遠足気分
街が強襲されかけた日から一週間たった。
街にはいつもどおりの日々が帰ってきていた。
銀行には無事に白金貨五十枚が振り込まれていて安心した。ボルドーさんも一応避難していたそうで街の住人は大変だったらしい。
今日はオークションに出していたミノタウロスの代金が届くころだそうでギルドに行く事にしていた。
「おお、ハヤト君やっと来たね。ちょっと他の話もあるから奥まで来てくれるかな?」
また、エリノアさんについて何か聞かれるんだろうな。
「とりあえず、白金貨六枚と金貨二十枚ね。相場より高めで売れたみたいだ。それで今日の話なんだけど……」
「どうせエリノアさんの話でしょ?」
「いや違うよ。ギルドとしては彼女ついては聞かないようにするって方針なんだよね。多分ギルドの手には負えない、もちろん国も。元勇者で魔王候補って下手したら国が滅ぼされかねないから、どこも知らぬ存ぜぬで最後まで突き通そうとしてるんだよ。あの人、『儂が魔王になった暁には人間の国家とは友好な関係を築きたい』って言うけど国としては本当かどうか分からないし、彼女なら世界征服なんていうのも出来ないわけじゃないから静観なのさ」
色々あるんだな、俺には全く関係ないけど。
「話が逸れたけど、話っていうのは君たちに指名依頼が出ているって事だ。馬車を隣のレガリアの王都に護送するって任務なんだけど、どうかな?」
「いやですよ、そんなの。第一、この街ナンバーワンのパーティーの俺たち依頼出すってどういう事か分かってるんですかね、その人は?」
「分かってるんじゃないかな?指名者はボルドー商会の前会長ボルドーさん」
おっと、これは話が変わってくるぞ?
「ボルドーさんが?どんな用事なんですか?」
レガリアって事は商会の本店に戻るのか?
「ここからは依頼を受けてもらわないと言えないし、ここにも理由は書いてない。ただし、君なら絶対受けてくれるはずだ、という伝言は預かっている。ちなみに報酬は金貨十枚。太っ腹だなぁ、報酬は相場の十倍はある」
「受けましょう!」
俺はこの護送任務を受ける事にした。
今回の依頼は三日後の朝、街の北門前に集合と書いてある。馬車は向こうで調達してくれるそうで、俺たちは武装だけしていけばいいという事になっている。
今回の依頼を受けたのは金に釣られたというのもなくはないが、ついでにオルクスの持ち物をレガリアのアイゼナッハ家に持って行こうというのが理由の一つだ。
あいつの物の中で目ぼしいものはなかったので正直要らないのだ。ついでに一応の感謝も込めて、最終試験でダンジョンから掻っ払ってきた財宝とアーティファクトも入れておいてやった。
旅の道中、アイゼナッハ辺境伯領の一番の都市で一泊する予定らしいのでそこは抜かりない。
この事を皆に伝えると二つ返事で大丈夫、という事だった。
今回は貴族の家を訪問するわけなので、ユリシアさんの勇者としての力を存分に使わせてもらう事になった。そのためユリシアさんには同行してもらう。
そうなるとエリノアさんが一人なってしまうのだが、それはそれで非常に危険な気もするのでエリノアさんにも同行してもらう。
結局、居候も含めて家の全員が依頼に参加するわけだが、ここまで来ると正直俺も肩身が狭いと言わざるを得ない。
パーティー内の男女比が一対六、それも美少女美人揃いときた。こうなるとハーレムだなんだ、というより周りからの視線が痛い、これに尽きる。
男からは『チッ、なんだアイツ調子に乗りやがって』、と殺意を向けられ、女からは『何あの人、何人も女の子を侍らせて』、と軽蔑の眼差しを向けられる。
羨ましい悩みじゃないかと思うかも知れないが、というか俺も以前は思っていたが、これは案外生活にも支障をきたすのだ。
この状況を知っている奴には冷たくされやすいし、酷いときには根はあるが葉はない噂を立てられる。俺はすでにご近所で評判になっていたりするのだ。
だからは俺は近頃気配を消して外を歩くようにしている。だってたまに街の人がこっちを見てヒソヒソ話すんだもん。これは流石の俺でもメンタルにくる。
まぁそれでも今回の依頼にはボルドーさんの他に人がそんなにいるわけでないだろうし、今回の依頼自体が意外と楽しみなのだ。
エドナから出て、遠くの街に行くというのは何気に初めての事で、いかにも冒険者っぽいこういう事はやった事がなかった。
今回の旅がどんなものになるかは分からないが、たまには外に出てみるというのも悪くないと考えながら過ごす、そんな三日だった。
そしてとうとう出発の日になった。
「ハヤトさん、こちらです!すいません、何もお伝えせずに依頼を受けてもらって。極力外には出したくない理由でして」
「そうでしたか。やっぱり、商売がらみの事ですか?」
「ええ、ハヤトさんが渡してくれた品を届けに行くんですよ」
ああ、なるほど。確かにこの情報が外に漏れれば商会の利益はグッと落ちる事になる。
それならば俺たちに依頼を出して、外に情報が絶対に漏れないようにすればいいという事か。
俺が納得しているとボルドーさんが案内をしてくれる。
「皆さんがお乗りになる馬車はあちらです。普通の馬車で申し訳ないですが、よろしくお願いします」
俺たちはジャンケンのして、その結果エリナが御者をする事になった。
俺たちは一応、馬の扱いも習ったので御者も出来る、これもオルクスとユリシアさんの指導の結果だ。
先はどうなるか分からないが、俺はエドナにしばしの別れを言う。ついに旅が始まったのだ。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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