第十四章 旅の行方①
フレイとジュノを包む眩しい光は、未だ渦中の状況を完全に遮断されている状況だ。
この酷暑の中でも気候に負けることなく、数台のヘリコプターが映像を記録し続けている。
各プラットフォームへ繋がる映像は今も世界中に配信されていて、当然、各国に散らばる同胞たちの貴重な情報源としても有効に扱われている。
フレイたちが人間業とは思えない激しい戦いを見せるが故に、全てを明確に把握出来るような映像ではないが、緊急性や危機的状況、そして同胞も人間も、ぞれぞれの立ち位置を知るのには十分な材料となっている。
中には感受性豊かだからか、あえて見ることを避ける者も多々いるが、固唾を呑んで見守る者が殆どだ。
太陽はその光をさらに増し、遠く地球の裏側にまで届くような勢いを見せるだけに、数えきれない人間の感情を乱すのだが、行き場のない感情は虚しく心に留まる他、発散の方法がない。
「フレイ……」
ただ虚しく過ぎるだけの時間を指を銜えて見守るだけのステラに、フレイ以外の人物を想う余裕はない。心配で張り裂けそうな心の音は休まる暇はなく、常に自分を責め続けるばかりだ。
〈ドオォォオン!〉
悔しい心情で心を痛ませている中、予想外なそれは起こる。
鳴り響いた摩擦音らしき音は、フレイたちの方向から聞こえたわけではなければ、クレスの方向からでもない。
突然起きた身体の震えから地面に這いつくばり、胸のあたりでつっかえる感覚を脳が盛んに訴え続けている。
ゆっくりと痛むところに手を当てて、徐々に服に染み渡る生暖かい感覚は、決して無視できないもの。
この予想だにしなかった事態が、その身に降りかかるなど誰が思うか。
朦朧となる意識を堪えて、恐ろしい事実と向き合うためにステラはゆっくり後ろ見る。
そこには硝煙が上がる銃を下ろした、マサヤだ。
「マ、マサヤ……、何で? 何で、マサヤが……ッ?」
「悪いなステラ、よく眠れ」
マサヤの放つ言葉は皮肉そのもので、なにより自身を害されたことでフレイの心にどれほどの傷を生むのかと想像するあまり、ステラの涙が一筋、横に流れた。
***
フレイたちを包む強い光は徐々に弱まる気配を見せる。
しかし未だ裸眼で正視するには厳しい状況は続いているようだ。
そんな渦中で体温調節が自力で行えない瀕死のジュノには、体温を徐々に下げてくれるフレイの身体ほど、安全で快適な環境はないだろう。
焦る気持ちを抑えて、ゆっくり体温を下げる。
ジュノがこの状況、この状態で生存出来ているのは、今も00がジュノに憑依している証拠だ。
これを幸運と取るか、悪運と取るか。
順調に体温を下げて行くと、ジュノも同様に下がる傾向を見せ、最大の難関は突破出来た。
この好転に安堵を得るも、まだ気の抜けない段階を抜け出せてはいない。
それでもフレイの中で確実に希望が広がったに違いない。
更なる希望を抱いて、引き続き体温を下げていく。
〈ドォォォオン!〉
唐突にフレイの身体にめり込んだ弾丸は、心臓付近の骨に邪魔されたことで威力を失くすものの、標的であるフレイに自身の存在を気付かせるのには十分なきっかけを得る。
「ま、マサヤ? ……な、なんで?」
渦巻く違和感から振り向いたフレイは、次々起こるこの想定外の事態に頭が着いてこない。
ただマサヤを見れば、視野に入るのは大量の血を流すステラの凄惨な姿。
「そ、そんな、嘘だ。……ステラ、……ステラ、す、すて、……ら、」
視野に広がる現実を到底受け入れられないフレイは、ジュノを抱きしめたままステラの元へゆっくり身体を動かすも、フレイの心身は急速に自由を奪われていく。
完全無欠のフレイの身体が、何らかの作用によって早急に侵食され、順当なら到底あり得ない変化で、数秒後には全身が鉄のように硬く固まり、脳への命令は一切行えない事態になる。
「はっ、予想以上かよ。言っただろう、フレイ。とっておきの切り札ってやつは一番最後に取っておくべきだ。まあ、お互い、地獄で会おうぜ?」
この場で、この状況においても意気揚々と発言するマサヤ。
なにより自身が使用した銃を今になって物珍しそうに眺め、関心を湧かせる様子が殊の外フレイを窮地に追い込んでいく。
フレイの心は置き去りのまま、あまりに過酷な出来事が一度に起こった現実は、フレイの悲しみと怒りに拍車を掛け、感情は崩壊へ移行する。この瞬間、フレイは解放を発動したのだ。
融通の利かない心は本能が巧みに懐柔することによって、解放をより延髄に廻す。
鎮圧させたマグマが再び心身を侵食させて、星も、宇宙も、崩壊へ導く方程式を脳が勝手に開放させていく。
マサヤの引き金がどん底の未来を導くように、あまりに未知数な能力を秘めたフレイの能力を発揮させるための準備は、素早く、正確に、確実に動き出す。
***
「ッ? ジュノッ……、フ、フレイッ……?」
フレイとジュノを包む強い光は急激に収まりを見せ、遂にはクレスたちにも状況を確認できるようになったが、この二人の現状に一瞬何の言葉も発せないほどの衝撃を与える。
ジュノの全身は焦げ残った皮と骨も同然で、今にも朽ち果てると思わせるほど細く無残であり、生死すら判断できない姿形。
しかしそれを越す驚きの的となったのはフレイの方だった。
最初は烈火のごとく鮮やかな紅だった。
それが突然、謎の黒い物体がフレイの身体へ侵食を目論み、そのどす黒い物体は急速に増殖させて、容赦なく全身を蝕んでいくのだから。
「な、なんなんだ、あれは? まるで全身悪性腫瘍のようなものは……ッ?」
その歪な形は見るからに危険な物体と判断が行きつくほどの不気味さで、統一性はなく、あまりに不格好な姿形を披露している。
いとも容易く侵蝕が全身包囲を完了させた頃には、空が同調したかのように快晴の空は急激に気候を変え、色を変え、最終的には空間も変えた。
灼熱の酷暑とはあまりに極端で、気候が一気にひっくり返ると真冬以上の極寒へ気候を急変させながら、空は星さえ見えない一面の闇へ様変わりすると、フレイとジュノは天へゆっくり昇って行く。
この気候変動は地球上に生きる生体を先ほどの酷暑より、より地獄へ落とした。
〈カ、カッ、カッ、カッ、カカカッ! カカカカカカッ!〉
フレイたちの現状を逐一配信していたヘリコプターは、操縦が出来なくなり次々と落下。
どうやら地球に飛び交う電波が完全遮断に陥ったようで、電機や回線はもとより蓄電池すら役立たず、唯一の望みであるはずの火を焚く行為も無意味となり、動力のない環境の中で人間たちは唐突な寒さに耐えながら暗い世界に身を潜め、小規模な混乱が大規模な恐怖の連鎖に変わる合図を悟り、この地獄を粛々と招き入れる他ない事態となる。
そんな異常事態の中、世界各国に散らばる同胞にも通達されている。
皮肉にも光を失った世界の中で、心が、魂が、希望という大きな光を灯すのだ。
例え多くに指を差されて冷たい眼を向けられようとも、底なしの沼のような旅路の終焉を待ち望む強い想いを消し去ることは勿論、無かったことにも、忘れることさえできないほどに根深いものにまで育ったもの。
それぞれが深い傷を負い、過酷な運命を背負った現世で、何かしら自身に出来ることを模索する同胞たち。
それはジュノとフレイへの、心からの忠誠と敬意を示すものだった。




