強奪者
俺達は警備員が来る前に大図書館から逃げ出すことが出来た。
そして、俺達は井戸の中に飛び込み、地下水道に入る。
「シャムさん!俺達やりましたね!」
高速で走りながら俺は喜びを抑えきれず、シャムさんに話しかける。
「ええ、そうね。こんなに上手くいくとは思わなかったわ!」
自分を称えているようで嫌だが、やはり暗号解読を楽にすり抜けられたのが大きいだろう。
お陰で警備員と遭遇せずに逃げることが出来た。
顔を見られてはいないから、休み明けからも堂々と登校することが可能だ。
俺達は往路で使った入り口から出て、一息つく。
「ここまで逃げてくれば大丈夫よ。もう見つからないわ」
「まぁ警備には見つからねぇよな」
俺は声がした方に目をやる。
口調からして乱暴そうな人間だろうという予想通りだった。いや、そういう雰囲気を感じ取った。
自分の腹筋を見せつけるような布地が少ない上着、服の上からでも分かるゴツゴツとした筋肉、見る人全てに野生的と思わせる雰囲気、明らかにヤバい奴だ。
「……先輩に向かって随分な口の聞き方ね」
シャムさんは声の主が俺だと勘違いしたようだ。
正直凹むぜ。
「シャムさん、俺じゃないですよ……!」
シャムさんも声の方に目をやり、こいつのヤバさに気づいたようだ。
「魔法書の運搬ご苦労。その本をこちらに渡せ」
こいつ何者だ?
この本を欲しがる奴なんて悪人に決まっている。
だから渡す気など毛頭ないのだが。
「嫌です。折角俺達が盗んできたんだから」
「……ならば、力づくでも貰っていくぞ」
やはり脳筋野郎だったか……。
「ごたごたうるさいわね!話はゆっくり向こうで聞こうじゃないのッ!」
大したごたごたしていないのにキレ気味なシャムさん。
この人も結構脳筋だ。
しかし問題はそこではない。
シャムさんは手のひら大の丸い玉を懐から取り出して地面に叩きつける。
瞬間、丸い玉から魔法陣が広がると同時に眩い閃光が俺達を襲う。
俺が目を開けた時、そこはもうスカーリアの街並みはなかった。
そしてここは今までいた世界ではないと気づかせる。
空の色は混沌としていて、今がどれくらいの時間かも分からない。
地面はただ白いだけの床と言った感じだ。
丁度、以前修業した異空間の床と同じだ。
「驚いた?ここは魔王様が作った異空間よ。魔王様ももうすぐ来ると思うからそれまで私達で持ち堪えるわよ!」
まさかこんな物を隠し持っていたとは思わなかった。
エリノアさんは敵対勢力が来ると予想していたんだな。
「魔王か……一度戦ってみてぇと思ってたんだよなぁ……お前らを倒した後にじっくり戦うとするか」
この自信満々で自分が負けるとはこれっぽっちも思っていない態度、以前にも見た覚えがある。
何の因果か……いや、因果関係ははっきりしている。
この男はあの時のリベンジをしに来たのだ。
「随分な言い草だな。もう俺達に勝つつもりか?」
「当たり前だろう。お前らそこまで強くないからな」
「そこの雑魚をどう言おうが構わないけど、アタシまで下に見るとはアンタ中々いい度胸してるわね」
前半はともかく、シャムさんはガチでやる気だ。
しかし、シャムさん、貴方アサシンなんだから普通の戦いは苦手なのでは?
「ならば、お前らがどれほどの強さか確かめてやろう」
気に障るんだよなぁ、この上から目線。
今まさに戦いの火蓋が切って落とされようとした時、俺達と男の間に誰かが移動してくる。
彼女は俺と同じくらいの身長で、顔立ちは体が凍る程、冷たく、美しい。
スッと伸びた背筋によって元々大きい胸が更に目立ち、存在感だけで俺達を威圧し、動きを止めてくる。
豪奢なマントを着け、肩には大剣を乗せている。
大剣もまた大きな存在感を放っていて、ただの大剣ではないと一瞬で理解できる。
「……ま、魔王様……!」
「待たせたのう、お主ら」
そう、現れたのは魔王エリノアその人だった。




