学園での生活
「なぁ、リリー、任侠って分かるか?」
ふと気になったことを口にする俺。
「任侠ですか……うちのご先祖様が大事にしていた精神ですね」
ガチでそっち方面の人でしたか。まさか君のご先祖様はあっちの世界から来たヤクザだったりして。
「義侠心に基づき行動し、仁義を重んじ、弱きを守り、強きを挫く……そんな人になりなさい。当時のご先祖様はそう言ったそうです。勿論今のアストレアス家にもそれは受け継がれています!この間の義理を重んじる私の行動はまさに任侠道その物!」
どうやらヤクザ者というより本当に任侠の精神だけを受け継いでいるらしい。
「ハヤトさんも任侠にお詳しい様子、ここで任侠が簡単に理解できる演劇をしましょう!私が当主役、つまりは一家の頭です。ハヤトさんは若い衆のトップ、つまりは若頭役です!それではハヤトさんからどうぞ!」
いきなり超展開しやがった。まぁでも異世界風の任侠映画だと思ってやってみるか。
「おやっさん!魔物共がウチの領地ァ、荒らしに来てますぜ!東の拠点にカチ込まれてまさぁ!」
「なんじゃと!ウチの領地を荒らすたァ、ナメた事してくれんじゃねぇか。ハヤァ、オメェ、ウチの若い衆集めて援軍に行けや!」
ハヤって俺のことか……。
「しかし、おやっさん、本当に援軍を出す必要があるんですかい?放っておいても、そのうち冒険者が駆り出されますぜ?」
「そらぁ、そうじゃろう。じゃけん、オメェ、ウチのシノギは領民の信頼あってのもんじゃ。それになぁ、領民を守るっちゅうのはウチが果たす義理なんじゃ!義理も果たせん者に任俠道を歩む資格などない!」
「お、おやっさん……そうでした、大事なことをすっかり忘れてやした!今すぐウチの者集めて援軍に向かいまさぁ!」
「おお、行ってこい!……って感じです。ハヤトさん中々の名演技ですね。私に任俠道を語らせようとするフリは最高でしたよ!思わず私も乗ってしまいました!」
喜んで頂けたなら結構。しかし、自分で話を振っておいて言うのも難だが、
「これ、教室でやらない方が良かったかもな……」
「……そ、そうですね」
休み時間中とはいえ、少しはしゃぎ過ぎた。
転入初日から一週間、平和な時間がただただ過ぎていっただけだった。
シャムさんからのコンタクトもないから、奪取作戦に関する進展もない。
今日あたり、ちょっかいを掛けに行くか。
そんな事を考えながらリリーと休み時間を過ごしていると、授業が始まる。
さてと、脳を低電力モードにシフトさせよう。
授業が終わるとリリーに先に帰っててくれとだけ伝えて、実践剣術科の教室へと向かう。
ちなみに授業中チョークが何本か飛んできたそうだが、全てリリーで真っ二つにしてくれたらしい。
俺は実践剣術科の教室へずかずかと入り、シャムさんを探す。
シャムさんは……いましたよ、一番後ろの席で本読んでますよ。
「シャムさん、少しお時間いいですかね?」
「ん?……ああ、アンタか。何よ?」
「いや、だから、ここで話すような事じゃないからついてきてくれませんか?」
俺が言うと、シャムさんはものすんごい嫌そうな顔して席を立つ。そういうのは本当に傷つきます。
「あれ?あれあれあれ?ハヤト先生じゃないですか。お久しぶりですね。あ、今は生徒なんでしたっけ?」
そうこの教室には奴等がいるのだ。ヘーゼリッタ・ブリュードを始めとする俺の元教え子達が。
「は?貴女誰ですか?そういうのマジ迷惑なんでやめてくださいね?さ、シャムさん行きましょうか」
今は絡まれたくないので知らぬ存ぜぬを貫き通し、この場を切り抜ける。
「ちょ、それは流石に酷くないですか!?私の足にあんな事までしたのに……」
瞬間、シャムさんの目がゴミというかそれ以外のものを見る目に変容する。
「おまっ、そういう言い方は良くないだろ!あれは誓って指導の一環だった!」
「ほら、覚えてるんじゃないですか」
し、しまった!?つい反応してしまった!
「はぁ……もういいや。でも俺シャムさんと話があるからさ、そういうのはまた今度にしようぜ?」
「ま、まさか、私のみならず、そんな幼気な少女にまで手を出すつもりですか!?」
「だからその言い方やめろ!そもそもお前に手は出してないし、シャムさんは先輩みたいなものなの!第一ね、お前みたいなガキは好みじゃないのよ。俺には心に決めた人がいるんだ!」
「へー、そうなんですか。割と興味ないです。もう行っていいですよ」
急に態度が冷たくなった。ま、別にいいんだけど。
「じゃあシャムさん、行きましょうか」
「……せ、先輩……私が先輩……」
この人もこの人で色々苦労しているようだ。
俺達は例の空き教室に移動する。
今日俺が話に来たのは奪取作戦についてだ。
「あのぅ、そろそろ話を始めたいんですが……」
「はっ……何かしら、後輩!」
うわぁ、超調子いいじゃん。
「禁書保管室への侵入の方法の事で質問なんですけど、二つ目のセキュリティ、暗号解読ってどんな物なんですか?」
「そんなの知る訳ないでしょ。暗号の内容が外に漏れたりしたら予め解読されるかもしれないじゃない」
確かにそうだな。考えが甘過ぎたか。
「まぁでもこれは二流の陥る状況よ。私のような一流の手にかかれば……これよ」
そこには下っ手クソな絵文字の列が並んでいた。
「……えーと、これが暗号?」
「そうよ!」
無い胸を張って自慢気に言うシャムさん。
元々こういう文字列なのか、シャムさんの絵心が壊滅的なのかは分からないが、とにかくこれが暗号の手掛かりになるのは間違いないだろう。
しかし、この文字、どこかで見たことがあるような気がする。
「じゃあ、俺も何か考えておきますね。今日はありがとうございました」
「いいのよ、可愛い後輩の為だもの!」
シャムさん、意外と扱いやすい人だな。




