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零の継承者たち -天子の揺籃ルネ-  作者: あず
天子の揺籃ルネ
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第十八章 心の行方

「ガルガさんッ!」


 怒り狂うガルガに立ち阻まれて、苦戦を強いられるクレスとランディ。

 普段の物腰の優しいガルガの欠片もなく、ただただ怒り任せて攻撃してくるのだから、下手に反撃できない二人は、なぜガルガがこんな暴挙に出てきているかの事情が見えてこない。

 ただアディに対して恨みつらみを呟くことから、なにかしら誤解が生じていると見る。


「ガルガ、正気になれッ! アディは俺たちの仲間だろ! こんなことより話合いが必要だ!」


 クレスからの説得を聞いても尚、怒り狂うガルガの暴走は止まりそうにない。


「あの女ッ! あの女は絶対に許さないッ! どこだ、どこにいる? どこだッ!」


 普段力任せの暴走とは無縁だったガルガを見るに、誰かが悪辣な何かを吹き込んだとしか考えられないこの状況。

 つまりはこの三者の攻防を尻目に、そそくさと逃げていく国王とエダンにクレスの疑いの目が向けられた。

 この広い空間を大きく使って、俊敏で軽やかに空中を手玉に取ると、いとも容易く国王とエダンの前に立つクレスがいる。


「このまま逃げ出せると思うなよ、ガルガの怒りの引き金を引いたのはアンタらだろ?」


 クレスの表情は憤怒(ふんぬ)から酷く恐ろしい顔つきで、更に首には04の刻印が迫り出した。

 そんなクレスに恐れをなしてか、エダンの前で国王は一から十まで全てを吐き出す。


「お、俺たちはアディの侍女の遺品を見せたまでだ! 想い人だそうだ、ご愁傷様だなッ!」


「想い人? ……あのアディの専属侍女が、か?」


 記憶を辿れば、確かに専属侍女が亡くなってすぐ、ガルガの態度は変わった。

 あの時からなにかしらを悟ったのだろう。

 極めつけ確信を与えられて、その悲しみと怒りは自身の中で解決できなくなり、爆発する他、ガルガは精神を保つ方法はなかったと見る。


「何を見せた? ガルガに一体何を見せたッ!」


 相変わらず恐ろしい形相で、仮にも一国の王を睨みつけるクレス。

 そんなクレスの言いなりになるプライドの欠片もないアゼレッダ国王は、自身の命のために全てを吐いた。


「実にしょうもないものだ。まさか単なる子供のおもちゃで暴挙に出るとはな!」


「子供のおもちゃ……?」


「そうだ、彼奴はただの球体の積み木なんかで物思いに(ふけ)ったのだッ!」


 アゼレッダ国王との価値観の違いからか、他人の行動や思い出に対して何の配慮もなく、いかに自身の感情だけで自分中心に世界が回っていると勘違いしている言動の数々。

 到底王の器に相応しくない人物なのは確か。


「も、もういいでしょ、協力したのよ? いい加減、私達を逃がしなさいよッ!」


 王が王なら聖女も同等。

 あまりに呆れ果ててものも言えない。

 逃げ腰のままクレスをそそくさと抜かしていく国王とエダン。

 散らかすだけ散らかして、後始末はクレスたちに擦り付ける、その当然と言わんばかりの態度に嫌悪は増す一方だ。


「状況は分かっても解決の手立てが残されてないな。アディは当然、俺たちとも話し合いの期待ができない以上、……荒治療で行くしかないな」


 一人相手をしてくれているランディの傍まで戻ると、真剣な顔つきで言葉を発した。


「専属侍女との話は聞いたッ! 関連も経緯もまだなにも分かっていないだろう、今はとにかく落ち着け! 暴れているだけでは解決にもならないのは、アンタなら分かるはずだッ!」


 クレスの付け焼き刃で事が収まるなどと、今のガルガに期待はしてはいない。

 ただガルガを刺激して、怒りの頂点まで上昇させることがクレスの目的だ。


「アディッ! アディィィイイ!」


 息は粗く、眼は流血して。

 自我を失くしたも同然のガルガに対して、クレスはある切り札を身体から抜き出し、その手に握る。

 それはクレスの体内で分解・改造させた小銃だ。

 ガルガの鍛冶屋で様々な完成品を買い漁ったものを、クレスの体内で加工したとみて間違いない。


《ドォン! ドォン!》


 まだ銃という物も言葉も存在しない時代で、未来の文明の利器を使用するのは好ましい行為ではない。

 しかし今はガルガを助けるために、確実に戦意喪失させる方法が必要だった。


「ぐッ、はぁ! こ、小僧ぉ……」


「アンタは一旦黙って冷静になれ! ランディ、針を抜く、手伝ってくれ!」


「針、だと? い、一体どこから?」


「……関心しないだろうが、二代目エダンに接触された時に服用させられたものだ」


「そんな、気味の悪いものをッ!」


「だが今はこれでアンタは大人しくなった。それが答えだろッ?」


 麻酔で身体の自由を失くしたことで言い返せないのか、このクレスの言葉で完全に抵抗しなくなったガルガ。

 ここに至るまでの自身の言動の情けなさからか、悔しさが溢れ出す。


「ガルガさんは僕が背負います! さぁ、早くアディ姉さんの所へ一緒に行こうよ!」


 朦朧とするガルガをランディが背負う反動で、ポケットから球体の積み木が落ちる。

 すぐ気が付いたガルガだが、焦ったのは一瞬で、クレスが拾うと確信ついた話を展開させる。


「で? 想い人だって? アディの専属侍女が?」


 あまりの居心地の悪さから、クレスと目を合わせないガルガ。

 それでもクレスは話を続ける。


「大切なんだろ、この積み木。しっかり持ってろよ、また落とすぞ」


 予め根掘り葉掘り言わされる事を覚悟していたのか、クレスの発言はあまりに予想外。

 刻まれている文字にすら触れず、何も明らかにしないままこの話を終えようとするのだから。


「片思いだった、だが完膚(かんぷ)なきまでの失恋と知った。まさか、アディさまに負けようとは……」


「……だからその積み木に《アディルメル》と彫られているのか?」


 女性の片手でも隠れる大きさの、さわり心地の良いよくできた球体の積み木には、懸命に掘ったようで、少々歪な線で、しかしとても丁寧に掘られている。


「この積み木は当時、僕が彼女、ゼファの王宮行きが決まったとき、好きな人の名前を彫ると願いが叶うと適当な事を言って渡したものだ。本当に、まだ持っていたとは……」


「ん? じゃあ、侍女さんとガルガさん、単なる失恋ではないと思うけどなあ。だってガルガさんの言葉を信じてずっと大事に持っててくれたんでしょ?」


 ランディの見解を聞いて、アディとゼファ、そしてガルガの立ち位置がガラリと変わる。


「きっとガルガさんも同じくらい大切だから、侍女さんは疑わずに信じたと思うんだ!」


「そ、そうか……、そうだったら、……良いな」


 先ほどまでの闘争心は完全に失くして、穏やかなガルガに戻ったことで、三人の間に温和な雰囲気が漂う。

 しかしそんな時間は、突然壊れてしまう。


〈ゴゴゴッ、ゴゴゴゴゴゴゴッッ!〉


 最初は小さな地響きから始まり、徐々に大きくなる不吉な物音。

 見るからに人気のなくなった閑散としたアゼレッダ城は、不気味な予兆を作り出して、この現象の正体をすぐに見せた。


「なあ、これは……、まさかッ!」


 三人に思い浮かぶのは、アゼレッダ城の崩落の足音。

 不吉な予感は見事に的中したのだ。

 最初は天井の隙間から埃と砂が落ちて、建物が揺らぐと天井が次々落ちる。


「脱出は俺が先導するッ! 必ずついて来いよ、ランディ!」


「はいっ!」


 次々と崩落していく大きな城は、あまりに不自然に崩れていく過程に疑問が湧くが、そんな考えが及ばないほどの早さで崩れていくのだ。まるで故意に破壊でもしているかのように。


「クソッ! 道が塞がれている。ほかの道はッ?」


 ガルガを背負うランディの負担を最小限に抑えるために、崩れ落ちる柱を持ち上げて隙間を作る、そんな気の遠くなる作業を繰り返している最中、ある人物の名がクレスの耳に通った。


「アイリィィイイン!」


「ん? アイリーン? アイリーンだって?」


 それはアディとガルガが教えてくれた、最も注視すべきと敵の名。

 そんな最大の敵と言える人物の名を、力強い発声と自信に満ちた発音を持って、比較的近くで響くではないか。

 この状況で興味を示すことへの罪悪感を持ちながらも、身体は声の方向へ興味は駆られる。


「フ、フッ、フレイィィイイ!」


「……フレイと言ったか? 誰だ? 一体誰の事だ?」


 いつも冷静で現実的なクレスが、単純単調な興味に誘われて、心臓の音も高鳴らせて、その純粋な興味に心惹かれる。

 まるで強い引力で引き寄せられるかのように、クレスの中で甘い悪魔が囁き、瓦礫を避けながら誘われるまま、その正体を目にしようとした。


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