覚醒
ここはどこだ?見渡す限り真っ白で上も下もわからない。
とても腹が痛い。そうだ、俺は腹を切られて……それからどうなったんだ?
そんな事を考えているとなぜだかある記憶が頭に思い浮かんだ。
あのときもこんな感じで重傷を負ったはずだった。
これは前の世界の話だが、小さい頃、公園に遊びに行く事になった姉と俺と妹は道を歩いてたんだ。
ちょうど俺が死んだ道を通っていく。そうすると突き当たりに公園があるんだ。
公園が近づくと姉と妹が先走って道路に飛び出す。
そのとき俺にはトラックが見えていた。とっさに俺も飛び出して姉と妹を体当たりで押し出す。
俺はもちろんトラックにはねられて吹っ飛んだ。
俺だって小さいから普通、死ぬだろ?
だけど俺は生きてた。
そればかりかまったく怪我がなかったんだ。それに今思い出してみれば体が前より軽かった気もする。
な……なんでこんなこと思い出したんだろう?走馬灯ってやつか?
でも俺はまだ死ぬわけにはいかない。
姫様がせっかく助けてくれた命、無駄にはできないし恩を返さなければいけない。
それにせっかくの異世界転生はまだ始まったばかりなんだ。
まだいけるだろう?あいつを倒すんだ!
そう決心したときある言葉が頭に浮かんだ。
『限界突破』そう叫べばいい気がした。
「『限界突破』!!」
そう叫ぶと同時に意識が覚醒した。
すると、どうだろう体は軽いし、傷は完全に治っている。
俺が腹を切られたときからそんなに時間は経っていない様に見える。数秒といったところだ。
腹を切られた理由もわかった。
風だ、風の刃で腹を切られたのだ。
頭の回転もいい。最高のコンディションだぜ。
「『限界突破』だと!?それは勇者だけが保有できる特別な技だぞ!?なぜお前がそのスキルを持っている!?」
「ハヤトの覚悟はしっかり見たよ!私も力を貸すよ!」
ミルも何かしてくれるみたいだ。
これで、もしかしたら勝てるかもしれない!
「この世に残る、我が眷属達よ!我が聖なる力を用いて、彼の者に並ぶ者なき絶対の力を!『超・限界突破』!!」
ミルがそう叫んだ瞬間、俺に更なる力が流れ込んでくる。
俺の全ての能力が何倍にも膨れ上がっていくのが分かる。
俺の出す圧で姫様は気絶してしまっている。
エギルは気絶はしていないがかなり気圧されているようだ。
「エギル、いくぞッ!」
俺は剣を取って、剣に魔力を流す。
剣が一時的に鋭さを増しているのがわかる。
しかしこれは銅の剣だ。少しの時間で跡形も無くなってしまうだろう。
今の俺は思考能力も上がっているようだ。
俺は特性を発動させてスーパースローの世界に入る。
前より更に遅くなっているように見える。もはやハイパースローだ。
この中でも俺は普段と同じ速さで走れるだろう。
俺は素早くエギルの後ろに回り込む。
そして剣を袈裟懸けに振り下ろす。
しかし空振り、エギルはギリギリで横に転がって避けていた。
「おいおい、どれだけのパワーだよ。それ受けてたら俺はバラバラじゃねぇか」
エギルが頬を引きつらせて言う。
「まだまだいくぞ!」
俺はさっきみたいに圧倒的な速さでエギルに迫るが、ギリギリのところで避けられてしまっている。
何かスキルを使われて避けられている気がする。
結局なんの対抗策も浮かばないままこのやりとりを何回か繰り返した。エギルは疲れてきているようだ。
対して俺は全然疲れていない。無限に力が湧いてくる。
「もう一度だ!」
そのときエギルがふっ、と笑った。
「かかったな、『結界陣』!……よし、これでお前はそこから出られないはずだ。その結界には強力な弱体化の効果がある。お前の攻撃を避けてる間に構築したのさ」
確かに力が弱まってる気がする。
だが俺が踏ん張って思いっきり剣で切るとあっさりと結界は割れた。
その瞬間、俺は思いっきり跳んでエギルに肉薄し、剣の柄でエギルの頭を殴った。
エギルは結界を破られるとは思っていなかったようで避けられず気絶した。
人を殺すのには抵抗があった。
だからエギルを殺せなかった。まぁ殺す必要もなかったんだけどね。
そう思った瞬間、体から一気に力が抜けていった。
立ってもいられない。そのまま仰向けに倒れてしまった。なんとか頭はかばったがな。
「いやー、まさかハヤトが特異点だったとはね。正直驚きだよ」
「特異点ってなんだ?」
「特異点って言うのはね。天界ではその世界における重要な事件が起こる場所や人の事を指して言ってるんだよ。そういう人には不慮の事故とかで死んじゃったりするのを防ぐために様々な異能を与えて身を守れるようにしているんだ」
「俺ってそんな重要な人間だったの!?」
正直家でゲームとかやってた俺がそんな星の元に生まれた人間だとは信じられない。
「私も今、気づいたよ。おかげで命拾いしたね」
前の世界ではあっさり死んでしまったがな。
さて、これからどうするか。
俺は動けないし、姫様も気絶している。これじゃあ帰れないぞ。
そんな事を考えていると突然声がした。
『おい、そこの神聖存在。この魔族の影を作ってくれんかの?』
突然聞こえてきた声は女の子の声だった。
しかし姿がどこにもないのだ。声がしたのはエギルの方だったが何もいない。
「神聖存在って私の事?」
『そうじゃ。早くこの魔族を動かしてくれ、外に出ることができんのじゃ』
ミルはとりあえず言う事に従うことにしたらしく、ダンジョン内の光源の下までエギルを転がした。
するとエギルの影の中から女の子が出てきた。
とんでもない美少女で年は中学生くらいで髪は綺麗な紫でとても長い、膝上まである。
「おお、助かった、ありがとう……あー疲れたわい。影の中に随分こもったからのう」
ミルは口をポカンと開けて固まっている。
「とりあえず俺はハヤトでこっちがミルだ」
「おっと、自己紹介を忘れておった。わしの名はエリナ・ブラッドじゃ。エリナと呼んでくれていいぞ。よろしくな」
そう言って手を差し出してきた。
差し出された手を握るとエリナはにっこりと笑った。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。
下にスクロールしていくと手軽に評価できるのでお願いします。




