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もう一人の俺

 エドナに戻ってから約二週間。

 俺はこんな噂に悩まされていた。


『領主様は平気で人を斬るような冷酷な人間だ』

『本当か!?今年の税金は増額しそうだな、一体いくらになるのか……』


 さらにはここから転じて、


『領主様はリリーシャ姫を誑かして、無理やり手籠にした最低の人間だ。今の地位もそのためだ』


 なんていう、不名誉な噂まで流されてしまった。

 これ本当に不敬罪で取り締まってやろうか、というのは流石に冗談だとして、この噂が一体どこから広まったのかを突き止める必要がある。


 確かに俺は必要とあれば人も斬る覚悟でいるが、殺しは出来るだけ避けているはずだ。

 だからこんな噂がどうして出てきたのかを俺は知りたい。

 結局今まで聞きそびれていたが、夢の中に出てくるあの声の正体もよく分からないままだし、俺はやること盛り沢山だ。

 声は俺の体を自分の体とか言い出しているところを見ると、俺が寝ている間にアストラル系の魔物が俺を操っているのでは、と思っている。


 そして、今日は例の夢の日なのだ。

 今日は何としてでも問い詰めて白状させてやる!


 俺はそう意気込んで眠りにつく。



『ドキドキ、老後のイチャイチャ生活!イェーイ!』


「俺の声で気持ち悪いこと言ってんじゃねえ!」


『釣れない奴だ。この間はゲーム感覚で楽しんでいただろう?』


「そ、そんなことねえし!……それよりだ!お前は一体何者だ!街で俺の変な噂が広まってるんだよ、お前なんか知らないか?」


『知らんな。だが、一応聞いてやろう。どんな噂だ?』


「元の噂は俺が平気で人を斬るような冷酷な人間だって噂で、そこからどんどん話が変わっていって、最終的には俺がリリーを誑かして、手籠にしたとか何とか」


『し、知らんな。特に前半は全く知らん』


 ん?何か反応がおかしくないか?


「まぁいい。それでお前は一体何者なんだ?」


『それは前にも言っただろう?私はお前だ』


「それの意味が分からないんだろ!」


『……あまり言いたくはないんだが、私はお前の中に流れる吸血鬼の血が生み出した人格みたいなものだ。

初めてそれが表に出たのが、この間のエドナ強襲騒動のときだ。あのときの記憶がお前にはないだろう?あれはリリーが私と私になっているときの記憶に封印を施したからだ。リリーが封印を施したのは私がスナック菓子を食べる感覚で敵を殺した、その記憶がお前に有害だと断じたのだ。つまりまぁ、お前が言う噂の前半はおよそ正しい。そういう冷酷な性格というのが私だ』


 な、何だと!?

 俺の体にそんな異変が起こっていたとは。

 しかし、俺はこれに対してどんな対策を取ればいいんだ?


「じゃあ、お前の封印はどういうときに解けるんだ?」


『まぁ、端的に言えばお前が無茶をしたときだ。「限界突破」を使ったり、吸血鬼の再生能力を使いまくったりとかな……ああ、でも安心しろ。前のように暴れ回るだけが私の取り柄ではないぞ?お前は私を自動操作してくれる便利な人格とでも思っていてくれ。お前の精神に負担がかかったときに私は表に出て、その原因を排除する。それぐらいのものに思っていてくれ。それに私の方が何も考えずに人を斬ったりできるから、単純な戦闘能力が高い。倒せない相手が出てきたら遠慮なく私を呼んでくれていいぞ?リリーに頼めば封印を解いてもらえるだろう、そうすればいつでも表に出られる』


「そんなことするか!お前なんて一生外に出してやんないもんね」


『ハハハ、本当に釣れないな。まぁいいよ、外の様子はここからも見えるし、なんなら精神空間で再現も出来る。何も不自由は無いから、くれぐれも私を気遣うようなことはするなよ?』


「んなもん、元からする気ねえよ」


『そうか、そうか。それではゲーム再開だ。詳しいことはリリーに聞くといい。お前が聞けば、きっと言ってくれると思うぞ』


「まぁ……ありがとう。参考になった」


『フフ、礼など要らん。私は自分のためにやっているだけだ。私にはここで精神を鍛えることで返してくれ』


 何だ、平気で人を殺す割には優しいところもあるじゃん。少し、勘違いしてたぜ。


 こうして俺は夢の中での時間を過ごしていった。



 結局噂話に対する対策を行うのは辞めた。

 人の噂も七十五日、いずれは噂もなくなる。

 それに俺は『もう一人』の行動が間違っていたとは思っていない。

 奴は俺がやるべきことを肩代わりしてくれたのだ、感謝こそすれ、非難するなんてとんでもない。


「リリー、俺の中にいる奴の封印を解いてくれないか?」


「何故それを!?」


「あいつと夢の中で話した。あいつは多分悪い奴じゃない。それにあいつも俺なんだぜ?表も裏も一緒に信じてくれないか?」


「ハヤトさん……その言い方はずるいです。分かりました、封印を解きましょう。でも無闇に外に出ないようにしっかりと言い含めておいて下さいね?」


「ああ、もちろんだ」


 その後俺は封印を解いてもらった。これで一応、『もう一人』はいつでも外に出てこれるそうだ。

 俺はこれが本来のあるべき姿だと思うね。そもそも俺にあいつの行動を制限する権利はないんだから。


 俺は『もう一人』とは仲良く出来る気がしていた。

 とうとう一万PVを超えることが出来ました!

 これも『異世界転生したのに魔王がいません!』を今まで読んでくださった皆様のお陰です、本当にありがとうございます!


 拙くはありますが、これからも書き続けていければいいなと思っていますので、応援よろしくお願いします!


 引き続き、御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。気軽にお寄せ下さい。


 御評価に関しましては下にスクロールして頂くと気軽に出来ますので、是非よろしくお願いします。

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