傍から見れば
俺はレガリアの勇者と戦う準備をしていた。
まぁ準備といっても刀香から刀を借りて少し剣術の復習をするだけだ。
何故わざわざ刀を借りたのかというと今回勇者は仲間を連れて、俺を徹底的に叩きのめすつもりでいるはずだ。
そうなると激しい戦闘になり、俺の剣では刃こぼれしてしまう可能性がある、そのため刀香の自動修復できる刀を借りたわけだ。まぁ俺の剣は両刃だから峰打ちが出来ないというのもあるがな。
一応修行期間中に刀香から実家の剣術を叩き込まれているので大丈夫だと思うのだが、準備運動ぐらいしておかないと間合いがいまいち分からず、本当に殺されてしまうかもしれない。
もう既に約束の時間は迫っている、ここで負けたら自分の恥どころでは済まないだろう。
それ故に俺は本気以上を出せる、背水の陣というヤツだ。
まぁでも負けたら負けたでミルとエリナに縋り付いて『テレポート』で逃げてしまえばいいのだが。
「ちゃんと逃げずに来たようだな、そこは褒めてやるよ。レガリア帝国の勇者を前にして平生を保っていられるって事は、お前は本当に勇者ユリシアの息子なんだろうな」
技術は教えられたけど、実子ではないんです、とは言えない雰囲気ですね、これ。
何だがギャラリーも集まっているし、本格的に負けたら大恥のようだ。まぁあれだけの啖呵を切ったしな。
「じゃあまぁ外に出ますか。街でやると被害が出るからな」
これには文句はないようなので大人しく街を出る勇者。最低限の常識ぐらいはあるようだな。
勇者というのは伊達ではないらしく厳しい検問が全くなかった。
相手は勇者、盾持ち剣士、拳闘士、魔法使い、神官の五人だ。どれも練度がかなり高いことが分かる。
しかし俺には勇者も剣士も通り抜けられる、『明鏡止水の境地』がある。
刀香の気配操作には劣るが、技がノーマークの状態ならいきなり後衛に斬り込む事が可能だ。
「ねぇマグナ、本当に五人で一人をボコるの?確かにある程度は強さではあるみたいだけど、装備も貧弱だしマグナ一人でも大丈夫じゃない?」
魔法使いさん、装備がないのは守る必要があまりないからですよ〜?
「まぁ俺もニーナと同じくそう思ったんだがよ、俺一人で十分とか抜かしてるから、勇者の息子ってので調子に乗ってるこいつに現実を教えてやろうと思ったんだよ」
俺はそういう風に見えていたのか、確かに傍から見たら少しイタい子かもしれない。
「ハハハ、そうだな冒険者は身の丈にあった事をしないと命を落としかねない。ここらで現実を見ておくのもいいだろう」
剣士としてどっちが上か分らせてやんよ。
「マグナさんもガレオンさんもほどほどにして下さいね?そこの彼を治すのは私なんですから」
この神官さんも優しそうに見えて、やる気満々だ!
「あのぅ、そこの剣士さん、やめるなら今のうちですよ?皆さん本気みたいですから注意して下さいね。僕も庇いきれませんから」
僕っ娘の拳闘士は優しそうだ。でもすごい強そうで、この人も手加減する気はないようだ。
「俺は逃げる気なんてさらさらない」
初っ端から身代わり作って、後衛を叩けば相手の回復を絶てる。それに魔法使いの援護があるのとないのとじゃ、全然違う。
まぁそれでも一対三なのでこちらの不利は変わらない、だがそれぐらいが丁度いい。
俺は狭い世界で育った人間だ。オルクスの言う通り世界がどんなものか見ておくべきだ……というのは建前で、この一週間ほとんど体を動かしていないので体を動かしたくてしょうがないというのが本音だ。
前の世界じゃ、運動なんて最も敬遠していた事だったが、この世界じゃ娯楽なんてものはそのぐらいだった。ある程度楽しくなくちゃやってられない。
こんな風に言ってると戦闘狂のイカれ野郎みたいだが、断じて違うと言っておこう。
俺の胸中を詳かにしてしまうと、人の上に立って悦に浸りたいと思う事がたまにあるのだ。ああいう外道より上だと思えれば、何だが安心してしまう。俺もこの世界に来て変わったよな、前はこんな事考える事なんてなかったのに。
こんな事を考えている時点でどちらが上なのかなんてもう分からないものだけど、それでも、それ故に俺は奴等より戦闘では勝っていると確信したいのだ。
こんな事を考えているうちに戦闘が始まった。
結果から言えば俺は勝った。
細かな事は割愛させて頂くとして、最初の後衛潰しは拍子抜けする程普通に上手くいった。まぁこれを予期しろという方が無理な話だろうが。
そこからは簡単だ。いくら傷を負っても再生する俺と、次第に体力を消耗し、生傷を増やしていく勇者たちとじゃ、どちらが勝つかなんて火を見るより明らかだ。
まぁそれを言ったら、吸血鬼王の眷属っぽい何かである俺を倒すなんてそもそも不可能なのだ。
それでも勇者パーティーの前衛の連携は素晴らしく、俺は多分、再生能力がなかったら普通に負けていたと思う。
しかし体の傷は再生出来ても心の傷は再生出来ない。俺は勇者たちから『この化け物め!』なんて言われてしまった。
心はまだ人間のつもりだし、そこまで俺もセンチメンタルになったりはしないが、傍から見たらそう見えるのだろうと思った。
そう考えると俺の仲間たちは本当にいい奴ばかりで、かけがえの無い仲間たちであると思い知らされる。
そして俺がとったこの果てしなく軽率な行動が仲間を傷付ける事になるとは、まだこれっぽっちも思っていなかった。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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