最強の吸血鬼
「エ、エリナさんは吸血鬼ですよね?どうして魔族の影の中に?」
ミルが下手に出て話している。
なんだ様って。見た目はからして年下だろ?
しかし吸血鬼は魔物だと思っていたが姓があるってことは貴族ってことか?だからミルはこんなにかしこまっているのだろうか?
「様などつけなくても良いぞ。わしは独り立ちしているから貴族じゃないようなものじゃからな」
「じゃあ、エリナ。なんでエギルの影の中に聞かせてもらっていいか?ていうか俺が死にかける前に助けてくれよ」
俺はエリナの考えている事が分からなかった。一歩間違えれば俺たちは死んでいた状況だったんだからな。
「お前が死にかけた件については済まなかった。わしが起きたのはほとんど今なのじゃ。この魔族の影の中にいた理由はまぁ潜入調査というやつじゃ。こいつの動向を探っておる最中だった」
何という理由だ……
話を聞けば、1週間ほど前に指名手配中のエギルを見かけて、影の中に忍びこんだのだと言う。
そして五素の悪魔のアジトを見つけて本国に連絡してやろうと考えていたらしい。
「ミル、吸血鬼ってどのくらいの強さなんだ?」
「吸血鬼は最強だよ!ハヤトの考えているような弱点はおよそない。ただひとつだけ弱点があるけどね」
つまり太陽の光に当てられても焼け死なないし、大蒜や十字架が苦手でもないと。
「お前が考えている弱点とやらが何か知らんが、わしら吸血鬼は数々の弱点を歴史とともに克服してきた。そればかりか新たな強さも手に入れた。しかしそれでもわしらは『六芒星の儀』を受けた聖騎士には勝てん。それに加えて今の吸血鬼はかなり弱っているのじゃ。したがってミルといったかの?お前が言うような強さは今の吸血鬼にはないのじゃ。さっきのハヤトには秒殺されるレベル。これも忌々しい太陽のせいじゃ!」
理由を聞くと人間には太陽の血と月の血の二通りの血の種類があって、この時代は太陽の血が多く、月の血の人間はほとんどいないらしい。
太陽の血は飲むことはできるが吸血鬼は少しずつ弱体化するらしい。逆に月の血は強化されるというわけだ。
吸血鬼は血を飲まなくては生きていけないという点は克服したそうだが、不完全な克服だったようで月一ぐらいで飲まなければどんどん弱っていってしまうらしい。
しかも人類との条約によって吸血には人間の同意が必要で、同意してくれる人間自体も大変貴重だという。
だが吸血鬼は血を飲まなくては弱ってしまう。
そのため太陽の血でも飲まなくてはならない。弱体化すると知っていても。
しかし弱体化には限界があるようで、身体能力という点では普通の人間と同程度までしか下がらないらしい。それに人間と同程度になるまでには五十年はかかるらしい。
「で、だ。どうやらハヤト、お前は世にも珍しい月の血の持ち主のようなのじゃ。だからわしをお前の配下として死ぬまで置いてくれんかの?そのレベルで月の血の人間はいないのじゃ。それにお前はかなり妙な力を持っていると見える。強い血は吸血鬼を強くしてくれる何よりのものなのじゃ。だから、どうかわしをお前の元に置いてはくれんか?」
地球での今の時代は月の血なのかもな。
この感じだとエリナは随分と太陽の血を飲んできたようだ。
血を飲ませるのは別にいいんだが、俺はこの世界を楽しみたい。だから何か体に害があるなら遠慮したいところだ。
「ちなみに吸血は俺の体に害があるのか?例えば俺が吸血鬼化したりだとか」
「それはない。吸血には二通りあって、眷属をつくる目的でするもの、つまり人間を吸血鬼にするものと食事を目的にするものの二つだ。わしがするのは食事の方じゃ。だから体に害はない。しかしじゃ!逆にお前にはメリットがあるのじゃ!わしが吸血をするとお前に少しばかりだが吸血鬼性を与える事ができる。体の再生が速くなったり、身体能力が向上したり、というな!」
確かにそれは魅力的だ。体の再生が速くなるというのは特に。うちのパーティには回復がいないからな。
それに配下になるとかいってるんだからエリナ自体も味方になってくれるのだろう。
「よし、その提案乗った!」
「じゃあ早速始めさせてもらうぞ。わしも早く血が飲みたいからのう」
そのまま俺を起こして正面から首にかぶりつく。吸血されると快感が生じるとかなんかで読んだけど、あれは嘘だな。
というか少し痛い……こいつ!意外と遠慮がない!
このままだと最悪、吸い尽くされる!!
「お、おい、エリナ、少し飲み過ぎなんじゃないか!?このままだと血がなくなる!」
俺はギブだ、と背中をパンパン叩く。
「す、すまん!無害な血はあまりに久しぶりでついついがっついてしもうた」
そう言いながら俺の正面から離れる。
そして俺は気づいた。自分だけで起き上がれている。多少、力が入らない部分もあるが大丈夫だ。
もう吸血鬼性が付与されたのだろうか?
「ね、ねえハヤト、なんかこの魔族の頭から血が流れるんだけど?もしかして殺しちゃったりしてないよね?」
そう言われると力加減ができていなかったような……ま、まずい!?だとすると俺は相当の力で殴ってしまった事になる。
「なんじゃ、人間はそんなことでいちいちあたふたしているのか?」
そう言ってエリナは自分で持っていたダガーのようなもので自分の腕を切りつける。
もちろん大量出血。
しかし何事もなかったようにエギルの前まで歩いて行き自分の血をエギルの頭にぶっかける。
するとみるみる内に頭の傷が塞がっていく。多分あれは何針とかいうレベルの傷だったと思うんだが……それよりもエリナだ。
「お、おい、エリナ、お前大丈夫なのか!?」
「ん?ああ、わしは大丈夫じゃ。ほれ」
見るともう傷がなかった。吸血鬼ってのは凄いな。これで弱点が少ないんじゃ最強と呼ばれるのも理解できる。
「まぁ今のを説明するとじゃ。吸血鬼がこのような回復力を誇るのは血のおかげじゃ。だからわしの血をかければ傷が治るというわけじゃ。もっとも今ではこれほどの再生能力を持つのは吸血鬼王だけじゃがな」
「きゅ、吸血鬼王!?ま、まさかエリナって吸血鬼王なの!?じゃあなんでエリナが弱るなんて事になるの?月の血が少ないって言ったってそんなに少ないわけないでしょ?それに吸血鬼王に血は優先されるはずじゃない?」
吸血鬼王、そういう種類だ。
王と言っても一人だけというわけではない。別名ヴァンパイア・ロード。
ミルは前に勇者になるのは人間以上の知能を持つ生物と言っていた。つまり吸血鬼も勇者になれるということだ。
随分前の代の勇者の事だが魔王を十代前半で倒したという逸話がある。
そのときの勇者が吸血鬼王というわけだ。勇者の体には傷ひとつなかったと言う。
まぁそれはそうだろうと思う。弱体化してこの回復力、力が戻ったらどうなるんだか。
「……その通りじゃ、ミル。ここ三十年で二人見つかった。だが条約で一人の人間につき、その人の血を吸えるのは吸血鬼一人と決まっている。だから父上と母上の分だけしかないと言うわけじゃ。そしてわしは月の血探しの旅に出たということじゃ」
なるほどね……旅にはそういう経緯があったのか。
いやー、本当に人間色々な事があるな。
行き当たりばったりなクエストではあったけどなんとか達成かな?……それにしても何か忘れているような気がしないでもない。
ああっ!!そうだミルだ。あいつ『超・限界突破』とかなんとかを俺に使ってたよな。あれは一体なんなんだ?
「ミル、そういえばお前、俺に『超・限界突破』っていうのを使っただろ?あれってなんなんだよ?」
俺の予測が正しければミルにも何かしらの反動があったはずだ。俺がぶっ倒れたみたいに。
「ええと……まぁその……あの力は本来の私が持つ力を解放するものなんだけど、他人に譲渡することもできるんだ。効果としてはハヤトが使った『限界突破』のおよそ五倍、対価は私の神性とこの世界にいる精霊って事になる。本当はできるかどうかわからなかったんだけど、ギリギリ足りたよ」
「でもお前は前にほとんど力は残ってないみたいな事を言ってなかったか?」
確かに言っていたはずだ。だからそんな本来の力を出せるわけないと思った。
「うん、その通りだよ。だから多分一年くらい力は使えないと思う」
するとエリナが笑った。
「ふふふっ。嘘を言うでないぞ、ミル。わしが目を覚ましたのはお前自身から発されたとんでもない神性を感じたからじゃぞ?上位の精霊とも比べ物にならんのではないか?神がお前だと言われてもおかしいとは思わんよ。まぁいい。その辺りのことは二人で腹を割って話し合えば良い」
エリナはそこで手をパン、と叩いた。この話は終わりだということらしい。
「それよりこれからのことじゃ。まずそこで寝てる魔族のことじゃが、わしの影の中に入れて縛っておこう。それとそこの金髪の他にも奥に何人かいるようだがどうする?」
金髪って……いやそうか、エリナは姫様がお姫様だってことを知らないんだ。
それより奥の人たちの方が気になるな。姫様のお付きの人か?
とりあえずミルに姫様を起こすように頼んで俺たちは奥に進んだ。
そこにいたのは予想通り執事さんだった。他にも四人いたが、おそらく護衛か何かだろう。
全員倒れている。目立った外傷もないし俺の圧力のせいだろう。
早速エリナと二人で起こしてみるが起きる気配がない。
「これは完全に気絶しとるのう」
「この感じだと多分起きないよな……エリナはこの人たちも影の中に入れることはできるか?」
影の中に入れれば重さもなくなるようなので重くなくて済む。この人たち鎧つけてるしな。
「うむ、可能じゃ。しかし途中で起きて暗闇で混乱するとまずい。一応わしが深い眠りに落とす魔法を使っておこう」
そんないらなそうな魔法も覚えてるのか。
「エリナは魔法を覚えるにはどんな方法をとってるんだ?」
魔法はスキルで一応『上級魔法』までがあってこれで習得できるのだが、スキルで習得できるのは火、水、風、土の四系統までだそうだ。
つまり系統外の魔法は練習して習得するしかないらしい。
直接習得するには何種類かの方法があるらしいが最もポピュラーなのは二つ、一つ目は人から習う、二つ目は魔法書を読む、という方法だ。
しかし二つ目の魔法書はべらぼうに高いため普通はそもそも読めない。
魔法書というのは魔法に精通するいわゆる賢者、なんて呼ばれたりする人が描く本なのだという。
なぜ本なのに書くではなく描くなのかというと、魔法書に描いてあるのは特殊な魔法陣だからだ。
魔法書の魔法陣に魔力を流すと対象の魔法のやり方が頭に入るそうだ。
魔法書の魔法陣は記憶魔法と覚えたい対象の魔法を複合させた高度なもので、対象の魔法がショボいものだと描きやすいそうだが、レベルの高い魔法になると格段に魔法陣を描く難易度が上がるらしい。
つまり描いてある魔法陣のレベルが高ければ高いほど値段が上がるということだ。
安いもので金貨数枚、ヤバイものになると国宝になるそうだ。
話を戻そう。
俺がなんであんな事を聞いたのかというと、最強の吸血鬼ならもしかするとこの前の早覚えみたいな覚え方を知っているのではという期待があるからだ。
「わしらは『血の記憶』という吸血鬼だけが習得できるスキルで覚える。このスキルは自分と同じ血族の記憶を共有してできるのじゃ。つまりわざわざ覚えようと努力せんでも親から魔法を記憶として継承できるのじゃ……ハヤト、さっきはかなりの量の血を飲んだから、もしかすると『血の記憶』が習得できるかも知れんぞ?」
まぁ、ありえんがな、とエリナは付け加える。
「やっぱりあれ結構飲んだ方なのか?」
俺はなんだか怖いような気がして胸ポケに入っているカードを出した。
俺はまずスキル習得可能欄を見ると『血の記憶』があった。やっぱりなりかけてる。
次にカード全体を見て卒倒しかけた。ほぼステータスが前の二倍になっていた。
これは吸血鬼の体になりかけていて身体能力が上がっているということに他ならならない。
そして次の瞬間、今度は頭が真っ白になった。
俺のカードの種族欄には『人間もどき』と書かれていたのだ。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。
下にスクロールしていくと手軽に評価できるのでお願いします。




