私とエリナ
とりあえず、二日目までの試合が終了した。
俺とエリナは順当に勝ち上がっていて、残すところは明日の準決勝と決勝のみとなった。
中々に強い相手も多く、イングリッドの不可視能力まで使ってしまった。
ガイナスさん、どんな強い人か楽しみだ。
『さぁ、とうとう今日、四天王が決まります!ここまで数々の名試合が行われてきました!ベルムドさん、勝ち残った四人はやはり別格ですか?』
『ええ、強者揃いというのはまず間違いないです。ガイナスさんはもちろん、無名の剣士ハヤトのような選手もいますからね、何が起こるか全く分からない展開になってきました』
『確かに無名のハヤト選手がここまで勝ち上がってくるとは誰も思わなかったでしょうね。それでは試合に移っていきましょう!東の門から出てきたのは、闘技場の覇者グラス選手です!そして、西の門から出てきたのは無名の剣士ハヤト選手です!……では、試合開始!』
相手はバリバリの近接型、こうなれば、俺も相手に付き合うしかない。
そう考えた俺は一気に距離を詰める。
「正々堂々と向かってくる姿勢は褒めてやる!ぬぅッ!」
俺はグラスの大振りの一撃を避ける。
すると、俺が一瞬前にいた場所にはクレーターが出来ていた。
マジでこれ食らったらヤバい、まぁ再生するから俺が負ける事はないんだけど。
『グラスは大剣を装備したパワー重視の選手です。振り下ろされる高威力の一撃を正面から防ぐのは得策ではないでしょう。ハヤト選手もそれが分かっているようですね、しっかりと避けています』
今までの試合見たら分かるでしょ。あんなの一発でもまともに受けたら粉々になっちまうよ。
俺は大振りで倒すのを諦めて、ちょくちょくダメージを与えていくことにした。
「ちょこまかと鬱陶しい奴め!それに剣を透明化するのは卑怯だぞ!」
「これも戦略ってもんだろ、グラスさんよぉ?」
『おい、私よ。私と今だけ変わってもらえないか?こんなものをずっと見せらていると、体が疼いてくる』
「あ、その手があったわ。面倒臭いからお前の戦闘センスで倒しちゃってくれ、ついでに決勝までやってくれ」
『ハハハ、お前はブレないな。今回は感謝する。スリーカウントで入れ替わるからな、三、二、一』
って忘れてた……これをやると俺は意識が遠のくんだった……後は頼んだぞ、俺……。
「任された、私よ」
「さっきから何ブツブツ言ってんだ!?」
「すまん、すまん、こっちの話だ。さぁ、セカンドラウンドと行こうか!」
私の今までの戦略は概ね良い。
切り札として『明鏡止水の境地』を残しておくのは良い選択肢だ。
私もその作戦は引き継いでやろう。
しかし、だ。あいつはどうやらグラスに致命傷を与えないように、だとか、そういう要らない気遣いをしていたようで、動きが鈍っていた。
こんな事にも気づかないようでは、まだまだ未熟だ。
その点、私は意識が違う。
手心を加えようなどとは微塵も思っていない。それに優秀な神官もいるのだろうから、そんな気遣いをする必要はないのだ。
「そらそら、もっと上手く踊れよ。でなければ死ぬかもな!」
『何という事でしょう!ハヤト選手の動きが更に良くなっています!』
『これは驚きを通り越してに呆れてしまいますよ。この期に及んでまだ力を出し切っていないとは』
まぁ出し切っていないというか、無意識にセーブしていただけだろうがな。
「舐めやがって!もう許さねえ、俺の必殺技で殺してやる!!」
おお、おお、威勢がいいな。
どんな技が出てくるか、楽しみだ。
「喰らえ、『大地斬り』!!」
「……それがお前の必殺技とやらか?期待外れだな」
「なっ!?確かに当たったはず!?」
「普通に剣で防げたぞ……それに、戦闘中に痛い技名を叫ぶ奴があるか。身の程を知れ!」
私はガラ空きの頭に蹴りを入れる。
『し、試合終了!グラス選手の代名詞『大地斬り』を二重の意味でバッサリ斬って捨てた、ハヤト選手の勝利です!』
『これは肉体的というよりも精神的にくるでしょうね。これを機にグラス選手が引退しないことを祈るばかりです』
それにしても何故あいつはああも小物っぽいセリフを言ってしまうのだろう?
私はあいつの小物さに溜息を吐きながら、エリナのところに行って時間を潰そうと思い、Aブロックの会場に向かう。
「おお、エリナ。試合はどうだった?」
「何じゃ、ハヤトか。当然に勝ったに決まっておるだろう」
「それは重畳、暇潰しに何か話さんか?」
「……その口調、もう一人の方か。体を奪ったのか?」
エリナは私をキッと睨んでくる。
「違う違う、私はちゃんと了承を受けて、表に出てきている」
「……ふん、まぁいい。それで何か面白い話でもあるのか?」
「ああ、あるぞ。お前、あいつの事が好きだろう?」
「……は?あいつとは誰じゃ?」
「ん?分からないか?もう一人の私の事だよ」
「ななな、何を言っておるのじゃ!?そんな訳あるわけでないじゃろう!」
「恥ずかしがらなくても良い。今あいつは寝てるし、この記憶も思い出せないようにしておいてやる」
「だから、そんな事はないと言っておるじゃろう」
私はここで徹底的な証拠を突きつける。
「ではお前は何故、私の血を吸っているんだ?」
「それはどういう事じゃ?それは月の血がお前しかいないからじゃろう」
ふむ、あくまでもシラを切るか。
「それは違うだろう?刀香がいるのだから。それに私の血は既にお前の血で薄まっている。そんな血を飲むより、刀香の血を飲んだ方がいいだろう」
「その考えに至るのは普通じゃな。しかし、わしら吸血鬼の血の契約は絶対じゃ。これは何よりも優先される事じゃ、破る事は許されん。まぁそれを抜きにしてもわしは主様としてハヤトが好きじゃよ?だが、これは断じて恋愛感情ではない。これで納得が行ったか?」
むぅ、言いくるめられてしまった。
暫しの余興としてあたふたさせてやろうと思ったのに。
そこで私は名案を思いついた。
「恋愛感情はないか。それなら私とハグしてみないか?なーに、挨拶だ、挨拶、何も困る事はないだろう?」
これでどうだ?
「ま、まぁそうじゃな。挨拶、そう挨拶じゃ……ってんな訳あるかッ!」
すごいノリツッコミだな。
すっかり忘れていたが、この世界でハグは挨拶ではなかった。
「私の生まれた国では挨拶だ。だから安心しろ。ほれ、ばっちこいだ」
「ほ、本当か?まぁそれならやるか。そう、これは挨拶じゃ、何もやましい事はない……」
エリナは自分に言い聞かせるように言う。
「そう、そう。何もやましい事はないぞ」
私の一押しで覚悟が決まったようで、エリナは胸に飛び込んでくる。
「やはり真っ赤になっているではないか」
「これは違うのじゃ!少し暑いだけなのじゃ!」
「ハハハ、なら良いが、自分から動かないと、あいつは動かんぞ?あいつはあれで結構鈍いからな。それにもたもたしていると側室にもなれんかも知れぞ?」
「……勝手に言っておれ。わしとあいつの関係はあくまで従者と主人だ。それ以上にもそれ以下にもなる気はない」
「ふむ、そうか。お前がそこまで言うのならそうなのだろう。楽しい時間だった、ありがとう。私はそろそろ会場に戻る」
「ふん、さっさと帰れ。まぁでもこれだけは言っておいてやる、絶対勝つのじゃぞ!」
「ああ、無論だ」
おかしな事に、この時、私はやる気に満ちていた。
只今立て込んでおりまして、更新が二日おきになることがありますが、ご了承下さい。
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