第八章 禁じられた遊び①
「あっほッ、らっしいぃぃわぁぁあぁ!」
とある暗がりの一室で、なんとも気怠く、大層詰まらなさそうに女は愚痴をこぼす。
「ふ、フレイが、フレイがぁ! ……だってッ! アハハッ!」
「ゲヘヘェ~、きっもち悪ぅうぅううぅ!」
今にも落ちてきそうほどバランス保って山積みにされているのは、遠い未来に開発されるはずのブラウン管テレビだ。
薄暗い空間に光を放って、多くの画面には今現在のグアンの姿を映しているが、中央のテレビ画面が順に強制中断されて、多くのスノーノイズがこの暗い空間を照らす役割を担うが、なんせ台数が多いのだ、ザザァーと実に五月蝿く鳴り響いている。
そんな仄かな光に照らされて、身体つきからも真逆な男女の姿を映す。
男は見事な肥満体型で、肉厚な長い舌が口の中に収まりきらず、常に舌は出しっぱなしだ。
女は痩せてはいるが、極端なつり目からかキツイ性格を連想させて、正直印象は良くない。
なにより両者共に品格は見受けられず、男はこの時代に不釣り合いな高カロリーのスナック菓子を豪快に口に入れ、女に至っては美顔器のフェイスローラーで顔のむくみを取りながら、放つ言葉はグアンに対する罵詈雑言ばかりで、これ見よがしに笑い者にしている。
「てかこのままで大丈夫なの? 【アレ】とグアンが目覚めたらもう豪遊出来ないじゃん! 不測の事態に身を捧げるための住人なんだから、早々に塞ぎ止めろって話よ、役立たず!」
口を尖らせ、身勝手な不満と共に唾まで撒き散らす女。
「グヘェ~、まだぁ、方法はぁ、残っているってぇぇえええ!」
男が奇声染みた発声を発したことで、口からこぼれた食べかすも長い舌を使って食す。
「方法ってなによ? 私まだこの生活続けたいわ。今よ、今! 今すぐなんとかして!」
我儘で強欲な本音を隠す様子もなければ、ソファで楽な体勢のまま人を顎でこき使う。
「かぁぁあぁぁあ! グアンが目覚めたならぁぁああぁ、方法は一つぅぅううぉおぉおお!」
女の言動は常軌を逸しているが、男の不気味さも負けず劣らず。
「とりあえずグアンを逃がさないで! アレはなぜかグアンに執着しているから、グアンさえ手の内にいればこの生活を続けられるはず! 全く、あんなグアンのどこが良いのかしらッ」
手厚い待遇に対して、女はグアンに対する悪口をブツブツと口に出す。
女にしてみればグアンを傀儡に育て上げたおかげで、このホンレフは高水準の生活が維持できていて、自身いなければこの生活はなかったと断固とする雰囲気を醸し出すのだから、いかに頭のネジが足りていないのか想像を絶する。
骨の髄まで欲に溺れているからこそ、女の発言には自責の念は片隅にもない。
「グヘェ~、フレイぃいい! 今こそぉ、貴様のぉ、力をぉ……、ぐ、ぐへへッ!」
会話は噛み合わないが目指すところは同じようで、利害まで完全に一致している。
この塔の一番高い所、つまりは地下を住処に、男女は意気揚々とテレビに釘付けだ。
高い天井までのギリギリを、多少乱雑ではあるが上手く積み上げた中の両端の複数のテレビを除いた全ての画面に、神妙な面持ちのフレイが映し出された。
全方位から凛々しいフレイの様子が窺える中、唐突に一つ、また一つと、プツリと画面が消えて故障していくのだ。
「ちょっ、ちょっと何なのよこれ! 早く直しなさいよ、詰まんな~い!」
元々テレビ画面の灯りだけで保っていた空間が真っ暗になっていく瞬間、女は理不尽にも肥満の男に不満の全てをぶつける。
「グハハァ~……、まさかぁ……、グアンかぁぁあぁああぁあ???」
突然消えたテレビ画面に予備の蓄電池で補填させると、灯りが照らしたのは鬼の形相の肥満男で、脂肪の多さから閉じていた目を大きく見開いて、グアンに対する強い憤りで吠えた。
「あんのぉ小娘ぇぇええぇえ! 何処だぁぁああ? 今どこに潜んでいるぅぅぁぁああああ!」
恐ろしい形相を継続させたまま、テレビのリモコンを乱暴に操作する男。
女は灯りを取り戻したことでソファに寝転び身体を預けて、仰向けで大きなあくびをしながら、どこからともなく赤いネイルを施しながらフウッと、爪に軽く息を吹きかける。
互いに温度差をコロコロと変える中、男の手はとある画面で動きが止まる。
「んん? み~つけたぁぁああ! グアぁぁああン! てめぇだけは絶対許さねぇえ!」
心もとないテレビ画面の灯りだけの暗がりで、まるで一番星のように光照らされるのは、フレイの腕を幸せそうに抱きしめている、女性から幼い少女に変わったグアンであり、丸いバリアに包まれている姿を映している。
そんなグアンへの贔屓に、男の怒りは収まらない。
事実リモコンでグアンを最優先で攻撃しようと操作するも、何かに妨害されるようにリモコンは思い通りに動いてくれない。
そんな事実に男の怒りと嫉妬が煮えくり返るばかりで、グアンに対するお門違いな憤懣は更に過激さを増す。
「あ、アレかぁぁあああ? アレだなぁぁああぁ、姑息なぁあぁあっ、真似をぉぉおぉおお!」
怒りに任せて不満をびぶちまける男は、自身の分厚い脂肪などなんその、血管が浮き上がるほど恐ろしい見た目そのままに、憎々しく【アレ】に対する不満を喚き叫ぶ。
そんな騒々しい傍らで、女は赤いネイルの美しさに夢中なままだ。




