王都に帰ります
ハヤトを蘇生した次の日のお話です。
私、リリーシャ・フォン・アストレアスは公務のためエドナの街に来ていました。
公務の内容は冒険者ギルドの査察です。
エドナのギルドには初心者育成の為に補助金が王家から直接出ている為、毎年王家の人間が適切に補助金が使われているか査察に来る事になっているのです。
まぁほとんど形だけなので私が公務の練習みたいな形で来ている、という事なのです。
特に問題はないようだったのでこれから王都アレスティアに帰るところです。ギルドマスターが見送ってくれる中、馬車が出発しました。
この査察はギルドマスターにしか伝えられない物なので大きな見送りはありません。
そのまま馬車は街を出て街道を進みます。
ハヤトさんを蘇生した場所も過ぎていきます。
森に入ったところで馬車が止まりました。
どうしたんでしょう、魔物でも出たのでしょうか?
この馬車の前にはAランク冒険者級の騎士が四人乗った馬車もあるので大丈夫だと思うんですが、何かとても大きな気配を感じます。
「お嬢様、前の様子が気になるので少し見てきます。お嬢様はそこを動かないで下さい」
「いってらっしゃい」
私がそう言うと御者をしていた爺やが先頭の馬車の方へと走っていきました。
爺やは引退したとはいえアストレアス王国の元副騎士団長、これで大丈夫でしょう。
しばらくすると剣戟の音が鳴り止みました。
戦いが終わったのでしょう。
さぁ再出発です!……おかしいですね?
なかなか爺やが戻ってきません。相手は山賊か何かで、縄で縛っているのでしょうか?
そう思って私は馬車を出て、前の馬車の方へ行く事にしました。
馬車の前には爺やを含む五人が倒れていました。その先には人がこちらに背を向けて立っています。
「え?」
どういう事!?
選りすぐりの騎士と爺やを倒すなんて尋常じゃない。それもたった一人で。
パニックに陥っていると、さっきの人がこっちを向いて言いました。
「ん?お前どっかで見たことあるような……そうだ、アストレアスの姫だ!何という幸運だ邪神様に感謝しなければ!」
振り向いた男は魔族のようでした。この強さ、幹部級に違いない、そう思って逃げようとしたときにはもう遅かった。
「はい、ちょっくらごめんよ」
魔族の声が後ろから聞こえた瞬間、私の意識は途絶えました。
「……っつ!」
私が目覚めるとそこは暗い洞窟のような場所でした。
意識が途絶える前に見た物を思い出す。
あれから何日経ったんだろう?そんな事を考えていると背後から声が掛かりました。
「おっ!やっと起きたよ。一日起きなかったから、殺っちゃったかと思った」
「他の皆はどうしたの?まさか殺してはないでしょうね!?」
「おいおい、酷いな、殺しちゃいないよ。他の部屋にまとめてある。後で見てくるといい。俺は魔族の中では平和主義な方なんだぜ。まぁお前に言ってもしょうがないか。紹介が遅れたな俺は『五素の悪魔』の一人、風のエギルだ。どうぞよろしく」
『五素の悪魔』ですって!?
魔王軍残党の中で魔王に代わり指揮をとっている魔族のはず!そんな奴が何であんなところに!?
「今どうしてって思ったな?まぁ、ある作戦のために俺は遠路遥々ここまで来たのさ。俺は読心もできるんだよ。だからくれぐれも逃げようなんて思うなよ?それにここはダンジョンだ。武装してないお前じゃ突破は困難だよ」
ダンジョンという割には明るい気がしますけど……。
まぁそんな事はどうでもいいでしょう。
「……あなたが私を捕らえた目的を教えてください」
「別にお前を捕まえる必要は無かったんだけどな、お前捕まえとけば何かと便利そうだったからだよ。例えば身代金よこせ、とかさ」
私は少しホッとしました。これで私たちは殺されないというのがハッキリしましたから。
でも捕まった理由が適当過ぎてビックリしました。
「……あっ、お前、精神結界はったな!読心出来ないじゃねえか!でもお前凄えな、その年で簡易的ではあるが無詠唱で結界構築とは……流石、姫様だな」
「無詠唱で結界構築ぐらい余裕です。というかそろそろ皆に会わせてくれませんか?」
「お前人質なのに図太いなぁ。まぁいいよ、約束だからな」
エギルさん(?)がこっちこい、と手招きしているので私はついて行きました。
しばらく歩くと声が聞こえて来ました。
爺やの声です、私は思わず走り出してしまいました。
「皆、大丈夫ですか!?怪我はないですか!?」
「お嬢様、ご無事でしたか!この魔族に何かされませんでしたか?」
「この魔族には何もされてないから大丈夫です。それより皆、大きな怪我はない?私が回復します」
「それなら大丈夫です。私たちは無傷です」
「感動の再会のとこ、悪いんだがこれからお前たちには人質になってもらう。しばらくはここにいてもらうことになるが、逃げようとは考えるなよ?ここはダンジョン主の階層で他の魔物は湧かないが、階段のところに『五素の悪魔』が考案した超強力な電撃ビリビリ結界が張られてる。仮に無効化しようとしても元勇者パーティの大賢者でもない限りあれは割れないぞ。食料は全員で四日間分あるから安心してくれ、以上だ」
「ちょっと待ってくれ。それ以外は何しても構わないのか?」
騎士の一人が聞く。
「ああ、一向に構わん。どうせお前らじゃ俺を倒す事も出来ないしな」
じゃあ大人しくしてろよ、とエギルは去っていった。
「その内、きっと救助が来るでしょう。あの悪魔はよく分かりませんがここで過ごしましょう」
爺やが言う。
本当に救助は来るのでしょうか?
とりあえず殺されることはなさそうですけど。一体どうなってしまうでしょうか。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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