私の誕生日
「マスター!目的地であるはずの街が燃えています!侵攻されているようです、前の画面を見て下さい!」
エドナが侵攻されていることに気付いたのはほんの一分前。
というか自分の領地が侵攻されるって俺の責任問題じゃん……いや、そんなこと考えている場合じゃない。
俺多分、正気を保てていない。俺の友人や知り合いが今無事かどうかを考えるだけで胃に穴が空きそうだ。
しかもこの侵攻、かなり酷い。俺の兵隊がしっかりやってくれてるといいんだが。
「マスターのご自宅をおよそ五百の敵が囲んでいます」
「なるべく家を避けて精密に撃て、中に避難してきた人がいるかもしれないからな」
「分かりました。魔力砲発射します……全弾着弾確認、敵兵を全て撃破しました。平原に着陸します」
「搭乗口を今すぐ開けろ!ミルは何とかして街の消火をしてくれ!」
俺はある程度の高さになるとそのまま飛び降りる。
流石吸血鬼の体だ。この高さから降りても何ともない。
俺はそのまま街に一直線に走る。
この侵攻はおそらくレガリアの仕業だ。
また俺のせいか!
今度という今度はあいつらを殺す!しっかりと落とし前をつける!
街に入ると、レガリアの国旗がいくつも立てられていた。まだ敵兵もいる感じだ。
しかし、外周部には全く見当たらない、とすると飛空艇の中で見た、火が回っていなかった中心部に生き残りも敵兵もいると見た方がいいだろう。
屋根の上から確認すると案の定、かなりの人数がいる。
目算で敵兵は五百ぐらいか?生き残りも数千人いるようだ。
確か前にデータで見たとき、エドナの全人口は一万人程度、無事な人は結構いるようだ。
「そこで何を」
声が聞こえたと思ったがすぐに途絶える。声の方を見ると、
「教官、何してるんですか!こっちにきて下さい!」
俺の兵が敵を殺していた。どうやら何か作戦があるようだ。
「一時間前に奇襲をかけられて、エドナは陥落しました。まぁ陥落と言ってもほとんど無抵抗ですがね。住民の三分の一は冒険者ギルドに、今広場に人質に取られている住民も三分の一です。残りの三分の一は分かりません……そして俺たちは今、広場に奇襲作戦をかけようとしています。今はこうして周囲の兵を殺していってます。安心して下さい、死体はきっちり隠してバレないようにしてます」
もう、一端の兵士だな。きっちり統率も取れている様子だ。
しかし、奇襲作戦の必要はない。
「お前たちは良くやった。後は俺が一人で引き受ける」
「五百人をですか!?いくら教官でもそれは無茶では?」
「じゃあ俺はこっち側から殺る。お前らは向こう側から殺れ、いいな?」
「……了解しました。味方を反対側に集めます。今から二十分たったら六時の鐘が鳴ります。それを合図に作戦開始です。それまではどうか辛抱して下さい」
そこまで顔に出てるか。
「……分かった、よろしく頼む」
そして鐘が鳴り、作戦が開始される。
俺は『限界突破』を発動して、飛び出す。
血が上った頭が冷えていく。
俺はただただ作業的に敵の首を取っていく、そこに感情は介在しない。
そして、俺はこの感覚を初めて理解する。
これは吸血鬼の冷酷な姿そのものだ。人の命の価値を塵程もないと思う、そういう、冷たい感情だ。
しかし、簡単だ。吸血鬼を相手にしたときよりも圧倒的に、だ。
ただ首を取るだけで絶命する、なんと儚い物だ。
しかも、皆俺に気付かない。気付かないままに首を取られていく。
そして、俺は剣を納めて、こう思う。
「なんと、気持ち良いんだ……フフ、フフフ、ハーッハッハッハ!」
このとき、何かのスイッチが入った。
「……教官、いえ、領主様、作戦完了しました」
「おお、そうか。では、貴様らはここいる住民たちを守っておれ、私は残りを殺してくる。他に敵が溜まっている場所に心当たりはないか?」
「他ですか……おそらく、冒険者ギルド辺りだと思われます」
「そうか。では、任せたぞ」
私はまた、駆け出す。
ああ、なんて気持ち良いのだろう。体は軽いし、心も軽い。
力が漲っているから?皆を守れたから?いや違うな、血をいっぱいに浴びたからだ。
「ああ、気分が良い、この上なく良い!」
「おい、止ま」
邪魔をする者はこの一振りのもとに屍と化す。
もう何も聞こえない。唯一聞こえるのは剣を振る音。それ以外は要らないし、邪魔だ。
「おお、ゲイル。何故こんなところで寝ておる。おい、返事をしろ」
「……ハ、ハヤト、か?」
「なんだ、お前死にそうなのか?しょうがないな、私の血をかけてやる。光栄に思えよ」
私は片腕を斬り落として、そこから出た血をゲイルに浴びせる。
「どうだ?調子は戻ってきたか?」
「さっきよりは大分、な。それより早くギルドに行ってくれ!レガリアの勇者が来ている!」
「ん?……フフフ、あいつか。あの身の程知らずか。そうか、そうか……ありがとう、礼を言うぞ、ゲイル。お前はまだ寝ておれ、私の血にそこまでの回復力はない。ではな」
ヤツらはギルドにいるのか。私の思い出深い場所に踏み込むとは良い度胸をしている。
余程、死にたいらしいな。
こんな事を考えているうちにギルドについてしまった。
私は扉を蹴開けると、そこには人間がたくさん横たわっていた。
「おお、ガネットにシュミットではないか。ふむ、此奴らも死にそうと見える。血をかけておくか」
他にもたくさんいるが、今は嗅覚に集中だ。
「……ん……これはヤツらの匂い。こっちか」
私は裏口に向かう。
何やら声が聞こえてくるな。
「おい、ハヤトとかいう奴はどこにいるかを聞いてるんだよ。答えてくれよ」
「貴方たちのような人間に言うもんですか!……ッう!」
この声はヤツとミレットか。戯れているようだな、私も混ぜてもらうとするか。
「おい、マグナ。その遊び、私も混ぜてくれないか?」
「あ?……なんだ、お前かよ。そっちから来てくれるとはな。今までどこに居たんだよ?」
「すまんな。少し、出払っていてな。出迎えもロクに出来なかったことを詫びよう」
「お?何だよ、分かってんじゃねえか」
「だから、お詫びも兼ねて戯れようではないか。次はミレットの役をお前が、お前の役を私がやろう」
ミレットは気を失ってしまったしな。
「あ!?ふざけたこと抜かしてんじゃ……あ、あああぁぁぁ!!?」
「なんだ、情けない。手癖の悪い腕を斬り落としただけではないか。さては貴様、戯れを知らんな?」
ならば教えてやるのが親切心というものだろう。
「な、何を言って!?」
「そうだな、例えば貴様はさっきミレットを殴っていたな。それを真似してやろう。こうッ、だな!」
「お、おぶッ、ゴホッ!」
腹に穴が空いただけでこの反応か。やはり儚いな。
「ハッハッハ!そんなに血を吐いて大丈夫か?すまんな、今治してやるから」
やはり、私の血では治りが遅いか……飽きてきたな。
「やはり、戯れはもうやめだ。私は飽きた」
「だか、ら、さっきから何を……おお、おおぉぉ!?」
「だから、手足を斬ってやる、光栄に思えよ……なんだ、そんなに良いのか?しかし、これ以上斬るのも美しくない。今宵はここまでだ。またな、マグナ。いや、さよなら、マグナ」
おお、雨か。ちょうど良い、そろそろ血が乾いて気持ち悪くなってきたところだった。
「今宵は本当に心地が良い。何もかもが気持ち良い」
そう、こんな日に名前を付けるなら、
「誕生日、ですね、ハヤトさん」
「おお、リリーか。久しいな、皆はどうした?」
「いえ、皆さんはいいんです。今日はハヤトさんの誕生日でしょう?だから祝おうと思って」
「そうか……そうだったか?まぁいい、祝ってくれるというならありがたく祝われよう」
「ですがその前に、姿勢を少し低くして下さい」
「ん、こうか?」
リリーが急に抱きついてくる。何がしたいんだ?
「ハヤトさん、そう思い詰めないで下さいね。これは貴方のせいじゃない、悪いのは全て向こうです」
「何が言いたい」
「何も言いません。だけど、その力、封印させて頂きます!」
「何、を……!?」
「貴方は少し、暴走し過ぎました。今回の記憶は封じさせてもらいます、でないと貴方の心が壊れてしまう。それに誕生日がこんなでは嫌でしょう。全てはまた落ち着いたときに……それと、お誕生日おめでとうございます、ハヤトさん」
「ふ……余計な、ことを。心配せんでも、私は……強い。だが、お前の、言うことも、一理ある……今は、素直に……眠ると、しよう……」
「……優しい貴方には辛過ぎるでしょう。だけど、貴方が救ってきた命もあることを忘れないで」
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