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私vsハヤトさん

 私は夕ご飯を食べ終え、しばらくすると、ハヤトさんを裏庭に呼び出す。

 空は所々に雲があり、満月が見え隠れしている。


「それで答えは出してくれたのか?」


「そう急かさないで下さい。アストレアスは武力でのし上がった家。そして、血の気の絶えない人間が多くいる中で絶対的な家訓が作られました。『争いが起きたのなら、剣で解決せよ』というものです。ですから今回はこの家訓に則ってハヤトさんにも試合に付き合ってもらいます」


「……分かった」


「ありがとうございます。ではルールを説明します。使用する剣はこの練習剣です。刃はしっかり付いているので注意して下さい。特性、魔法、スキルの使用は無しにして頂けると助かります。つまりは魔力を体に通して強化するだけ、という事です。勝利条件は相手が降参させること。それとこの首飾りを着けて下さい。これはハヤトさんの吸血鬼の力、四天王の力を封じます。つまりは貴方は一時的に普通の人間に戻るという事ですね。ルール説明は以上です。ハヤトさんが勝てば、お二人の婚約を認めて、三人で仲良くしましょう……ですが、私が勝った場合は……」


 私はここで一息つき覚悟を決める。


「ミルさんをパーティー、ひいてはこの家から追放します。これに関しては異論反論一切受け付けません」


「さ、流石に追放は酷すぎるんじゃないか?もう少し軽くは出来ないのか?」


「なるほど、確かに私が負けた場合、二人に紛れて仲良くするというのは虫が良すぎますね。しかし、ハヤトさんからのお願いですから、条件は私が決めます。ですからハヤトさんが勝った場合の条件に私がパーティー、ひいてはこの家から出ていくというのを付け加えましょう」


「だからそれは両方幸せにはならないだろ。誰かを退けて掴んだ生活なんて」


「何を甘い事を……私はね、ハヤトさん。貴方を独り占めしたくてしょうがないんですよ。だから邪魔なものは遠慮なく退かす。それが私のやり方です。最早どんな話も意味はありませんよ。さぁ、始めましょう」


 私はハヤトさんと剣三本分ぐらいの間をあける。


「この金貨が地面に落ちたら試合開始です」


「本当にやるのか……?いや、始める前に一つお願いがある。俺が勝った時の条件は俺に決めさせてくれ」


「どこまでも甘いですね。ですけど貴方が条件を覆す事は出来ません。大人しく勝負して下さい……一つ言っておきますが、このルールでの私はかなり強いですよ」


 そう言って私は剣を頭上高めにトスして、剣を構える。

 金貨が空中を舞いながら落ていく。

 今は全てを忘れろ。ハヤトさんは敵、外で女を作ってきた憎き敵だ。


 そして金貨が今、落ちた。


 ハヤトさんも本気だ。一気に肉薄してきて、冗談に振り上げた剣を下ろしてくる。

 ここで私は体を沈ませ、『技』の構えをとる。

 そして、右足を軸にして一回転しながら剣を横に振る。

 剣は通常ならないような、()()()!!という強風が通り過ぎたような音を鳴らしながらハヤトさんの剣を上へ大きく弾く。


 流石に剣を手放させる事は出来なかったが、ハヤトさんはかなり驚いている。


「何でお前が『旋風』を使えるんだ!?」


「どんどん行きますッ!」


 微細な筋肉までもを連結させ、遠心力も加えて強い力を得る『旋風』から技を繋いでいく。

 残った勢いを利用して使う『夕薙ぎ』、下にしゃがんだハヤトさんを捉える『吹き降ろし』。


 最後の『吹き降ろし』でハヤトさんを大きく後ろに飛ばすことが出来たが、殆どダメージが入っている様子はない。


「お、おいッ!お前さてはリリーじゃねえだろ!?なんでこんなに剣が上手いんだよ!」


「あら?説明していませんでしたっけ?私は元々剣を習得してたんですよ。アストレアスたるもの剣ぐらい扱えなければ務まりません」


「マジかよッ!」


「ハヤトさんも早くちゃんぽん剣術を見せて下さい。それとも特性がなければ私よりも弱いんですか?」


「ウチの技をそこそこ使えるようだが、所詮は付け焼き刃、まだまだ甘い。家の技にはあんま頼りたくないんだが、俺が本家を見せてやるよ」


 不敵な笑みを浮かべて、剣を構え直すハヤトさん。

 こちらも再度剣を構えて、ハヤトさんの出方を伺う。


 しかし、確かに見ていたはずのハヤトさんが消えた。これは恐らく『明鏡止水の境地』という技だろう。

 こうなると狙ってくるのは側面か、背後……気配を感じ取れ、全身で……ここだ!


 私がそのまま前に剣を振ると、どこの箇所かは分からないが、しっかりと剣が当たり、ハヤトさんの姿が見えてくる。

 そして鍔迫り合いの体勢になる。


「……どうして分かった」


「少し匂いと気配を感じたのと……ハヤトさんならここに来るかな、と」


「少しは出来るようだが、俺も負ける訳には行かない!」


「そうは言ってもハヤトさんが勝っても、結局私がここを、出て行く。二つに一つ、この道は、そういう道ですよッ!」


「それは違うぜ、リリー。どの世界にいったって、これは絶対に変わらない!幸せってのはな、自分の力で手に入れる物なんだよッ!」


「ならばそれを己が身で私に示して下さい!」


 ハヤトさんも遂にキリュウ家の技を使い始めた。

 私の見た事のない技ばかりで、手数で押し負けてくる。

 そして、私は剣を大きく跳ね上げられ、大きな隙を見せてしまう。

 これを見逃すハヤトさんではなく、私の腕をとって、投げようとしてくる。

 トウカちゃんが使っていた技と同じだ!


「桐生流柔道奥義『内入投げ』!」


「かはぁッ!!?」


「私、も、負ける、訳には……行か、ないッ!!」


 地面に叩きつけられた衝撃が体を駆け巡るが、これによって使える技がある、反撃術『返し車』!

 『内入投げ』をやられる前に剣を捨てて相手の手を掴んでおく。

 そして、相手の攻撃の威力も利用して地面に叩きつける。この時に横から見ると自分が中心となって車輪のように回ることからその名前が付けられたそうだ。


 すっかり決まったと思っていたハヤトさんはこれによって気絶した。つまり私の勝利だ。

 私、いくらハンデがあると言っても、本当にハヤトさんに勝っちゃった。


「……負けた負けた!でもミルの事は本当に勘弁してくれ。追放はやめてやってくれないか?」


 勝利の余韻に浸っているとすぐにハヤトさんが起きた。吸血鬼の力を封印したとはいえ、体は丈夫なようだ。


「元々追放どころか、婚約を邪魔する気なんてないですよ」


「は?でもこの条件は覆せないって」


「それはハヤトさんが、です。私が自分で覆します」


「何だよ!じゃあ何であんな事言ったんだよ」


「だって、ああでも言わないと、ハヤトさん、本気出してくれないでしょう?それにあれでもまだ技を出し渋っていたでしょう?」


「うっ……!」


「それより分かってくれました?私結構強いんですよ?ハヤトさんが私を守ってくれるのも嬉しいですけど、私もハヤトさんを守れるって事を伝えたかったんです」


 私が伝えたかったのは本当にこれだけ。


「何だよ……そんな事元から分かってるっつーの!ていうか守るどころか、最初から俺の事尻に敷く勢いだったろ?」


「ハヤトさん、私の事そんな風に思ってたんですか!?」


「まぁそうだよ。でも……俺の婚約者ならそれくらいの張り合いがないとな」


 ああ、やっぱりもう一つ言いたいことがあった。


「そうですね……それと……」


 私は起き上がっているハヤトさんに抱きつく。


「私の事いつまでも好きでいて下さいね。私を捨てたらその時こそ殺しちゃいますから!」


「絶対手放すもんかよ」


「それとキリュウ流の技もっと教えて下さい!」


「え〜、お前に教えたら肘とか固めて来そうじゃん」


「それはハヤトさんがそういう事をされるような事をするからでしょ」


「まぁいいや、了解了解。それよりミルに報告しに行こうぜ」


「そうですね。行きましょうか、ア・ナ・タ!」

 更新が二日おきになることがありますが、ご了承下さい。


 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


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