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作戦決行は突然に

 作戦決行の日は突然だった。


「後輩、今日行くわよ」


「……は?」


 これから先ずっと後輩呼びなのであろう事は置いとくとしても、あまりにも急な展開に頭が追いつかない。

 もう少し事前に言ってくれてもいいのに。


「……えっと、それは今日盗み出すという解釈で?」


「そうよ。今日の深夜二時決行。この時間帯が一番警備が緩いことが分かったの。それが昨日の事。いつ警備体制とか時間帯が変わるか分からないから今日決行。理解した?」


 それにしてもいきなり過ぎじゃないですかね。

 そんな事言ったらこの人何するか分からないけど。


「理解しました。どこ集合ですか?」


「アンタの家」


 マジすか?


「参考までに、それは何故ですか?」


「話し込むには一番安全そうだから。今日の零時頃行くわ」


 普通に急だなぁ……リリーに見つからないように移動するのは訳ないが、罪悪感がある。


「まぁいいですけど、静かに来てくださいよ。リリーに見つかると嫌なので」


「プロをナメんじゃないわよ」


 そこら辺を抜かる気は無いようだ。


 こうして急展開をどうにか切り抜けようとする俺だが、更なる『面倒事』が牙を剥いてくるとは露程も思っていなかった。



 そして日付変更の時刻きっかりにシャムさんは庭のガラス窓の前に現れた。

 アナタ急に現れたけど、どうやってやってんの?


「こんばんは。やっぱり決行ですか?」


「ええ、配置は全く変わってなかった。今日から行ける」


 侵入ルートなどの説明を聞いているとあっという間に作戦開始三十分前。


「じゃあ行くわよ」


 俺は頷き、地下水道へ入る。

 吸血鬼の目というのは便利な物で単独行動の時は何時ぞやかに習得した『暗視』は全く必要ない。


「へー、こんな所があったんですね」


「どこにでもあるわよ。大抵しっかりと出入り口を塞いでないから、人にバレないように移動するには便利な道よ。覚えておきなさい」


 人としてこれでいいのかと思えてくるので、覚えておきたくないです。


 しばらく進んでいくと、突然シャムさんが立ち止まる。


「どうしたんですか?」


 俺が言うと怒ったような顔をしながら人指し指で俺の口を押さえ、黙れとハンドサイン。

 更に誰か来ているとの事。


 そしてしばらくするとネズミの鳴き声がした。


「い、いやぁぁぁ!」


 瞬間シャムさんが叫び出したので、俺は大慌てでシャムさんの口を手で塞ぐ。

 幼く見えるシャムさんの口を塞いでいるのって、なんだかイケないことをしているみたいだ。


「ネズミ、苦手なんですか?」


「ちがっ、そんなことない!」


 俺がジト目で見つめると、とうとう白状して


「……そ、そうよ!何か悪い!?」


 意外と可愛い所あるんですね。


「……いえ、別に」


「今の間は何だぁぁぁ!!」



 遅れを取り戻す為、小走りになりながら地下水道を進む。


「次の出口を登ると学園の今は使われていない井戸に出るの」


 学園には使われてない井戸というのが結構ある。

 そして、その一つは確か……!


「そこってまさか」


「そう、大図書館の裏口にあるあの井戸よ。そこからはさっき言った通り、古式ゆかしい錠前をピッキングで開けて、中に侵入する」


 手際のいい侵入方法と隠密性、迅速性に優れた侵入ルート、本当にお見それする。

 一体どれだけの物を今までに盗んできたんだか。


 俺達は某ゲーム会社のスーパースター宜しく壁ジャンプで井戸を登り、地上に戻る。

 周りには誰も居らず、いつもの学園の騒がしい雰囲気とは全く異なる、怪しげな雰囲気となっている。


 シャムさんは異常なピッキング速度で錠前を破り、中へ侵入する。


 今俺達が入ったのは普通の保管室だ。

 結構乱雑に本が置かれていて、足の踏み場がないという程ではないが、かなり歩きにくい場所だ。


 保管室には二つの出口があり、一つは閲覧室、つまりは普段生徒達がいる場所で、もう一つは司書室に繋がっている。


 今回俺達は司書室の先にある禁書保管室に用があるので、シャムさんは司書室へと繋がる扉をピッキングする。


 司書室は結構広めにとってある部屋のようで、十人いる司書さんの机があってもそこまで狭いという感じではない。

 勿論司書室にも誰も居らず、俺達は更に奥の禁書閲覧室に繋がる扉に向かう。


 その扉も数秒で開けて、俺達は最終関門の禁書閲覧室と禁書保管室の扉の前に立つ。


 ここで俺はしみじみと思う。

 何もやってねぇな、と。


「あらあら、久しぶりに解きごたえのありそうな錠前じゃないね……」


 もうシャムさんは目をギラギラさせながらピッキングを始めている。

 無理矢理壊そうとすると警報が鳴るシステムになっているらしく、とにかく鍵を開けるしかないらしい。


 緊張感が無いようで申し訳ないのだが、俺は適当に本を開いて時間を潰す。


 開いた本はどうやら魔法書のようで見たことのない魔法が色々ある。

 俺は魔法の名前と効果に目を通して、手当たり次第に習得して行く事にした。


 適当に時間を潰すこと二十数分、シャムさんの嬉しそうな声が響く。


「終わった!」


 ゆっくりと扉が開いていき、更に何メートルか離れたところにまた扉が見える。


 扉の横には暗号文と文字盤があり、その全てを俺は()()()()()()()()


「やっぱり良く分かんないわね」


「何でここに日本語があるんだ……!?」


「アンタ、これが読めるの!?」


 暗号文というか分かりやすい日本語でただこう書いてあるだけだ。

 『汝は本物か?はい、若しくはいいえを入力せよ』、と。


 俺はゆっくり文字盤、つまりは五十表のような物を押していき、はい、と入力する。


 すると扉は先程と同じようにゆっくりと扉が開いていく。


「アンタ意外と役に立つわね。連れて来た甲斐があったわ!」


 俺目線でも連れて来られた甲斐がありました。

 しかし、何故こんな所に日本語があるのだろう?


 だが、残念なことに今は思い切り力を入れて壁を壊すことに集中しなければならない。

 日本語のことは後回しだ。


 最後の扉は残念なことに打つ手無しだ。

 流石のシャムさんも魔力認証を突破するのは難しいようだ。


「よし、じゃあ、始めちゃって」


 俺は腕に力を入れて、思い切り拳を扉に叩きつける。

 すると扉はあっさりと砕け散った。


「アンタ本当に脳筋ね……」


 そんな軽口に言い返す暇もなく、けたたましい警報音が鳴り始める。


「行くわよ!」


 俺達は砕け散った扉を越え、目標の本を探す。

 禁書保管室に入る本ともなると数は少なく、すぐに目標の魔法書を手に入れることが出来た。


 俺達は出口に駆け出した。

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