俺って人権ないの?
勇者マグナとの戦闘が終わった後はそのまま宿屋に戻った。皆はユリシアさんから事情を聞いているようで心配してくれたが、傷一つ残っていない俺を見て安心したようだった。
そしてこの日は身体的な、あるいは精神的な疲れからか、溶けるように眠ってしまった。
次の朝
一番早く異変に気付いたのは刀香だった。
「兄さん!リリーさんがどこを探してもいないんです!」
「お前が寝ている間に外に出掛けたんじゃないか?」
「それは分らないですけど……とにかく、この周辺を探し回ったんですけど、どこにも居ないんです!」
そう言われたってなぁ……今日出発するというのはリリーも知っているはずだし、定時になったら帰って来るだろう。
しかし、リリーは定時の十分前になっても帰って来なかった。
これはいよいよおかしいと思った俺たちはボルドーさんを『テレポート』でエドナに送ってからリリーの捜索を開始した。
リリーが約束の時間に帰って来ないという事は普通ありえない。事件、もしくは事故に巻き込まれた可能性が高い。
幸い優秀なミルのお陰ですぐにリリーの居場所を掴む事が出来た。
帝都の郊外にはいくつかの廃村がある。
村民が帝都に移り住んだ事で出来た廃村らしい。
何もない場所にわざわざ近づく人などないため、人を隠すのには最適というわけだ。それに家を壊したりしても誰も困らないしな。
さて、一体どこの馬鹿がリリーを拐ったんだか。これって普通に国際問題だよな?
しかし、犯人の目的って何なのだろうか?まぁ考える必要はないか、気配を消せば一発だからな。
俺たちはリリーが監禁されているはずの廃村に着いた。
予定通り、そのまま突撃し、犯人と話しているうちに俺と刀香が身代わりを出しながら、気配を消せば作戦終了だ。
俺はドアを斬り開けると、中へ入っていく……は?
「遅かったじゃねえか、勇者の息子」
……なるほどこれで辻褄があった。こいつらが腹いせにリリーを連れ去ったって事か。
幸い、リリーの扱いはそこまで酷くはなかったようで今は気絶しているだけのようだ。しかし逆に言えば気絶する程の一撃を喰らったという事だ。
これは俺が悪い、こいつらの恨みを買うことぐらい予想がついていた。
予想外だったのは勇者マグナの行動の早さだ。ここまで早く具体的な行動に出て来るとは思ってなかった。
しかも今回は俺たちの『気配操作』は全く使えない。魔法使いが『魔力視』を使っているからすぐにバレる。
そして俺たちは人質を取られている。
「おっと、全員そこから一歩も動くなよ?妙な魔法を使ってもダメだ。お前らの攻撃が届くより、俺がこいつの喉元を斬り裂く方が速いって事ぐらい分かるだろ?」
悔しいが俺たちは今回何も出来ない。ユリシアさんかエリノアさんが何か予想もつかないような攻撃手段を持っている事を祈るしかない。
「分かった……だがお前たちの目的は何だ?」
「目的?そんなの簡単だ。俺たちはお前を嬲りたい、それだけだ。お前は吸血鬼のようだし、何度致命傷を受けても生き返れるだろ?嬲られるのにもってこいな体してるよな」
そういう事か……ヤバイ、マジで逃げたい。
俺は修業のときに吸血鬼が普通に持っているはずの痛みへの強さがない。普通の人間だった頃ほどではないが、斬られれば普通に痛い。
「もう一つ言っておくと、この国の人権ってのはな、吸血鬼や魔族にはあるらしいんだよ。だけどな、混血になってくると話は違ってくるんだわ。そこの教会の聖女様に言わせると『魔物は汚らわしいですが、もっと汚らわしいのはその混血』、だそうだ。教会が結構幅を利かせてるこの国は混血の人権の話は曖昧なんだよ。つまり、お前をどれだけ嬲ろうが罪には問われないというわけだ」
厳密に言えば、俺は混血というわけでもないんだが、そんな俺だからこそ人権はより曖昧というわけだ。
だな、どこから俺が半分吸血鬼という情報が流れたんだ?
しかし、俺は驚いた。ただ俺に憂さ晴らしがしたいだけじゃなく、しっかりと逃げ道を作っている事に、だ。
リリー誘拐したのも魔の手から救うためとか言い出すのだろう。
「じゃあ、お前、そこに寝ろ」
皆にも打開案がないようなので俺は言われるがままに床に寝転がる。
そうすると俺の手と足は鎖で縛られ身動きが取れない状態になる。しかも厄介な事に加護を与えられた『銀の鎖』だった。
こうなると俺は簡単には鎖から抜け出せない。『限界突破』を使ってやっとだろう。
俺がそんな事を考えているといきなり背中に剣が突き刺さった。
痛っっってぇぇぇええ!!!
「よく声を上げなかったな。そこは流石だぜ?ほら、お前らは何かやらないのか?」
「マグナ!僕はこんな事やめた方がいいと思う!こんなの僕たちが下だって認めたようなものじゃないか!」
この僕っ娘は勇者パーティーの中でかなり常識的な方だな。
あー、それにしても痛ぇ。まだ刺さったまんまだし。
「俺もセルカに賛成だ。こんな事をするのは常識にかける」
意外にこの剣士さんも常識人だった。ただの脳筋野郎だと思っていたのだが。
「……あっそ。じゃあ、お前らは参加しなくてもいいが、邪魔はするな。俺はお前らに何を言われようがやめるつもりはない」
この勇者もカスだ、カスだ、と思っていたが、そこまでじゃないかもな。てっきり俺はパーティーメンバーに怒鳴り散らすんだと思っていた。
そして俺はまた思う。少しは心配そうにしてくれてもいいんじゃないですか?
心配してくれてるように見えるのはミルと刀香ぐらいだ。ユリシアさんは無表情。エリナとエリノアさんに至っては『大丈夫じゃろ?』みたいな顔してる。
自分で撒いた種とは言え、ここまでの事になると流石に凹む。
これから俺は一体どんな目に合わされるんだろうか。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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