学術都市スカーリア
四天王就任からしばらく時間が経ち、年が明けた。
「講師をやれ、ですか?」
「ああ、学術都市スカーリアで一ヶ月程非常勤講師をやってくれ」
俺はアレスさんに呼ばれて王宮に来てみると、こんな突拍子もないことを言われた。
正直断る気満々なんだが、一応話だけは聞いておこう。
「続きをどうぞ」
「……学術都市大陸中の支援を受けながらも、他の国の政治的な影響を受けない。権力から完全隔離された都市だから、貴族も平民も平等な場所で、俺が行った時は居心地が良かったなぁ……」
「だから何なんですか?」
「お前のパーティーにミルって子が居たろ?彼女も講師として着任して欲しいから伝えておいてくれ」
質問の答えになってねぇよ。
「……はっきり言いますけど、俺は嫌です」
「残念ながらお前に断る権利は無い。何故だか分かるか?それはな、お前が断っても、俺がギルドに依頼として出すからだ。勘違いしないで欲しいんだが、俺は別にお前に嫌がらせをしたい訳じゃない。うちの国は学術都市に講師をあまり送ってないから、他の国から圧力をかけられてるんだよ。だから頼んだ、国のために働いてくれ」
「……リリーはどうするんですか?流石に俺とミルが二人だけで一ヶ月間一緒に行動するのを認めてはくれないでしょう。あいつには領地の仕事を任せてますから連れてくことも出来ないし」
「それなら安心してくれ。リリーは聞き分けがいい奴だから、仕事だと言えば、多分許してくれると思うぞ」
マジでSランク冒険者辞めたくなってきたわ。
結局俺は何も言い返せず、家に帰る。
そして、リリーに仕事のことを話すと二つ返事で了承されてしまった。
「お前心配にならないのか?自分の婚約者が他の女と一ヶ月出掛けるんだぞ?」
「ええ、大丈夫ですよ。私、ハヤトさんとミルさんのこと信頼してますから」
己は仏か。
ミルは嫌がるどころか、楽しそうに準備を進めている。最早俺に逃げ場はない。
俺たちは一日で準備を済ませ、次の日には飛空艇で学園都市スカーリアに向かっていた。
「なぁ、お前は本当に良かったのか?こんなの面倒臭いだろう」
「うーん……そうでもないかな。先生って一回やってみたかったし」
なるほどねぇ……そういう考え方もあるのかな。
「……あ、住むところどうする?一応寮もあるみたいだけど」
「一ヶ月だけだし、寮でいいんじゃない?」
「あ、そう……」
俺はまた家でも買ってしまおうかと思っていたが、ミルが寮でいいと言ってるので大人しく引き下がることにした。
それによく考えると、寮生活なんてした事なかったので、してみたくもなった。
飛空艇の中で二日過ごすと、学術都市スカーリアが見えてきた。
なんかもう素晴らしいの一言に尽きるわ。
分厚く、高い外壁で覆われていて、飛空艇でもないと、絶対に超えられない。
広さも半端なく、レガリアの王都の二倍はありそうだ。
大きい建物がかなり多く見えるが、これが学校なのだろう。
そして、その中でも一際目立つ城のような巨大な建物が見えた。これが恐らく俺たちが赴任するスカーリア総合学園だろう。
俺たちは適当なところで飛空挺を降りて、街に入る。
警備もアホみたいに厳しくて、仮講師証を持っている俺たちでさえ、軽い荷物検査をされた。
どうせ各国から総勢五百名を超える騎士が派遣されていて、悪いことなんて出来やしないのに。
学園の事務室で名前を言うと、理事長室に通された。
ここの理事長という事は実質的にこの街のトップでもある。つまりはすごい偉い人だ。
「キリュウ公爵、ミルさん、ようこそスカーリアへ。私が理事長のエリサ・マクラレンです。まさか高名なSランク冒険者のお二人に来て頂けるとは思ってませんでしたよ」
理事長は優しいそうなおばあさんだった。
意外にも普通そうな人でびっくりした。もっと厳しそうな人が出てくるのかと思った。
「いえ、こちらこそお招き頂き光栄です」
「そう言って頂けると嬉しいですね。事前にお伝えした通り、明後日からキリュウ公爵には実践剣術科の、ミルさんには実践魔法科の、講師になって頂きます」
「はい、よろしくお願いします。それと住まいのことなんですが、講師寮に住まわせて頂きたいのですが……」
「それは大丈夫なんですが、今、学園内の寮の方が混み合ってましてね、一部屋しかお部屋の準備が出来てないのです。広めのお部屋ですし、お二人で使って頂くということになるのですが、よろしいかしら?」
いや、流石に婚約者がいる俺としては避けた方がいいよな?
「いえ、別に構いませんよ。パーティーが二人だけだった頃は一緒の部屋で寝てましたし」
ちょい、ミルさん、何言ってんの?俺彼女持ちみたいなものだよ?
いや……これは俺のことを男として全く意識してないわ。それはそれで傷つくが、間違いが起こらなそうで安心だ。
「ええ、そうですね。自分も構いません」
「それなら良かった。私も少し忙しいから、説明もここまでね。部屋は第三講師寮の四○三号室、この学園は広くて迷うと思うけど、まずは沢山迷って、色々覚えて下さいね。では今後のお二人の活躍に期待しております」
俺たちは理事長にお礼を行って、第三講師寮を目指す。
結局寮に着いたのは理事長室を出て、一時間後だった。
「あー、疲れた。学園がここまで広いとは思わなかった」
「そうだね。ここまで時間が掛かるとは思わなかったよ」
ここで俺はふと思った。わざわざ寮に住まなくても『テレポート』の魔法陣をここに描いて、毎日行き来すればいいじゃないかと。
俺はこの事をミルに言う。
「ハヤトも酷いこと言うね。ここから転移するって事はすごい魔力を使うんだよ?この間研究所から転移魔法の最適化魔法陣のデータが送られてきたけど、それでもここからエドナまでは無理って程でもないにしても大変だよ。それに私、ハヤトとの寮生活楽しみだったんだよ?昔に戻ったみたいで」
まぁ俺も楽しみだとは思うけどさ……まぁいいか、楽しければそれでいいや。
「それもそうだな。じゃあ、俺街で夕飯の買い物してくる」
「うん、お願い。私は荷解きしとくね」
「よろしく」
街に出るとここが学術都市であることを実感する。
十代前半が本当に多いのだ。
そう考えるとやっと十代後半になった俺が一体どんな顔をして、そんなに年の離れていない子に物を教えたらいいのか、と心配になってくる。
居心地が悪くなった俺はさっさと買い物を済ませて、寮に戻る。
「ただいま」
「お帰り、荷解きは終わったよ。そんなに物もなかったからね」
所詮一ヶ月だからな。
「ありがと、じゃあ飯作るわ」
夕飯を食べ終え、部屋についている風呂に入って体を癒す。
そして、今日はもう疲れたし、寝る訳だが、ここで問題が発覚した。
「なぁ、なんでベッドが一つしかないんだろうな?」
「いや……まぁ、でもダブルベッドだから私は全然大丈夫だよ?」
いや、貴女が大丈夫だからと言って僕も大丈夫という訳じゃないかも知れないんですよ?
はぁ、なんかもうホントに凹むわ。ここまで男扱いされてないとは……。
こうなりゃ、俺もヤケだ。
「しゃあないな、もうこれで寝ちまおうぜ?」
「うん、そうだね。おやすみ」
……こいつ普通に寝やがった!マジでどういう神経してんだ?
こうして、俺は一人悶々しながら一夜を過ごした。
二日どころか三日になってしまいました、すみません。
次回もいつになるか未定ですが、早めに更新出来るよう頑張ります。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
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