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エリス

 この国はもう終わりだ。こう思ったのはいつだったろう?


 一週間と少し前、旧魔王領の森で魔物の大軍が確認された。

 当初はおよそ千匹ぐらいの群れかと思われていたこの大軍だが、森から出現する魔物の数の増加は留まることを知らなかった。

 大軍確認から二日後、とうとう魔物の数は数千から一万になり、私たちメルシャ神聖国は近隣の国に救援を要請した。

 そこからさらに二日後、大軍勢は国境を越え、メルシャ領内に侵入した。

 そして今日はその大軍勢が神都に到達するとされている二日前の夜だ。


 神都ではすでに住民及び非戦闘員の避難は完了している。そんな中、私は月明かりに照らされた、閑散とした神都を見下ろす。

 この愛すべき街並みを守りたい、そう思わせるのには十分ないい景色だ。


 しかし、私、レイシア・フォン・メルシャはこの見慣れたはずの景色に違和感を覚える。

 違和感の正体はすぐに分かった、街に影が落ちているのだ。この雲一つない満月の夜に街に影が落ちている、これが一体どういうことか分かるのにはそう時間はかからなかった。


 突如、空を泳ぐ巨大な鯨のような物が現れたのだ。その鯨は悠然としていて、私たちの沈んだ気分を勇気づける、希望の光に見えた。



 俺たちは予定より早くメルシャンに到着した。

 街には人の気配が無く、ここにいるのは現地の騎士と冒険者ぐらいだという事が分かる。

 俺は全員が下船したのを確認すると発令所に向かった。


「起きろ、飛空艇!」


『……よく私の存在に気付きましたね、ハヤト・キリュウ殿』


 やっぱり、居た。AI的な何か。


「お前はこの船のシステムを管理しているって事でいいのか?」


『肯定です。私はこの船の自動操縦システム、エリスです。キリュウ殿、私の存在に気付いたのは何故ですか?』


「この船を素人が操縦するのは難しい。だけど俺たちはここまで来ることが出来た。それはお前が微調整をしてくれたからだろうと思ってな」


 まぁ、大まかな操縦ぐらいならあいつらにも出来ていたんだろうが。


『見事な推理です、キリュウ艦長。私は貴方を艦長と認識します。ご命令をどうぞ』


「今すぐ離陸して、魔物のいる位置に向かえ。そして、到着し次第、帰投に必要な魔力だけ残して魔力砲を発射しろ」


 魔力を無駄に使わないために不可視化はオフだ。


『アイ、サー』


 おそらく、この戦いは激しいものになる。今のうちに数を減らしておかないと、どんな事になるか分からない。

 俺は勇者マグナとの一件で分かった。俺がどれだけ強くなろうとも、その手から溢れていくものは必ずある。それを最小限にするための行動だ。

 特に自分の大事なものがあるなら尚更だ。それは何としてでも守り抜く。



 空飛ぶ船の中から出てきた冒険者の皆さんをお出迎えしに行くと、突然止まっていた船が動き出した。

 どうやら冒険者の皆さんもこの状況を把握しきれていないようで、何故船が動き出したか分かっていないようだ。

 しかし、あの船は一体どこに向かうというのだろう?

 それより今は皆さんを城内にご案内するとしよう。長旅でお疲れだろうから。


「皆さん!私はメルシャ神聖国の第一王女です!船が動き出して心配でしょうが、城内に入って、お休みください!今からご案内します!」


 皆さんは渋々と言った様子だったが、私の言う事に従って城内へと移動し始めた。

 それにしても船が向かった方角には魔物の軍勢がいる。あの船は大丈夫だろうか?



『キリュウ艦長、魔物が射程内に入りました。発射許可を』


「発射開始!発射終了と同時に180度変針して最大戦速で帰投しろ!」


『アイ、サー』


 さ〜て、これでどれくらいの敵を倒せるのか。

 おお、おお、すごい、すごい。着弾音がここまで届いてくる。


『発射終了。これより最大戦速で帰投します』


「……一つ、気になっていたことがある。お前はどのようにして作られたんだ?」


 エリスは超高度なAIみたいなものだ。しかしAIは科学技術の産物であって、魔法の作り出せるものではない。

 魔法によって同じようなものが作れたのだとしたら、それはある意味じゃ、地球の科学技術を超えているということだ。


『私のこの船を作り、完璧に理解していた天才技術者の思考パターンを植え付けられたシステムに過ぎません。詳しくは私にも知らされていませんが、私は何らかの魔法によって作られたものと推測されます』


 こいつも知らないか。そりゃそうか、この船がもし敵の手に落ちたとき、機密情報をペラペラ喋り出したら大変なことになるからな。


「ありがとう。話は変わるが、今の射撃でどれくらい殺れたか分かるか?」


『これも推測になりますが、二百から五百体といったところでしょう』


 そんなもんか。これでも数は減らせたんだから喜ぶべきだよな。

 しかもこの攻撃によって、大軍の進行が一時的であれ止まるかもしれないしな。

 今回はエリスの確認と、もしものときのために皆を連れてこなかったが、怒るだろうか?

 なんか帰ったら、面倒臭そうだな。

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

 御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。


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