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第十一章 神と人間のオリジン②

「始まりはただの空間に渦が誕生し、生命の祖が芽吹いたばかりの遠い過去に話は遡るわ」


 全てはジュノたちと人間との、思想の相違が事の発端と言っていい。


「元は同じ細胞を与えられ、共に健やかな成長と進化を約束された存在同士。そんな第一線で【神の子(エヴァン)】と【神の子(エヴァ)】が成長著しく頭角を現した背景に、この頃から同族間による細胞内の精神搾取(パラノイア)が苛烈になり、分子の頃から精神的な弱肉強食にまで発展を遂げた結果、敵の品位と人格を著しく低下させて成形を行ったのが、どの世界線でも逃れられない地獄の始まりよ」


「俺たちは奴らの成長の速さを越えることは出来なかったのか?」


精神搾取(パラノイア)は安直なドーピングのようなものね。なにより厄介だったのが、依存するのが自身だけでは飽き足らず、罪を罪と知ってか知らずか、仲間を増やし続けたことよ。結果として、その初動に敵うわけないでしょう」


 これは息を吸うような頻度で精神搾取(パラノイア)に依存させ、良心を欠損させた非情な行いの数々が巡り巡って返ってきた最大の要因であり、それが人間という罪深き生物の誕生と進化を促した。


「エヴァンとエヴァは人間側の始祖であり、エヴァンは男性に、エヴァを女性に封鎖させて長い成長を遂げた末に、進化の頂点となる人型が地上に降り立つという、本来なら敬われるべき存在であり、重責な役割を担うはずの最初の男女だったとも言えるわ」


「ああー、大体読めた。人間の始祖は与えられた能力を当然の権利として(おご)った訳だな」

「そうよ。故に私たちをいかに有利に、有効に利用するかにしか知恵が回らなかったの」


 恐ろしいことに当時の人間は、ジュノたちより遥かに早期の段階で自我を開花させていた。

 また赤ん坊のような意識の中でも、自身の利に聡い部分も悪気なく披露していて、一線を越えた感情や欲望を抑えられない生物として、成長して行くこととなった。

 まだ教養を積めない段階とはいえ、後先考えられない無知が故に起こした結果とも言える。


「そんな誕生間もない大空間で、覚束ない暗黒に異彩を放つ二つの分子が生まれたの」

「アンタとフレイ、か?」

「……ええ」


 のちに《星の誕生を助ける宇宙を創るジュノ》と《星の発展を助ける太陽を創るフレイ》は、真逆の場所と環境で育つも、〈芳縁(ほうえん)を約束された存在〉としてそれぞれ威力を高めていた。


「巡り合うきっかけと機会が与えられない私たちのために、《時と空間を延髄に廻す同胞の分子》が追って誕生するはずだったのだけれど、非情なエヴァンとエヴァの策略に阻まれ、無理矢理覚醒させた人間の分子による非情な虐待も障害となって同胞の成長が滞り、無念の失脚の後、同胞たちは一時衰退せざる得ない判断を余儀なくされてしまったわ」


「まさに社会に蔓延(はびこ)る、計画性あるしたたかな大人の集団イジメみたいなもんか」


 なかなか痛いところを突くクレスだが、例えとしては秀逸(しゅういつ)だ。


「……この状況を知る機会が得られなかった私とフレイの伝言役を獲得して、大ぼらを吹き続けながら私たちの橋渡しを行い、高い信頼と地位を確立させて、物事の順序を完全崩壊させた者がそれぞれ飛躍する事で、この関係は修復不可能な底の見えない溝を掘ることとなったわ」


 ジュノとフレイ。

 それぞれに深い親交を構築できた人間は、更なる地位向上に野心を抱き、それに伴う平凡な日々と現状に飽き飽きしていた。

 常に何かしら刺激を求める傾向にある人間たちが異常に増殖していく事態は、近く不穏な空気を呼び込むに難しくない。


「この時私は……。いいえ、正確には【現代のジュノ】ね。彼女は当時政務を一斉統括して、一蓮托生を用いて極楽浄土まで創り上げ、人間に最良の環境を与えていたのよ。それでも彼女への批判は無くならず、人間に与えられた不遇な運命を嘆き訴えるばかりで、その言動に一抹の疑念を抱えつつも、懸命な判断で彼女が業を認め、償いを講じるばかりの毎日だった」


《地獄を創るのがフレイ》なら、《天国を創ったのがジュノ》になるのは自然の成り行き。

 なによりその当時、人間に怖いものなど無かったのだから、状況はより深刻になっていく。


「それでも人間の欲とは底知れず、最良の条件に甘んじつつ法外な権利を主張し続け、挙句、現代のジュノの地位に対しても不満と嫉妬の嵐を起こす始末だった。彼らは苦悩する彼女の身体を蝕むように侵食を開始させて、骨の髄までしゃぶり尽くすように黒で汚染された悪性腫瘍は、洗脳と言う名目の激務に耐えることで彼女は致命的な追い打ちを掛けられたの。様々な弊害と圧力によって精根尽きた彼女は、遂に命を奪われる最悪の事態になったわ」


「ハイエナ化した人間の餌食になったのか?」


「普通に時が過ぎるだけならそうなったでしょうね。でも彼女は死滅した肉体に細工をしていて、死した後すぐ自然発火を起こさせて塵すら残さず、存在そのものを抹消させたわ。ある程度この理不尽(みらい)に予測を立てていたのよ」


 死後の肉体は分解・分散を脳の神経組織に事前に組み込んでいて、痕跡残さず消失させた。

 つまり現代のジュノが、最初で最後の命を永久に抹消された瞬間でもある。


「そんな彼女とは異なる絶望に追いやられ、独自の進化を遂げていたのが……――」

「フレイかッ? いや、過去のフレイだから00のことだな?」


「正解よ。彼女の後を追って成長するはずだった00は満足に肉体すら組み立てず、人の形としては不完全で、重度の脳障害を抱えて判断が鈍ることで人間を腹心の友と誤認したわ。これは壮絶な虐待の末に負わせた後天的な脳障害に他ならないの。それにより00は満足な成長も望めないまま、心身共に暗がりの中で過酷な環境を耐え凌ぐだけだったある日、転機が訪れたわ。彼女が消滅したことで出来た亀裂、【ブラックホール】の誕生によって……」


 ブラックホールの正体不明の黒い渦の不気味さは人間にとって格好の餌食であり、面白い玩具が出来たと喜ぶばかりで疑念すら抱かない。

 無限に使える00という玩具が手元にあったのだから。


「彼らは有無を言わさず軟弱化した00をブラックホールへ追いやるのだけど、ブラックホール内に存在する【ホワイトホール】へと00は流れ、健全な心身の成長を育てる場を得たわ。これは消滅した現代のジュノが残した、未来への布石、【遺産】の一つよ」


 恐らくフレイの、00の今後を危惧した、最初で最後の救済措置だったことだろう。


「自身の存在を抹消しても尚、00を守るために培った宇宙を急転直下、築いた近代的な超古代文明と共に、星も、太陽も、宇宙すらも完全滅亡を余儀なくさせたのよ、彼女は」


 現代のジュノの分子が死滅した後の世界は、氷河期のように凍てつく極寒が訪れ、ただ真っ白な空間が広大無辺にあるだけの、死の世界へ変貌を遂げたのだ。


「でもね、悲しい話だけど彼女が塵一つ失くしたことで、ステラの存在が浮上したのよ」

「過去と未来が出会ったことで、ステラの分子は事前に存在していたんじゃないのか?」


「原点の出来事は人を形作るための細胞が揃っただけの不完全なもの。彼女が完全に消え去ったことで空間にステラの微かな魂の存在を察知出来たことから、私たちはこの過程に至る仕組みにメスが入れるきっかけを得たのよ。大体、人間誰しも生まれた時から異次元に頭が冴えるわけは無くて、失敗から物事を学ぶのは私たち異端でも変わらない感覚よ」


「まあ……、言われてみればそうなるよな」


 恐らく母体となる現代のジュノの死を感じ取ったステラの分子が、無意識に危機を悟ったことで、未来に継承を鳴らしたのだろう。

 生きたいと願う命の灯火が更に強く輝いたのだ。


「その頃からよ、私たち上位九名の身体に【数字】が刻まれたのは。平行世界を行き交う中、出会うべき当人へ帰還させるため、入り乱れる空間のブレを正すための道標として、数字は必要不可欠だったの。まあ、不意に平行世界へ呑み込まれないための護符のようなものかしら」


 抹消した現代のジュノの意志を受け継ぎ、新たな生命の祖となった人物こそ00だ。

 数字の重要性は高く、この世に心身が具現化できている実感を掴む確固たる証となる。

 現代のジュノが消えたことで、これ以上犠牲を出さないための試行錯誤の末の、新たな法則だった。


「まさに決死の命のバトンだったってことか」


「そういうことね。第一に、《生命の誕生を延髄に廻すジュノ》と《潤沢な再生を助力するステラ》が欠けていては、全生体は満足な成長を遂げることが出来ず、姿形も歪なままでしょう。私とステラが共存してこそ、《生物の進化を邁進させるフレイ》が活躍する場を得るのよ」


「様々な紆余曲折の末、00が新たな生存戦略に舵を切ったということだな」


「そうよ。00は地獄という一種の完璧な亜空間を築き上げる類稀な才覚を応用して、この広い宇宙を亜空間で満たしながら音速の光線が通る網状のパイプを全生体に繋げて、生まれたばかりの地球をも包み込んで、緻密で広大な光のネットワークまで構築させたの。これは重要な【パンドラの箱】として、今も00の手によって厳重に管理されているわ」


「植物まで含め、全生体を光の網のように繋いで管理しているのか? ……とんでもないな」


「太陽の中で今も生き続けているのよ。意思を持つ光となって、空中を浮遊していても特別不思議ではないわ。もちろんのこと、この会話も頭で想像した発言さえも全て丸裸よ。ただこの世の大きな歪みの中では自立困難なステラがいるわ。数ある平行世界の中でも生存が確認できたのが僅か二例の、貴重な存在がね」


「素直に考えて過去から召喚されるより、未来からの方が明らかに障害が多いだろうからな」


「未来でステラはアイリーン配下に置かれる以外に、生きる術を持たなかったの。想像を絶する虐待と拷問を受けたことで、初期の00と同様の重度の脳障害も見受けられらわ」


「それは……、ステラが子供の感覚から抜け出せない今と何か関係あるのか?」


 未来でのステラの過酷な仕打ちを聞いて、クレスは思わず身を乗り出す。


「膨大な時が放つ自由を握った00とは違って、心身を癒しながらリハビリに割く時間が全く足りなかったことから、現段階のステラの性格は実のところ自然で健全な成長の証ね」


「なるほど。経緯が分かれば謎だったステラの発言や行動にも合点がいく」


 クレスにも現在のステラが比較的幸せな環境であることは、言動でよく理解できていた。

 ただあまりに心が無垢すぎて、それはそれでクレスに疑問が募っていたようだ。


「今は自我を少しずつ、芽吹いている段階ってことだな」


「それでも私たちが一番懸念しているのはステラよ。あの子を守るために奔走しているの」


「それはつまりステラを蔑ろにされたことで、アンタらの逆鱗に触れたってところか?」


 理解あるクレス言葉で目を固く閉じて、再び開くと怒りに震える口を開ける。


「……人が人として形を成せるのはステラの功績なのよ。それを形状が気に入らないからと頭ごなしに罵倒したわ。責任転換も甚だしい上、ステラを手中にしたアイリーンからのお零れに集結する身も蓋もない者たちを、これ以上守る必要がどこにあるというのッ!」


 普段の冷静さを欠いて、酷く激昂するジュノに驚くクレスは何の言葉も見つからない。

 クレスが思う以上にステラを想う発言は、いい意味で期待を裏切った真意であり、ジュノへの信頼を一気に押し上げ、確固たるものにして大いに心揺さぶられた。


「私たちは正攻法で人間との決別を実行するため、長い人生を人間に捧げて来たのよ。何一つとして嘘も言い訳も、謝罪すらも通らない強固で完璧な計画でね」


 生を受けてから今までの、気の遠くなる年月をかけて練られた計画だろう。

 成功する確率は百パーセントを優に超えているのは間違いなく、ただそこに行き着くまでの経緯は想像を絶する。


「しかしだ、最初に地球を改革とか言っていたが、地球を人間から奪う気なのか?」


「奪う? 今更そんな必要はないわ。責任を背負って未来永劫償ってもらうつもりよ」


「……なるほど。この目に焼き付けたいものだな。アンタの計画の全貌、その全てをな」


 ジュノの意地と覚悟をぶつけられて、その壮大な計画にクレスの心を痺れさせる。

 きっとこれはこの先の未来へ忙しなく押し続ける、一途な心そのものなのだろう。


***


 あの衝撃と決心を思い出すクレスは、相変わらず顔をしかめたままだ。

 ジュノの心を知る度に、浅はかだった自身の考えやフレイに対する強い後悔、罪悪感がクレスの心に大きな痛みとして生じることで、不甲斐なさから更に眉を歪ませてしまう。


「怒るのも当然よ。私は貴方の未来を奪った挙句、ステラとも……」


 いくら忠告してもジュノの謝罪は止まることを知らない。


「別にいいさ、過ぎた過去に未練は持たない」


 当初、例えるなら口煩い小姑そのものと強く印象付けていたクレスだが、いざ蓋を開けてみれば、ステラ以上に純粋なジュノが存在している事実は衝撃しか与えない。


 なによりジュノに圧し掛かる重圧は桁違いであり、精神の限界などとうに過ぎ去り、骨の髄まですり減らす現状は、詳しく聞く必要もないほど凄惨な姿が容易くイメージ出来る。


 痛みが麻痺したジュノが無理をする度、クレスの心も傷を負い、痛みと共に血が滲むような感覚。

 問題は山積する一方だというのに、クレスには手繰り寄せる解決の糸が見つからず、この不確かなものに翻弄され続けている現状から、何一つ抜け出せそうにない。


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