第十七章 二人に敵なし①
「さぁ、ランディ。ゆっくりと楽しみましょう?」
一時意識が飛んだランディにエダンが片手でトンッと肩を押すと、簡単に柔らかなベッドの中に沈む。
無抵抗な姿が了解の合図と受け止めたエダンは、ゆっくりランディを覆った。
「まず私がリードするわ。貴方はそれをよく覚え、……て? な、なに? 何よ、この音……ッ?」
速足で廊下を走る音がどんどん近付く不思議に、エダンの関心が扉に注力された瞬間だった。
「エダァァァアアアアアン!」
血相を変えて豪快にその扉を開いたのは、アゼレッダ国王。
すぐ後ろにはクレスもいる。
ランディの上に乗るエダンは、何の言い訳も通らない、決定的な証拠を押さえられたのだ。
「エダン! お前と言う奴はッ! どうしてそう淫乱なのだ?」
「それは貴方が私の願いを全部叶えてくれないからでしょう? まったく、一体誰のせいだと……」
罪悪感もなく言い訳もなく、多くは国王にあると責任を擦り付ける、そんなエダンにこれ以上文句も言えない国王は、爪を噛んでこの理不尽に耐えることしかできない。
「ランディ、ランディ大丈夫か?」
隈なくランディの無事を確認するクレス。
多少衣服の乱れはあるものの、最悪の事態になる前に駆けつけられたのは確か。
しかし、どこかしらランディの様子がおかしい。
「ランディ? おい、ランディどうしたッ?」
安らかに眠ったかのように閉じていた綺麗な黒い瞳を突然開眼して、その虹彩を輝かしい金色に変えた瞬間、ランディの姿を大人に変えていく。
まるで光り輝く太陽のような、そんな暖かな光に包まれながら、ランディは光を体内へ吸収していくように見える。
まるでこの光を自身の血肉の材料にして、身体を創ったかのように思えるほどに。
「金色の瞳に……、銀髪? まさかランディの祝福が発動したのか?」
小さな肩を支えていたクレスの補助も必要ないほどに、大柄な男に変わっていくランディ。
直視できないほどの光を纏った瞬間、逞しい姿のランディが目を覚ます。
「く、クレスさぁん! 良かった、また会えたッ!」
身体は大柄な男のままでも、中身はまだ幼いランディ。
いつもの感覚でクレスに抱きつく。
「ら、ランディ、……流石に、その姿で抱きつくのは止めてくれ……、」
「え? そ、そうなの? ……ごめんなさい」
若干鳥肌を立てながらランディの熱い抱擁を心底拒否するクレス。
それもそうだ。
最初は赤ん坊の可愛らしいホワイトライオンから始まり、途中十代前半ほどの少年となり、最終的に体格の良い青年に変われば、クレスの複雑な心境も幾分理解できる。
しかもランディに至っては幼い感覚のまま、身体だけ大きくなっただけと言う非常に厄介なこの状況。
ただ素直に言う事を聞くこの純粋さがクレスの唯一の救いとなっている。
「そうだ! クレスさん、アディお姉さんが大変なんだ! 助けに行かないとッ!」
「アディが? ……と、その前に片付けないといけない大事な仕事があるんだけどなッ?」
再開の喜びを分かち合う間に、多くの応援を呼んだ国王とエダン。
互いの意見は合いそうにないが、目指す所だけは同じなようで、クレスとランディの排除に意気投合したようだ。
「フンッ、お前たちをルネへ向かわせるわけにはいかぬ!」
「私を受け入れずに男を受け入れたですって? 私の心を弄んでおいて、酷いわ!」
クレスとランディ。
共に悪寒を感じて身体中に鳥肌も立てながら、お互の青ざめた表情を確認してエダンの妄想に『それ、誤解ッ!』と同時に心の中で突っ込みを入れるような顔つき。
そんな被害妄想全開のエダン達を守るように、じりじりと敵に回り込まれたこの状況。
「……ランディ、戦線に立つのは初めてか?」
「はい。経験はありません!」
「俺も、昨日までは初めてだったさッ!」
多くの兵士に次から次へと囲まれて、若干不安なランディはクレスの言葉に励まされる。
子供の身体を有効活用して、しなやかで軽やかに敵の懐に入るかと思えば、大人の全力に負けない腕力を見せるクレス。
ランディに至っては自慢の爪と硬い歯を見せて威嚇している。
「ランディ、これを受け取れッ!」
「へ? あ、ありがとうございますッ!」
状況が不利なランディに、クレスは事前にガルガの鍛冶屋で調達した同じ形の二つの剣を手渡す。
回る二つの刃物を危なげなくキャッチすると、水を得た魚のように動きが滑らかに。
大柄の男というのにフットワークは羽根を生やした鳥のように軽く、とても初陣とは思えないランディの戦力に、逆にクレスが助かるほどの、強いては嫉妬するほどの優雅さ。
「ク、クレスさん! なんで敵は緑の血を流しているんですか?」
「あぁ? お前知らないのか! こいつらはもう人間じゃないんだよッ!」
「へ? じゃあこの人達は一体何者なんですか?」
「さぁな、詳しくは俺にも分からん! 答えは自分自身で見て考えろと言われたッ!」
「だ、誰からですか?」
「それは……、その、ひ、秘密だッ!」
「えぇッ?」
容赦なく敵をなぎ倒して心底がっかりするランディに、なぜか急に恥ずかしくなったクレス。
どうやら地獄の支配人は、自発性を高めることに重きを置く指導者と改めて認識したようだ。
そんな激戦の中で、軽快な会話を成り立たせるこの二人はあまりに異次元。
それをまざまざと見せつけられた恐怖から、国王とエダンはそそくさと逃げ始める。
「あ、待って! 逃げないでッ! ……ッ?」
二人の逃亡を阻止しようと駆け出したランディを、思いもよらない相手が突き飛ばした。
「なッ? 何を突然、ガルガッ!」
今、目の前にいるのは間違いなくガルガ。
しかしどうも様子がおかしい。
「アディ……、アディは何処だ? あの女は俺が殺してやるッ!」
眼は赤く鮮明で、我を忘れて怒り狂いながらアディを探すガルガが、クレスとランディの前に立ちはだかる。




