ダンジョン潜入
昨日帰ってきてからぐっすり眠った俺たちは朝早く起きてダンジョンに来ていた。
今回潜るダンジョンはエドナを出て郊外の平原から少しいったところにある森の中にあった。
ギルド職員の斥候によるとEランク向けのダンジョンらしいが気を引き締めて行くことにしよう。
「よし、これで準備は完了だな。ミルも持ち物とか大丈夫か?」
「う、うん、私も準備万端だ……よ……」
なんだろう?何故だかミルがとてもぎこちない。まあ気のせいだろう。
「じゃあ出発しよう」
ダンジョンの中に入ると……明るかった。誰かが先に入って細工したのか?
「ミル、ガネットさんの話だとダンジョンの中って夜みたいに暗いはずだったよな?なんで明るいか分かるか?」
「本当だ!なんで明るいんだろう!これじゃあ『暗視』を覚えた意味がないね!」
普通、役に立たなくなったら残念がるのになんでミルは元気になったんだ?
まぁとりあえず先客か何か知らないが魔力を消費しないで済むのでありがたい。
「とりあえず先に進もう。誰かこれをした人が居るかもしれないからな」
そんなこんなで四階まで進んできたのだが少しおかしい。
あまりに魔物が少なすぎたのだ。一階層あたりに五体程度しかいなかった。それも弱い魔物ばかりだった。
それともう一つおかしいのがガネットさんに教わったダンジョンの中のどんよりした感じ(これが魔素らしい)があまりしないのだ。
外の空気とそんなに変わらない。
「これはちょっとおかしいね。この感じだと誰かがここに来て空間にある魔素を使って大きな魔法を使ったのかもしれない」
「空間にある魔素を使うことなんてできるのか?」
「可能だよ。でもそれが出来るのは魔族だけだけど……」
魔族か。
この世界での俺のイメージと違って、魔族は決まって悪い事をする奴らではないらしい。
先の魔王との戦いで魔王に積極的に味方をする魔族もいたらしいが少数派で、ほとんどは普通の人間のように魔族の国で暮らしていたのだという。
エドナではあまり見かけないが他の街には魔族も結構いるらしい。
ちなみに魔物と魔族は全く違う。
「まあでもギルドの調査によれば次で最後の階層のはずだよ」
「つまりそこまで行けば、これがどういう事なのかが分かるって事だな」
それからしばらく探索していると、ついに最後の階段を見つけることが出来た。
俺たちは互いに頷き合って、階段を降りていく。
「待って!もう少し行くと多分、強力な結界がある。ここからはゆっくり行こう」
確かにすごいオーラを感じる。俺は頷いてゆっくりと降りていく。
少し進むと結界はすぐに見つかった。
「これだと五階層に進めないな。どうするミル?」
「……いや、この結界は手抜きされてるよ。こっち側からは入れるようになってるみたい。でも入ったら簡単には出られないよ」
うーん。こんなところに結界なんか張ってる時点でこの先にいるやつは怪しいよな。
俺にはおよそ正義感なんてものはないからこのまま帰って応援を呼んでもいいんだが、ミルは多分、行くって言うよな。
俺も転生を機に少し頑張ってみるかな。一応、武士の一族だしな。
「……よし、行こう。奥で何やってるか、知らないがこんな結界張ってる時点で真っ黒だしな」
「そう言ってくれると思ってたよ!じゃあ行こうか!」
し、信頼が重いぜ。
結界を通り抜けるとそこは大きな空洞になっていた。奥にはひとつだけ通路があるようだ。大きな空洞には魔族が立っていた。
「あの結界を張ったのはあんたか?それと上の階が明るかったり魔物が少なかったりしたのもあんたが原因か?」
「ああ、俺だよ……入ってきちゃったかー、どうせこんな低級ダンジョン入ってくるやつなんていないと思ったんだけどなぁ……」
「その言い方だと、あんたなんかやってるな?良くないことやってるってんなら、こっちも報告しないといけないんだが?」
本当はとんでも無く怖いけど強気に出てみる。こいつすごいオーラ出して来やがる。
「良くないことねぇ……はぁ、やっぱ殺んなきゃだめかぁ……」
「何ぼそぼそ言ってんだ?俺は何やってるかを聞いて……」
俺がそこまで言ったところで魔族が動いたのを特性のアシストを受けた目で捉えた。
とんでも無く速いのがわかる。スーパースローの世界で見ても小走りの速さと同じだ。ミルはまだ気づけていない。
俺はミルの手を即座に掴んで横に避けた。
ギリギリのところで回避に成功。
「ありがとう、流石S級だね」
「お前、俺の初動を捉えてたな?なかなかやるな。俺は『五素の悪魔』が一人、風のエギル。どうぞよろしく」
そう言ってエギルはにやり、と笑った。
「『五素の悪魔』!?魔王軍残党を指揮してる魔族がなんでこんな辺境に!?」
「まぁ、ある作戦を行うためだ」
「……あなたこの辺の魔物を強化してない?あなたと似た様なオーラを持ってるビックスライムを倒したんだけど」
「……!?少しだけ俺の魔力を混ぜた魔物から俺がそれをやった本人だと見破ったのか!?」
流石、天使だけあるな。邪悪な力には敏感という事か。
「……はぁ、俺の攻撃を避けるといい、作戦を見破るといい、お前らは不安分子だな……殺りたくないけど、殺るしかないか」
そうエギルが言ったとき、エギルから出るオーラが変わった。俺でもわかる。これは殺気だ。
俺は剣を抜く。
なんか俺たち殺されそうだけど、どうにかするしか無いよな。俺はもう生き返れないし。
そんな事を考えたとき聞き覚えのある声がした。
「ハヤトさんとミルさん!?」
「え?……なんで姫様がこんなところに?」
「帰る途中でこの人に捕まってしまって」
捕まってる割には随分と元気そうだ。
そうだ……ここで俺が殺されたら恩返しどころか助けてもらった命をまた散らす事になる。
返すべき恩も返せないのは家訓に反する。
家訓ってのは借りたままにするなってやつだ。
「下がってろ、王女。俺はこいつらを殺す。なるべく殺しはしたくなかったんだが、これでも俺は魔王軍の端くれなんでな。お前には悪いが知り合いを殺させてもらう」
やばい、やばい!こいつ本当に俺たちを殺す気だ!
さっきの感じだとまだこいつは本気を出していない。そうなると一人で避けるのが精一杯になる。
いや、一人でも避けられないかもしれない。なら俺がすべき事は……。
「エギル、隣にいるミルは殺さないでくれるか?そのかわり人質にしてくれてもいい。こいつは子爵の娘なんだ」
「まぁ、いいぜ。俺の攻撃を見切ったのはお前だけだった様だしな。じゃあ始めるか」
「ちょ、ちょっと待ってよ!二人で戦った方が有利だよ!」
「違う。ミル、お前はさっきエギルの攻撃が見えてなかっただろ。だから足手まといだ」
ミルはそれはそうだけどって顔をしている。
俺がこんな事を言うとは思ってなかったんだろう。
でもこれでいいんだ。
ミルをこの世界に引き込んだのは俺だし、こんなところで死なせるわけにはいかない。
「話はまとまったか?それじゃあ、始めるぞ?」
エギルがそう言った瞬間、エギルが消えた。足元に魔法陣みたいなのが見えた。
どこに消えたんだ!
瞬間移動みたいな物だとすると後ろか!
そう考え、体を回転ながら剣を横に振る。
しかし後ろにはいなかった。
俺は慌てて前を向く。そこにはエギルがいて手を振り上げていた。
そのまま手が斜めに振り下ろされる。
エギルの手は当たっていなかったのに俺の腹にはかなり深い傷ができている。
血が噴き出して、俺は仰向けに倒れて意識が途絶えた。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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