戦争準備
「止まれ!クソッ、お前『捕縛』のスキル持ってなかったか?」
「この距離じゃ無理だ!二メートルぐらいじゃないと捕らえられない!」
「どちらにしろあの速さで動く奴を捕らえられないだろう!もう攻撃魔法でもいいから撃つしかない!雇い主の許可は取ってる!」
そう言いながら魔法を撃とうと構えている冒険者と警備の兵士たち。
しかし、その魔法は例外なく外れる。
そして追われている男――天下の奇術師たる俺は煙玉を投げて転移の魔法陣を発動させる。
「ハハハ、今宵もお宝を頂いていく!オルボワール!」
「クソッ!やっぱりダメか……帝都を騒がせている神出鬼没の超人怪盗だけあって捕まえるのは容易じゃないようだ。これじゃ、賞金なんて稼げないな」
「ああ、全くだ。俺はあんな奴冒険者になった方がよっぽど稼げると思うね。少なくともAランク冒険者以上の実力はあるだろう」
「やってらんねーな。報告だけして飲みに行こうぜ。どうせ狙われたら最後なんだから、雇い主も納得するしかないだろうよ」
「そうだな、それがいい」
そう言ってその場を後にする冒険者たち。
「おい、取って来たぞ。これでいいか?」
「おお、待っておったぞ、ハヤト。これからはもう帝都に行く必要はないから安心していいぞ」
今、俺は今代の魔王、エリノアさんにお使いを頼まれてそれをクリアしたところだ。
「はぁ……もう俺も一端の犯罪者か」
「何を言っておる。これは世界平和の為じゃよ。言っておるじゃろう、もうじき戦争が始まる。これはその為の準備だと」
「いや、確かに聞いたよ。物理及び魔法攻撃を受けても体内の魔力がそれを肩代わりして受けてくれるフィールドを生成する為の装置を作る為に俺はこの任務をやらされているって……だけださ、それって全然魔王らしくねえぞ?」
「何を言うか。魔王が人を殺すなど今の世にあってはならん。そういう一つ一つの遺恨が大きな戦争を生んでいくのじゃ。今回は何故レガリアの新勇者が進軍して来ているのか分からんが、魔王城前の平原に来るまでそう時間はかからんから注意しておけ」
「?何でそう時間はかからないんだ?各地に戦闘員を配置しているだろう?」
「ハハハ、何を言っておる。城の警備兵以外に魔王軍が持つ戦力は儂、ハヤト、エリナ、シャム、グローズだけじゃ。つまりは魔王と四天王のみじゃな」
「は?……はあぁぁぁぁぁ!!?確か敵の戦力は通常歩兵と魔法歩兵の一個大隊で数は五百だろ!?それに練度はBランク冒険者以上の騎士と魔法騎士を中心とした国の正式な武官ばかりでとんでもなく高い。そんな奴等に五人だけで挑もうってのか?」
「無論じゃ。奴等に勝てぬ我々ではない。それに大将は正真正銘世界最強のこの儂、エリノアじゃぞ?」
あー、頭が痛くなってきた。
俺とエリナはリリーにミルとの婚約を認めてもらってから三日経った頃に緊急召集があって、一週間俺は盗人に、エリナは装置の準備にしているようだ。
お陰でオルクスと『黎明人類』の話やその他諸々を全く出来ていない。
「そういえばシャムさんはどうしたんですか?」
シャムさんは暗殺者のセンスをもった人間で、何故だかいつもエリノアさんにくっ付いていた。
それなのに今日は見当たらない。
「あー、シャムは今、休暇中じゃ。恐らく戦争が終わるまで帰ってこない」
「こんな時にですか!?」
「あいつはホレ、いつも儂にぴったりくっ付いておるじゃろ?あれは立派な警護じゃろう。つまりは働き過ぎじゃ。だから儂が休暇をしばらく取ってくるように言った」
この人はバカなのだろうか。こんな時に休暇を出す上司がどこにいる。
「じゃあ、グローズさんはどうしたんですか?あの人は比較的まともそうな、というか真面目そうな人でしたからどこかで仕事でもしてるんでしょう?」
「一応偵察任務を出しておいたが、しばらく帰っとらんのう……どれこの水晶でどこにいるか当たりをつけてみよう」
エリノアさんはどこからともなく水晶を取り出し、机の上に置く。
そして、俺には何をしているか分からないが、変な操作をしている。
「おお、見えてきたぞ……これはどこじゃ?街の中である事は確かなんじゃが……」
「どれどれ……!?」
あの人もダメな方の人だったかぁ……。
だってグローズさん、娼館行ってんだもん。それも任務中に。
「……エリノアさん、やめましょう。よく考えたらプライバシーの侵害だ」
「ふむ、そう言われればそうじゃな。儂とした事がうっかりしておった」
あんたの察しの悪さも大概だな。
「それで、なんか対策とかあるんですか?」
「何に対しての対策じゃ?」
「戦争に決まっとるでしょうよ!」
「そう言われると……ないのう。考えた方が良いか?」
「そりゃ、考えておくに越した事はないでしょう!」
エリノアさんは腕を組みながら目を瞑り、考えるような仕草をした後、こう抜かした。
「作戦はこうじゃ。まずお主とグローズが突っ込む」
まぁ俺とグローズさんはバリバリの前衛だからな。
「その後、儂とエリナが強力な魔法をぶっ放す!これでどうじゃ?」
こいつ舐めてんのか?しかし、自信満々の少女のような笑顔を見ているとそんな事言えなくなってくる。
「……魔王様、参謀を雇いましょう」
「何故じゃ?儂という大将兼名参謀がいるじゃろう」
「あー、そうですね。じゃあその作戦で行きましょう。どうせ負けても死にはしないんでしょう?」
「そうじゃ!これからの魔王軍の戦争はクリーンなのじゃ!敵味方拘らず死者を絶対出さん!」
本当に甘ちゃん魔王だよなぁ。
今年の予算で軍務関係費を90%削減して、社会保障関係費に殆ど回したらしいし、住民税も20%減らすっていう政策もとったらしいからな。
マジで王政って感じがしないわ。というかそこらの国より民主的なんじゃね?
「魔王様、お時間よろしいでしょうか」
「良いぞ、入れ」
お、お客さんだ。あの人は財務大臣だな。
「四天王への給与なのですが……本当に年俸白金貨百枚でよろしいんですか?例年では年俸二百枚となってるんですよ」
「それでも高いぐらいじゃ。そこにおるハヤトを筆頭にして、今代の四天王は金持ちばかりじゃからな。そんなに必要ないじゃろう。そもそも今代の四天王はそこまで働かない名誉職みたいなもんじゃ。今回は働いてもらっておるが、こんな事滅多にないじゃろうよ」
まぁ俺はそれでもいいけどね。
何せステータスが常時二倍にアップってだけで十分だからな。なんなら半分返納してやろうか。
「そうですか。ではその件はそのように進めます。次に社会保障関係費ですが……」
ここにいても邪魔をするだけだろうから、早々に退散する。
そういえば、エリナはどこに行ったかな?
多分城の地下工房だと思うが……移動が面倒臭い。
大体八階分くらい下らないと行けないんだよなぁ。
という訳でこんな時に魔王城の武官の間で使われている方法を特別にお教えしよう。
まずはミスリル製の強力なワイヤー用意します。ちなみにこれは盗みを働いた時も愛用してました。
次は先端にはフックが付いているので適当な所に引っ掛けます。しっかりと引っ掛けないと大変な事になるので注意です!
最後に窓を開ければ準備完了です。
後はヘリから降下するようにスルスルいきます。中々快感です。
後始末は意外と簡単で、魔力を流してワイヤー操り、先端のフックを外すだけ。但しこの方法は魔力伝導率の関係でミスリル又はオリハルコンでないと出来ないので注意が必要です。
以上、誰でも簡単、『魔王城で垂直降下』でした。
これで地上に着いた俺は魔王城に再度入り、地下に降りる。
地下工房は怪しげな雰囲気で普通の人は寄りたがらない場所で、何か作業するにはぴったりらしい。
「エリナ、いるかー」
「何じゃ、ハヤトか。何のようじゃ?」
何じゃとはなんだ、何じゃとは。
「別に暇になったから遊びに来た」
「遊びに来るな!わしは仕事中じゃぞ!それとも何か手伝ってくれるのか?」
「別にいいぞ。暇だし」
「は?お前、本当にハヤトか?もしやもう一人の方か?」
こいつ本当に失礼な奴だな。俺が人を手伝うなんてあり得ないって顔してる。
俺は怒りたくなる感情を押し殺して、再度手伝うという旨を伝える。
「普通に表の方だ!何か手伝う事あるか?」
「お、おお、そうかそうか。すまない、失礼なことを言った。お言葉に甘えて手伝ってもらおうか」
「何でも言ってくれ」
まぁエリナの言う通り、普通はここまでしない。
だが、しばらく待機しておけと言われているから本当に暇なのだ。
「まずはそこのアーティファクトを取ってくれ」
「はいはい」
「次はここを押さえておいてくれ」
「はいはい」
「バカ!そこを触ったら壊れるじゃろう!」
「へいへい」
こうして作業漬けの日々が二日過ぎた頃、グローズさんが帰ってきた。
更新が二日おきになることがありますが、ご了承下さい。
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