勇者のコネ
旅が始まって三日目を迎えた。
基本的に毎晩野宿しないように街に泊まれるような計画を立てているので、不便はなかった。
しかしこういう方法をとっているため、昼過ぎという中途半端な時間に街に着いてしまう事があり、暇を持て余す日があった。
ボルドーさんは特に急いでいるわけではないそうなので構わないのだがな。
そして今日はとうとうアイゼナッハ辺境伯領最大の都市、レイゼルに到着する予定となっている。
このままの進行速度だと、昼過ぎには着くそうだ。
レイゼルに着いたらあまり時間もないので急いで辺境伯の元へいかなければならない。かなりのハードスケジュールになりそうだ。
城塞都市レイゼルは有り体に言えば、良い街だった。
街の住人は活気付いているし、人の往来も激しい、いかにも栄えている都市という印象だった。
まぁそれも当然だろう、辺境伯というのは少なくともレガリアでは上の方の爵位だ。
なにせ国境の警備を任されている貴族なのだ、信頼されていないはずがない。当然領地は大きいし、国境という事もあって交易などは盛んに行われている。栄えていないわけがない。
俺たちは今日泊まる宿屋に着くと同時に辺境伯のお屋敷に向かった。
エリナとエリノアさんは吸血鬼とバレそうなので留守番してもらう事にした。
え?なんで俺はいいかって?俺はあいつらとは違って尖った犬歯も生えてないし、パッと見て吸血鬼とバレないからだ。
決して貴族とコネをつくるときに不安になりそうな要素を取り除いたわけではない。
街の中心部に向かって歩いていると、すぐに大きな建物が見えて来た。
俺たちの屋敷とは段違いだ、規模が違う。一言で言うとお城だ。
これは簡単には通してもらえないかな?いや、行けるはずだ、こちらには勇者がいる。ユリシアさんが手紙を見せれば多分一発だ。
「衛兵さん、すいません。辺境伯さんにお会いしたいんですが、いいでしょうか?」
「おおっ、これは勇者様!覚えておられますか?私はあのとき、貴女に助けられた……」
まさかの知り合い!?勇者強ぇぇぇ!俺はもうすでに世界一のコネを持っているのかもしれない。
「すいません、急に話し出してしまって。ですがいくら勇者様でもご予定がない方はお通しする事が出来ない規則になっているのです。非常に心苦しいですが、ご予定がありませんのでしたら、お引き取りいただきます」
ふっ、ここまでは想定内だ。
しかしここで手紙を出す事で手紙が辺境伯様自身のところに届く確率は格段に上がる!
「この手紙を届けていただけるだけでいいんです、ダメでしょうか?」
この人、セコいな。地味に色目使ってやがる。無自覚かどうかは分からないが。
「拝見してもよろしいでしょうか」
衛兵さんは手紙を読んでいくうちにどんどん目を見開いていく。
「少々お待ちください!」
作戦成功!俺がやったら絶対門前払いだった。
しばらく門の前で待っていると、衛兵さんが走って出てきた。
「先程は大変失礼しました!どうぞ中へお入り下さい。御当主様がお待ちです」
屋敷の中はもうなんというか次元が違った。高そうな絵や置物があるし、絨毯も何で出来ているんだろうって感じだ。
衛兵さんの後ろを歩いていくと目的地に着いて、衛兵さんが扉を開けてくれる。
中はギルドの応接室とも全然違うんだろうな。
「勇者様とお連れ様、ようこそお越し下さいました。初めまして、私がアイゼナッハ家当主のアルセル・アイゼナッハです」
アルセルさんはがっしりしている印象を受けるがそれ以外は普通のおじさんだった。
「こちらこそ初めまして、俺はハヤトです」
というように自己紹介をしていくと有名人の正体が当然バレる。
「も、もしかして貴女はリリーシャ王女殿下ですか!?」
「申し遅れましたリリーシャ・アストレアスです。アイゼナッハ公のお噂はかねがね伺っております」
「まさか、勇者様と行動を共にしておられとは。数々の無礼、お許し下さい」
レベルの高い会話が繰り広げられている!入り込む隙がない。
「いえいえ、こちらこそ、いきなり押しかけてしまう形となってしまって、申し訳なく思っております」
「そう言っていただけると有り難いです。早速ですが、この手紙の事を聞かせていただきたい」
俺は包み隠さず全てを話した。
どうせあの手紙には俺たちが不老者とかそんな事が書いてあるから、嘘をついても信頼をさらに失うだけだ。
「……そうでしたか。初代が生きているという事は分かっていたのですが、隠れるのがお上手な人で見つける事は叶いませんでした。それがこんな形で初代の上方を知る事になるとは……一つだけ伺ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
「初代は最期にどんな表情をなされておられましたか?」
「……笑ってましたよ……まぁでも追伸に書いてある通り、多分そのうち顔を見せてくれると思います」
「皆さんにはお顔をお見せになるでしょうけど、私たちのところには来ていただけませんよ」
そんなもんかね?
「じゃあ、俺から言っときますよ。それとこれ、オルクスに渡して欲しいって言われた品です」
俺はアルセルさんに魔法の袋を渡す。
「ありがとうございます。後ほど鑑定をさせて、買取額の一から二割ほどを銀行ギルドに振り込ませていただきます」
「いえ、そんな!悪いですよ、オルクスは元々貴方達に使って欲しくてこんな手紙書いたんですから」
「それでもです。わざわざ来ていただいたのに何もお返しする事が出来ないのは貴族の恥ですよ。ここはお返しさせて下さい」
ここまで言われると断り辛かったので、有り難く頂戴する事にした。
アルセルさんには夕食に誘われたが、エリナとエリノアさんが怒りそうだったのでやむなく辞退した。
これで今回の旅の半分こ目的は達成した。
しかし俺はレガリアの王都で面倒くさい事に巻き込まれる事など全く予想していなかった。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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