ファーストコンタクト
「俺は一応貴族科への転入が認められたんですが、そっちはどうですか?」
『こっちも準備は整っておる。というか既にシャムはスカーリアへと出立した』
俺は今、設置型の通信魔法でエリノアさんと任務のことについて話している。
今話した通り、俺はスカーリア総合学園の貴族教養科、所謂貴族科に短期で転入出来ることになったのだが、コネ――具体的にはリリーに頼んだ――の関係でリリーも貴族科に短期で転入することになった。
リリー曰く、『ミルさんだけ二人で同居生活するのは不公平です!ですから今回は私がハヤトさんにお供します!』だそうだ。
「分かりました。こっちも転入時期に合うよう準備を進めておきます」
『うむ、よろしく頼む』
ここで音声がプツっと途絶え、通信が終了する。
勇者率いる帝国軍との戦争から一週間が経ち、俺とリリーは転入に向けての準備をしていた。
『黎明人類』関係の話をオルクスとしたが、特にこれと言った新たな情報は出てこなかった。
オルクスにはオルクスが逝ってからどんな事があっただとかそういうことも話した。
しかし、オルクスは大まかな流れは精霊界で把握していたようで、『ああ、そんな事もあったね』とか同調してくる。
その場にいなかったはずの奴がまるでその場にいたかのように話すのだから、正直言って気持ち悪いの一言だ。
まぁそんな感じでこの一週間、ダラダラとお茶でも飲みながら話していた訳だが、本格的に準備をしなければならないときが来た、という事だ。
「リリー、明後日辺りには出発したいから準備を……なんていう必要はないようだな」
リリーは既にきっちりと準備を済ませていて、荷物が纏まっていた。
「勿論です!ハヤトさんとの同居生活なんですから準備なんて三日前に済ませてあります」
猛者かよ。
しかし、リリーよ。お前も頭が足りないな。普通に考えて、男女が寮で同居するなんてあり得ないだろ。もっと言えば、同じ宿舎なのかも怪しい。
だが、俺はここでそれを言ったりしない。
リリーはこういうところも根回ししてくる可能性があるからな。
学校生活の中で一緒の部屋から毎朝出てくる奴等とか浮くこと間違いなしだろ?
俺は久しぶりの学校生活が楽しみだから、それを壊したくはないのだ。
いや別にリリーと過ごしたくないとかじゃないんだよ?正直イチャコラしたいっすよ。でもね、今回仕事だし、一人の方が何かと行動しやすいと思うんですよ。
まさか『今回は泥棒しに短期転入するんだ』なんて言えないでしょ?
俺は今回貴族社会について勉強したいって事にしてるのだ。
「ああ、楽しみだな」
バリバリ生返事である。
「はい!明後日が楽しみです!」
全く気づかないリリー、超可愛い。
そんなこんなで一瞬で二日が過ぎて行って、俺達は飛空艇でスカーリアに向かう。
せめて飛空艇の中では色々したいと思って、すごいイチャイチャした、と思う。
今回は二度目のスカーリアとなる訳だが、前とは殆ど変わってはいなかった。前回来たときはぐちゃぐちゃにされた訳だが、人間の復興力というのは見上げたものだ。
俺はそのまま学園の方へ向かおうと思ったのだが、途中でリリーに止められる。
「ハヤトさん、こっちです」
ん?今いるのは街の高級住宅街だ。一体何の用があるのだろうか。
「着きました!」
リリーはある住宅の一角で立ち止まる。
そこは普通の、というにはおかしいが、まぁ普通の高級そうと言える立派な家がある。俺もそこそこに感覚が鈍ってきている。
「ここがどうかしたのか?」
「いえ、ですから、ここが私達の住む場所です」
「は!?」
ぬ、抜かった!リリー、俺と同じ手を使うとは、全く予想してなかった!
い、いや、でもこの方法ならそんなに他人に怪しまれないのでは……!?
「ハヤトさん、私が貴方のお気持ちに気づかないとお思いで?」
「ぐっ!」
て、手のひらで踊らされていただけということか……む、無念。
「しっかし、良くこの短期間で家なんて買えたな」
「あ、それはですね。この前、皆さんでスカーリアに来たとき買っておいたんです」
「それはまた何で?」
「私、学校生活してみたいな、なんて思ってました。まさか実現出来るとは思ってませんでしたけど」
ああ、なるほど。俺は堂々としていれば良かったのだ。別に婚約者と登校するのは何も恥ずかしがるところはない。
とんだ独り相撲をとってしまった。そう後悔する俺であった。
「リリー、遅刻するぞー」
「もうちょっと待ってくださいよ!女の子は色々準備があるんです」
左様でございますか。
水でも飲みながら五分程待っていると、リリーが二階から降りてくる。
「お待たせしました」
そんなに可愛くないと思っていた制服もリリーが着ると、なんかこう、花があるよな。
「じゃ、行くか」
「何か言いたいことないんですか?」
「あーうん、可愛い可愛い、超可愛いよ」
「婚約者に対してそれはないんじゃないですかね……」
「そういう風に言われるとしらけちゃうんだよ……まぁでも似合ってるよ」
「そ、そうですか」
自分で誘導しておいて恥ずかしがんなよ……こっちまで恥ずかしくなるじゃん。
寮に住んでいない学生というのも案外いるようで、学園の正門へと続く大通りには俺達と同じ制服に身を包んだ人がそこそこいる。
「そういや、貴族科って何の勉強するんだ?」
「え?知ってて私に頼んだんじゃないんですか?」
やっべ、すっかり忘れてた。
「い、いや、貴族としての教養をつけるってことは分かるんだけど、具体的にはどんなことをするのかな、と」
リリーは訝しげな顔で見つめてくるが、すぐに溜息をついて説明してくれる。
「具体的には……そうですね、まずは礼儀作法などでしょうね。式典などに出席したときに無礼があってはなりませんからね。他は貴族の嗜みでしょう。ハヤトさんがお得意の剣とか、逆に苦手そうな舞踊とかそういうものでしょうね」
なるほど、面倒臭い事この上なさそうだな。
まぁいい。授業を聞き流すのは得意だ。
俺達は学園に入り、教員室に向かう。
「お久しぶりですね、ハヤト先生。あ、今回は生徒さんでしたね」
俺達の担任のエミリア・サティスフィールド先生だ。非常勤講師で来ていた時も若い先生同士という事で面識があった。
まぁ若いといっても流石に俺達と同い年ではない。
「ええ、短い間ですけどお世話になります」
「ではそちらの方がアストレアスの王女殿下様ですね。私はエミリア・サティスフィールドです。この度、担任を務めさせて頂きますのでよろしくお願いします」
「先生、やめてください。私はただの生徒ですからそんな言葉遣いはお止めになってください」
「あ、はい、申し訳ございません……あ、また……」
この人はちょっと抜けてるところがあるが、まぁ普通にいい先生だ。
適当に話を済ませると先生と一緒に教室に向かう。
しかし、良く考えると普通に浮くよな。だって俺達は年的には普通に入った生徒に比べて一、二歳上だからな。
「はい、皆さんおはようございます。今日は二人の短期転入生を紹介します。二人とも入ってきてください」
すごい緊張するわ、こういう逆境に弱いんだよね。こんな事で逆境とか思ってる時点でわかると思うけど。
俺がそんなことを考えているとリリーが先に喋り出す。
「アストレアス王国から来ました、リリーシャ・フォン・アストレアスと申します。これから一ヶ月間よろしくお願いします!」
いやねぇ、男子はもう目をギラギラさせちゃって。
「同じくアストレアス王国から来ました、ハヤト・キリュウです。これから一ヶ月間よろしくお願いします」
俺は心を無にして極めて事務的に自己紹介を済ます。
「じゃあ二人は後ろの空いてる二席に座ってくださいね」
俺達が席に着くと早速授業が始まる。
先程渡された分厚い教本を開く。
途中から入って来た俺達に関係なく授業は進むから内容が入ってこないと思ったが、丁度新しい単元に入るようで意外と理解出来た。
内容は各国における貴族制度の歴史。
単元名を聞いた瞬間かったるいと分かる内容である。
休み時間になるとリリーの席の周りには人が押しかける。
「リリーシャさんてアストレアス王国の王女様ですよね!?」
「王女殿下には婚約者がいるって本当ですか!?」
「それ聞くのは失礼だぞ!」
などなど、もう、うるさいったらありゃしない。
俺は席を早々に離れ教室を出る。
学園は複数科目履修できるので、貴族科しかとっていない俺達は少し暇になるのだ。
ほとぼりが冷めた頃に弁当取りに帰ろうっと。
適当に校舎内をプラプラするが、知らない場所が結構ある。前にもいた校舎だとは思えないな。
「そこのアンタ、待ちなさいよ」
「え?……ああ、シャムさん、お久しぶりですね」
後ろを向くと、漆黒と言っていい程に黒々としたショートカットの髪、釣り気味の目、そして小柄な体躯。見るからに気が強そうな子供だなと思うが、俺より五つも上だ。
「お久しぶりですね、じゃないわよ!作戦会議するわよ、丁度良さそうな部屋は見つけてあるから」
そう吐き捨てるように言って、ツカツカと歩いていってしまうシャムさん。とても強引だ。
これがエリノアさんの前ではデレッデレッになるんだから驚きだ。
「学園の大図書館はどうでした?」
「警備は比較的緩いわ。だけどそれも禁書閲覧室までよ。更に奥の禁書保管室に行くにはピッキング、暗号解読、魔力認証の三段階をクリアしなくちゃいけない」
「ぶち破るのはダメそうですか?」
「普通に行けるわよ。だけど図書館全域では魔法が使えないから脱出の時に不安が残る。少なくとも最初の二つはクリアしないと警報が鳴ってから逃げられないと思うわ」
なるほど、俺に出来ることは最後のセキュリティをぶち破るぐらいだな。
「分かりました。では決行の前日になったら教えて下さい。さよなら」
俺はそのまま空き教室を出ようとする。
「ちょっと待ちなさいよ!少しは知恵出しなさいよ!」
「いや、現実問題、俺が出来ることなんて壊すことぐらいですよ?暗号解読なんて以ての外ですよ」
俺が言うとシャムさんは頭を押さえる。
「そうなのよね……なんで魔王様はこんな奴を送ってきたんだか……」
それは俺も思うところですよ。
「じゃあ、そういうことでよろしくです」
「そうね、もう行っていいわよ……」
「あ、でも最後に一つだけ、どこの学科だけ教えてください。連絡する時困るんで」
「私は実践剣術科所属よ。何かあったら教室に来なさい」
「了解でーす」
俺は空き教室を出て自分の教室に戻る。
そろそろほとぼりも冷めた頃だろうから弁当にしよう、なんてのは甘い考えだったと知ることになるとは思わなかった。
勝手ながらしばらく休載させて頂いておりましたが、今日から少しずつ再開させて頂きます。
もうしばらくお付き合い頂けると幸いです。




