結界破り
「魔王様、勇者一行が平原に到着するまでおよそ半日です。どう致しますか?」
長身で鎧を着込んだイケメン顔のグローズさんが報告する。
やっぱりこの人は娼館に行くような人に見えないんだけどなぁ。
「そうか。エリナ、装置はどんな感じだ?」
「既に完成しております。後は魔力を流すだけです」
「よし!こちらの準備は完了じゃな!」
「エリノアさん、この魔法陣を」
俺は魔法陣が描かれた紙をエリノアさんに渡す。
「何じゃ、この魔法陣は?」
「通信魔法です。その魔法陣は親の魔法陣で、俺たちの子の魔法陣と繋がっていて、どこにいても話が出来ます」
「通信魔法とな!グローズ、試しに話してみろ!」
「は、はい、僭越ながら。こちらグローズです」
グローズさんが喋るとエリノアさんの方でもグローズさんの声がする。
「おお!これはすごい!これを普及させたらさぞかし便利じゃろうな!」
またエリノアさんが少女のような笑みで言ってくる。
「あ、普及されるのはやめて下さい。どの魔法陣がどの魔法陣に話せるのか分からなくなりますから。あくまでも軍用という事でよろしくお願いします」
「ちぇっ!釣れないのう。まぁ良い。便利な物をありがとう」
魔王がちぇっ!って。本当に緊張感ないなぁ。負けるかも知れないのに。
「儂からもお主らに掛けてやる魔法がある」
一体どんな魔法を掛けてくれるんだろう。
俺が楽しみなような、怖いような思いでいると、エリノアさんが魔法を掛けてくれる。
すると自分の体が煙に包まれ、見えなくなる。
そう、丁度忍者がドロン!ってする感じの。
「な、なんじゃこりゃ!!?」
煙が流れていくと自分の体の全貌が……見えてこなかった。
何故見えてこなかったか、それは至って簡単だ。胸だ、胸が邪魔で見えなかったのだ。
しかし、男であれば普通それはあり得ないだろう。
だが、自分の声を聞いて納得が行った。
「女になってる……!?」
「ま、魔王様!これでは鎧がキツいです!元に戻して下さい!」
グローズさんも胸が大きくなって困っているようだ。
「ふむ、ならばこれでどうだ?」
エリノアさんが指をパチンッ、と鳴らすと苦しそうな顔をしていたグローズさんがほっとした顔になっている。
恐らく胸を小さくしたのだろう。
しかし、この変身魔法に一体何の意味があるというのだろう。
「エリノアさん!こりゃ、どういう事だ!」
「これで敵に正体がバレんだろう。お前は四天王だとバレたらまずい身分じゃろうて」
た、確かにそうだが、別に女にしなくても。
胸が重くて仕方ない。
「見るのじゃ、ハヤト!わ、わしの胸が大きくなってるのじゃ!」
隣を見るとエリナの身長が高くなっている。体が全体的に成長しているようだ。
「いや、マジですごいですけど、流石にこれは戦い難いですか?エリノアさん、俺の胸も少し小さくしてください」
「儂は巨乳の方がいいと思ったのじゃが……お主がそういうなら少し小さくしよう」
エリノアさんはまた指を鳴らして俺の胸を小さくしてくれる。しかし、依然胸は出ている。
いや、何だか悪くない気がしてきた。
「……!魔王様御準備を。ハヤト殿とエリナ殿も気を引き締めて下さい。大魔法が接近中です。これは儀式魔法の『殲滅火球』ですね」
え、それって大丈夫なのか?
「案ずるな。元々魔王城には強力な結界が張られておる。易々と破られる物ではない」
「それなら大丈夫で――」
そこまでグローズさんが言ったところで、ズドンッ!!というヤバい振動が来る。
「本当に大丈夫なんですか、エリノアさん!?」
「じゃから案ずるな!た、多分結界は……破られておる……」
「「「ちょッ!!?」」」
「今のは多分『結界破り』が織り込まれておったんじゃな。しっかし、困ったのう。これからますます攻撃は激しくなる、そうなればこの城もただでは済まんじゃろうな」
「魔王様どうするのですか!?これでは城が崩れますよ!」
グローズさんが美人顔で慌てて言う。絵になるわ。
「こんな事態に陥った場合も対応マニュアルに書かれている。ふむふむ……『結界が破壊された場合、魔王城と連携している魔王から魔力が自動的に供給され、完全に壊された場合でも約五分で完全再生します』とある。これで安心じゃな!」
「それじゃあ、エリノアさんが魔力切れになっちゃうでしょう!?そうなると、あの装置が発動出来ませんよ!」
「わしもそう思ったが、それは相手も同じじゃろう。ならばここは魔王様の強大な魔力を信じるべきじゃ」
今まで自分の胸を揉みしだいて、大きさにうっとりしていたエリナが急に真面目なことを言い出す。
「よく言った、我が子孫よ!この結界のシステムは何十代も前から研鑽されてきたもの。使用している術式の魔力効率もかなり良いようじゃから、お主らはどっしりと構えておれ。その内、敵も平原まで進軍してくるじゃろう」
かっけぇけど、そんなに悠長でいいのかと心配になってくる。
しかし、エリナもグローズさんもキラキラした目でエリノアさんも見つめている。俺が文句を言う隙はないようだ。
こうなったら俺は俺で独自の作戦を展開して、出来る限りの事をやっておくべきだろう。
俺は三人を置いて魔王城を下っていく。
戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。
更新が二日おきになることがありますが、ご了承下さい。
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