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第十六章 希望の果てに②

「一体、どういう風の吹き回しかしら?」


 それは必要以上に赤い眼を歪ませた黒塗りのジュノが放った、心からの軽蔑を表現した言葉。


「まあそう言うな。コソ泥も同然に嗅ぎ回るお前のハイエナ根性よりマシだろ?」


 ジュノが睨みつける相手は何とも気怠そうに、しかし確かな口調で言葉を発した。

 あまりに挑発的な物言いに、普段冷静なジュノも流石に鋭い睨みを利かせる。


「だからそう怒るなよ。お堅い頭に血が昇って、今にも火を噴き出しそうだぜ?」


 両手で頭がかち割れた表現を加えながら、わざとジュノの嫌悪感を更に引き上げる謎の人物。


「貴方の言動は常に私の怒りの根源そのものよ。欲に溺れた疚しい魂胆で、その無神経で図々しい生き方を少しは見習いたいものね。まあ、用件ぐらいは聞いてあげるわ。今は05? それとも地獄の支配人か666(ドリットゼクス)でいいのかしら? 又は体よく偽名でも用意したのかしら?」


「今はマサヤと言う名がある。特注で用意した合成品(からだ)だ、敬意を払って俺様の名を呼べよ」


 それはアイリーン主軸で集合体(クラスター)と画策した攻撃から救出したマサヤが、久々のジュノとの再会で交わされた挨拶であり、一見冷静ながらも内に燃える嫌悪感を表現した言葉の数々でもある。


 アイリーンの脅威から救助してくれたというのに、可愛げの無さを披露するだけでは飽き足らず、毒のような嫌味でマサヤを責め立てるジュノ。

 しかしそれには十分すぎる理由がある。


「貴方が故意にフレイを解放(ネメシス)へ誘導させたのは分かっているのよ。敬意を払えですって? 冗談じゃないわ。名を持つなら自身の行動に責任を持って身を慎んでほしいものね」


 止めどなく注がれる怒りも絡みつつ、ジュノ主軸で話が進む事が面白くないマサヤは、堪らず煙草に似た駄菓子を取り出し、爽快な音を立てて噛み砕いてはザラリ一気に飲み込んだ。


「ははは、そりゃ悪かった! 久方ぶりの挨拶だ、大目に見てくれッ!」


「悪名高い貴方だから、最後ぐらい今まで起こした極悪非道な悪業の数々を綺麗さっぱり水に流せとでも? 全く、貴方が絡むと事を強引にねじ込むせいで毎回無茶苦茶だわ」


「おぉ、そりゃお互い様だな、どうも、どうも!」

「一言多い上に、褒めてもないのよ」


 緊迫感ある一触即発の喧嘩をしたかと思えば、唐突に和み出すこの二人。

 お互いをよく知り得たような雰囲気で、かたちこそ違えどお互い、尊重し合っているのだろう。


「で? 本題だが、お前とフレイの存在を《この空間から無にする》って話、気は確かか?」


 先ほどのふざけた物言いから、驚くほど真顔になるマサヤ兼、666(ドリットゼクス)兼、地獄の支配人。

 確認する内容が穏やかではないのだ、真面目になるのは至って普通の感覚。


「ええ。今後、同胞たちが住む星に私とフレイの存在は不要よ。大気や空気となって常に同胞の生活とステラたちを見守る方向で脳に設計を組み込んだのだから」


「ほう、つまりは道連れか?」


 意地の悪い言い方で、ジュノの機嫌を損ねようと画策しているのか、言葉に迷いがない。


「……そうね、そうなるわ。でもこれ以上に納得出来る方法が思いつかなかったの。わざわざ貴方を召喚してまで行う計画なのだから、本気と覚悟はそれ相当と捉えてくれないかしら?」


「ったく、やっぱりお前の方が極悪非道だよなぁ」


「あら、ある意味誉め言葉にしか聞こえないわね、ありがとう」

「褒めてねぇよ」


 この瞬間、黒塗りは消えて無くなり、漆黒の大人のジュノに姿を変える。

 気分がよさそうな雰囲気で、重大な罪を一人で背負う決意など一切感じさせない、ミステリアスな笑顔まで披露して。


「あぁー、この俺様まで最初からお前の駒だったと言うことかよぉー」


 頭を抱えて頭を振って、地獄の支配人は全身でこの事実を、計画を(なげ)く。


「貴方の好きなように捉えればいいのよ。ネガティブでも、ポジティブでも」


「ならば言うが、フレイがお前をどれだけ慕っているか、分かっていながら道連れにする気かよ?」


 今後一生ついて回る道連れという言葉に、ジュノは真顔になる瞬間を隠すことができなかった。

 すぐ立て直すも、地獄の支配人を前にして嘘がつけない本来の性格を証明したも同然だ。

 それを自身もよく理解しているからこそ、降参したようにフレイとの今後を語り始める。


「私とフレイは強大な能力を持ち過ぎたわ。きっともう、現代に存在してはいけないのよ」


「はぁ? 人間と異端が交わらない、完全に二分化された世界を実現出来るってのに?」


 ジュノの計画は順調に育っている。

 地獄の支配人が言うように、全員が幸せを手にして、心安らぐ場を提供できるのも決して夢ではない話。

 つまりジュノとフレイが犠牲になる必要はどこにもないのだ。

 なによりこれはフレイの承諾なしに行動してはいけない計画だろう。


「大気になって皆の生活を見守りたいのよ。朝はフレイが笑顔で皆の健康を祈って、夜は私が幸せな夢を届けられるようにね。天と地が交わる時間、私たちは何度だって出会うことが出来る。毎日のように出会っては別れて、また出会うのよ。それって神秘的で素敵なことでしょう?」


「はー、普通の感覚なら理解しがたい話だが、長年の腐れ縁でお前の人生と活躍を聞いてきた俺様なら、まぁ、そんな理想に辿り着くも分かる気はするな、少し。しかしだ、実のところお前がフレイと面と向かって、理解と信頼を深めることができなかったのが最大の原因じゃないか?」


 地獄の支配人の指摘でジュノの笑顔は完全に消えた。


「……そうね、だからずっとフレイが毎日のように与え続けてくれた真心を残らず返したいのよ。今の私にできる精一杯の誠意で一生を掛けても償うつもりよ」


「お前なー、自己犠牲が過ぎるのも不器用過ぎるのも、フレイが気付いていないと思うか?」


「だからよ、これは私の我儘。でもフレイは必ずついて来てくれると確信しているわ」


 ジュノはペラペラとまるで湧水のようにいくらでも溢れ出てくる、自身の偽善的な発言にとことん呆れているのか、一呼吸おいて失笑するとすぐ真顔になる。

 それもそう。

 今までのフレイへの酷い仕打ちを勝手に水に流して、フレイの心を傷だらけにしたまま、今更繋ぎ留めようと奔走(ほんそう)しているのだから。


「まぁー、確信犯でもいいんじゃね。互いが満足する結果なら、きっとそれが正解なんだろ?」


 ジュノの心に地獄の支配人の優しさが染渡ったようで、逆に気まずい雰囲気が場を包む。


「け、決してお前を肯定している訳じゃないぞッ。答えのない問題に俺様独自の正解の一つを導き出しただけだ。例え多くが反対しようが、絶対に不正解とは限らん。なんせ永遠とも言える時間を費やしながら、堅忍不抜(けんにんふばつ)で踏ん張って立てた計画なんだろ?」


 ジュノたちは既に普通の感覚がどんなものなのか、判断付かないほど感覚が麻痺している。

 つまりは普通の生活を手に入れるためだけに、ただそれだけのために膨大な時間を費やしたと言うことだ。

 まるで息を吸う感覚で犠牲になることに迷いなく、普通を知らないジュノがこの段階でも己を差し出す事しか思い浮かばない辺り、心身は再生不可能なほどのボロボロの状態で、命の限界が目に見えて近いことを示しているも同然に。


「上手く行くかしら?」


「ああ? お前が失敗で終わったことなんざ、今までで一度たりともなかっただろ」


「そうね。結果的にそうなれば良いのだけど」


 この言葉で再び黒塗りに戻ると、何事も無かったように何食わぬ顔でフレイと合流する。

 あれだけ感情乱された割には精神に異常を残さず、熟睡のステラを起こす事も無く、この会話は二人の共通の秘密、又、会話すら無かった事として幕を閉じた。

 十分なコンタクトを取らずとも、まるで初対面であるかのように芝居を始めたジュノとマサヤ。

 心に罪悪感が刺さりながらも、ジュノは平然とした表情で嘘を吐く。


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