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終章 私の帰るところ

〈ボコボコッ、ボアッ!〉


 ああ、また鼓膜が破れた。

 唐突に周りの音がこもるかと思えば、すぐに煮えたぎる残酷な音を体感する。

 たった数秒間隔で何度同じ感覚を体感したことだろう。

 当然その程度で済まされるような話ではない。


 マグマの波にさらわれながら、肉体が骨から溶けていく感覚に、再び肉体が細胞が集結して転結していく感覚の結合。

 そんな言葉にできない不思議な感覚が同時に私を襲う。 

 これらは言わば日常、言わば生理現象。

 辛うじて人の形を保っているが、それは丸焦げになった大の字の何かであって、他者から見れば人間だとは想像すらされない酷いものだという実感は残っている。


 私の役目は、使命は終わった。

 光の速度で降ってくる声のシャワーに耳を傾ける多忙は過ぎ去って、私に残ったのは自分に対する自問自答の日々。


 忙しさにかまけて、自分の問題を後回しにしていたのは否めない。

 皆の幸せな声が聞こえる度に癒されるはずが、逆に私を取り巻く環境が大きく浮き彫りとなって、私を追い詰める。

 結局私も一人の人間に過ぎないということ。


 大切な存在たちの幸せを心から喜べない私だからこそ、今もこうして罰を受けている。

 きっとこの場所が私に相応しい環境と固定観念を貫こうとするあまり、より同胞との溝を更に深める行為に繋がるこの鬼畜。

 私が私をもっと大切にできたらなら、この汚い感情は消えるのだろうか。

 私に許される罪はないと分かっていても。

 それでも。


 おい被るマグマに揺られて、罪の重さと闘う日々。

 そんな罪深き私に対して活発に噴気する太陽は、上昇する熱風で身体が千切れそうに、もしくは実際に乱暴に千切られてはまたすぐ繋がる。

 ただここのところ、どこかしら穏やかさを感じる。

 麻痺しているとはいえ、この日常を体感しているからこそ分かる変化。


 恐らくこれはジュノとフレイ。

 肉体を放棄する選択は、予めジュノの独断で宣言されていた。

 そんな二人が宇宙を、どんな劣悪な環境も楽しく巡っているのは周知されている。

 それ故、強大で強靭な能力を蓄えて、多くの可能性まで開花させ、多くの経験を力に変えて帰ってきたと言うのろうか。

 これが、これこそがジュノの最終目的だとしたのなら。


 内は優雅に、外は忙しなく。

 強力な台風のような暴風が一筋、私を襲う。

 それは活発なマグマの流れを一時的に止めて、私を強く優しい力で掬うように引っ張り上げる感覚。

 一筋縄ではいかない中でも、諦めることなく私を優しく包んでくれる。

 けれど。


 私には最愛の彼女がいない。

 例え永遠の死を選んだとしても、出会うことも出来ない現実。

 そんな非情な現実に思わず悲痛な笑みがこぼれて、口の中にマグマが溢れる。

 その熱さが身に、脳にまで到達して染みる中、多くの困難を抱えた心が盛んに生を叫ぶ。


 まるで私の肉体とは思えないほど、熱く、懸命に。

 願うなら、その輪に入れて欲しいと願うのは我儘だろうか。

 今の私は自由を選ぶ権利が持てるほど罪を償うことはできただろうか。

 まだ、償いきれてないだろうか。


 熱風吹き荒れる渦中でも分かる、冷たい風。

 その存在に凄まじい速度で感情を呼び起こされる。

 届く奇跡に思わず期待の手を伸ばすと、心が優しさに包まれたような感覚で、全身が湧き立って救われたい歓喜に満ちる。


 ただ思う。

 もう、限界なんだ。

 罪も罰も忘れて、ただ夢を追いたい。


 そんな心にも疲弊(ひへい)が現れていて、望むのは何のしがらみもない自由への率直な想い。

 太陽に愛された存在が、宇宙に恋焦がれる瞬間、長い呪縛から解き放たれるための背中を押される。

 赤ん坊のように戻ることに恥じる心はどこにもなくて、懸命に優しさを掴む。

 そんなちっぽけな丸焦げの肉体が太陽を飛び出た瞬間、突然塵となって消えた。

 

 太陽の光が弱まって一筋の光が走る。

 目視で見えるほどの、活発な。


 これは呪縛から解き放たれて、自由を得た喜びの、心からの感謝の意だと。

 私は笑う、あまりにぎこちないままに。


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