別れの挨拶
あっという間に学校生活の日々は過ぎて行った。
ちなみに俺とシャムさんが犯人だということは全くバレていなかった。
そして、今日はとうとう学校生活最終日。
俺とリリーは多方面に挨拶をして回っていた。
「では理事長、お元気で」
「ええ、キリュウ公爵もお元気で」
俺とリリーは今回の転入の際にお世話になった理事長にお礼を言って、理事長室を後にする。
理事長と会うのは非常にやましいのだが、こちらもバレるわけには行かないので、何食わぬ顔をして話をした。
「じゃあ俺は自分の世話になった人に挨拶してくるから、リリーも適当に挨拶しててくれ」
「分かりました。私も仲の良かったクラスの方に挨拶してきますね」
理事長室前でリリーと別れた俺は実践剣術科の教室へ向かう。
「ブリュード、ちょっといいか?」
「あ、ハヤト先輩こんにちは。何ですか?」
「学園を出て行く前に挨拶しておこうと思ってな」
「あー、そうなんですか。また居なくなっちゃうんですね。転入してきた時はびっくりしましたけど、今回も一ヶ月だけなんですね」
「ああ、今回は少しだけ学んでおきたかっただけだからな。忙しないようだけど、またさよならだ」
するとブリュードは少しだけ笑って、
「本当に忙しないですね。だからお詫びに今度剣術を教えてください」
「分かった。いつか必ず教えに行く」
「ならよし!またいつか会いましょう!」
「ああ、またな。ブリュード」
「それはそれとして、またヘーゼリッタって呼んでくれないんですか〜?」
いやらしい笑みを浮かべるブリュード。
完全に俺をからかっている。
「うるさい!あれはたまたま呼んじゃっただけだ!」
俺はそれだけ言って、教室を後にする。
俺の交友関係は残念ながらそこまで広くないので、挨拶はこれで終了だ。
「ちょっと待てやぁぁぁ!!」
俺は後ろから腹に手を回され、そのまま後ろに反り投げられる。
ジャ、ジャーマン・スープレックス!!?
咄嗟のことで俺は上手く受け身など取れるはずもなく、地面に大激突。
「ぐはぁっ!」
強烈な痛みが俺を襲う。
「アンタ、先輩に何も言わずに立ち去ろうってのはないんじゃないの?」
こ、この声、シャムさんか……ちょっとは加減出来ないのか?
「す、すいません。シャムさんにはこの間会ったし、もういいかなって」
「適当ねぇ……まぁいいわ。確かにアンタとはそこまで疎遠になりそうな訳じゃないしね」
「会おうと思えばいつでも会えますからね」
何せこの人は基本エリノアさんにくっついているから、エリノアさんの所に行けば一発なのだ。
「だからって挨拶しに来ないのはどうかと思うけど」
この人も意外とかまってちゃんだよなぁ。
「ご、ごめんなさい。じゃあ、さよなら、シャムさん。また会いましょう」
「え、あ、さよなら。またいつか……」
まぁシャムさんに対してはこれぐらいでいいだろう。
俺はシャムさんと挨拶して、逃げるように今度こそ教室から出る。
特にやることもなくなってしまったので、俺は家に帰る。
今回は最後の最後で誰かに妨害されることもないだろう。
リリーはまだ帰ってきていないようで、家には誰もいなかった。
いつも通り風呂を沸かして、夕飯の準備をする。
この生活も今日で終わり。
多分帰ったら『黎明人類』の一件が片付くまではこんな楽しいだけの生活に戻ることはできないだろう。
だけど、この一件が片付いたら結婚とか考えてもいいかもしれない。
前の世界じゃ考えられないことだったけど、あまり人を待たせるもんじゃないことは分かる。
しかし、結婚となると、誰を呼べばいいとか何をすればいいかとかを考える必要があるよな。
まぁその辺は既婚者の人に聞けばいいだろう。
そんなことを考えながら、椅子に座ってボーっとしていると、ドアを開ける音がした。
俺は廊下に出て玄関に出迎えに行く。
「おかえりリリー……って先生?どうしたんですか?」
そこに居たのはリリーではなく、俺達の担任、エミリア・サティスフィールド先生だった。
「ハ、ハヤトくん!リリーシャさんが――」
俺は家を飛び出した。




