算があって黙々と何かを待ち構えているのは一体何なのか。

 様々な思惑が絡む紅い糸は、解くことが困難なほど酷く(もつ)れ続ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ