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緊急事態

 あれから一週間が経ち、ようやく将棋の試作品が完成した。

 いくらエリナといえどもミリ単位の精密な魔法の操作は難しいらしく、何回も調整を重ねて、やっとことで駒が完成した。


 駒の文字は印刷魔法という便利な魔法で書く事が出来たし、将棋盤の方はかなり簡単に出来たため、駒を作るのに多くの時間を割いたと言っていいだろう。


 ルールの説明書も漏れなく書くのが意外と大変だったが、これは俺がやっておけばいいのでエリナの作業と同時並行で出来た。


 しかし、一ヶ月と言ってしまったのに結局一週間で製作が終わってしまったので、商談を込みにしてもあと一週間あれば足りてしまうだろう。

 そう考えた俺たちは簡単そうなオセロを作る事にした。


 オセロ作りは将棋で苦労した事もあって、石の形を作る作業はすぐに終わった。

 たが、色塗りが本当に大変で面倒くさい。まぁでもこれも金儲けのためなので俺はかなり丁寧に色を塗った。俺にしては頑張った方だ。


 結局将棋と同じく一週間掛けてやっとオセロの試作品が完成した。


 そしてこれからこの二つの試作品を売り出しにいくわけだが、商売関係の知り合いと言ったらボルドーさんぐらいしかいなかったので俺とエリナはボルドーさんの店に行く事にした。


「おお、ハヤトくん。今日はどんな御用かな?」


「大きな商会か商業ギルドに売り出したい物があるんですが、紹介してもらう事って出来ますかね?」


「紹介するのは構わないが、参考までにどんな物を売り出したいのかね?」


 俺はエリナに頼んで影から将棋とオセロの試作品を出してもらう。

 ボルドーさんは驚いていたが、すぐに真剣な顔に戻った。


「これは将棋とオセロという遊びで、これを売り出したと思っています」


 ボルドーさんは興味を持ってくれたようで試しにプレイしてみる事になった。

 別に急いでいるわけでもなかったので俺たちは構わなかったし、むしろ他の人の意見も聞いてみたかった。


「……ハヤトくん、君はとんでもない物を作ってしまったぞ。特にこのオセロという物だが、これは間違いなく万人受けする。ルールはシンプルで覚えやすいから誰でも簡単に楽しく遊べる。ショーギはオセロと違ってルールを理解するのに時間が掛かりそうだが、その分オセロ奥が深くて十分に楽しめる……どうだろう、このアイデアを私に売ってはくれないか?」


「ボルドーさんに、ですか?」


 正直ボルドーさんは服屋をやっているだけだからあまり売る気にはなれなかった。


「ああ、失礼した。私の名前もまだまだだ。改めて、ボルドー商会の先代会長のボルドーです。よろしくお願いします」


「ボ、ボルドー商会じゃと!?つまり貴殿は一代でレガリア帝国一の商会に育て上げた『商神』か!?」


 『商神』、だと!?……すごそうだけど全く知らない!

 もう少しこの世界について勉強しておけば良かった。


「ハハハ、恥ずかしいですが、そう呼ばれていた時期もありました。今は商会を息子に任せて私は夢だった服屋をやっているですが、どうでしょう、ハヤトさん。私がこの商品を責任持って世界に売り出します。私の商売魂も呼び覚まされました!私に任せてはいただけないでしょうか?」


 すごい、商人の顔だ。俺は商談の相手だと認めてくれたのか敬語になっている。

 この人は多分やってくれる、俺はそう感じた。

 別に金さえもらえればどうでもいいのだが、どうせならいい物にしてもらいたい。


「ボルドーさん、こちらこそよろしくお願いします」


「では、早速詳しい話に入らせていただきます。まず、今回は遊びの『システム』を売っていただけるわけですから、ハヤトさんには今後の利益はお支払い出来ません。これは分かりますね?」


 俺は頷く。その代わりにここで多額の金が払われるわけだ。


「次にこの遊びを商品として登録します。そうなりますとボルドー商会に一定期間の独占権が与えられるわけです。しばらくの間、他の商会などはショーギとオセロの類似品を売る事が出来なくなる、つまり私どもにとんでもない利益が生まれます。今、私の中では上流階級向けの高級素材を利用した物と庶民向けの普通の素材を利用した物の二種類のショーギとオセロをそれぞれ作ろうと考えております。というわけで上流階級からの利益は計り知れません、ですからハヤトさんにお支払いする額は……白金貨五十枚ほどになります」


「「は、白金貨五十枚!?」」


 この間もらった贈呈された白金貨十枚だって報奨金としてはかなり多い部類に入るのにそれの五倍……もう俺働かなくていいかも。


「左様でございます。今回は額が額ですので後ほど銀行に直接入金しておきますでご承知ください。このような形になりますがよろしいでしょうか?」


「も、もちろんです。今後もこういった物を持ち込むと思うのでそのときはまたお願いします」


「はい、こちらこそ今後ともご贔屓に。私は基本的にここを動きませんので、何かありましたらご来店ください。この試作品は量産化のため、いただいてもよろしいでしょうか?」


 俺はボーッとした頭で頷き、ボルドーさんの店を後にする。


「……エリナ、なんかすごい事になったな」


「……そうじゃな。もうわしの実家の総資産を超えたぞ」


 俺たちの総資産にまさに茫然自失といった感じになりながらも俺たちは家路を急いだ。

 なんだか、あいつらに自慢したくなったのだ。


 家に帰って皆に商品開発の大成功を伝えると家の中はお祭り騒ぎと言った感じだった。


 今日は結局ずっと家の中でパーティーをして、騒ぎ疲れてそのまま寝てしまった。


 次の朝


 俺たちは朝ご飯を食べ終え、少し休憩していた。この後はまた皆で今後の方針を決める予定だ。

 俺たちが食後の休憩をしていると聞き慣れない、というか聞き慣れたくない音が街中に発せられた。

 その後に続く言葉に俺たちはただ事ではないと気付かされる。


『エドナ全域に通達、非戦闘職及び冒険者ランクC以下の冒険者は至急避難!繰り返す、非戦闘職及び冒険者ランクC以下の冒険者は至急避難!冒険者ランクB以上の冒険者は至急、冒険者ギルドエドナ支部に集合!これは訓練ではない!繰り返す、これは訓練ではない!』


「……冒険者憲章にあったよな?冒険者は滞在する街に危機が迫ったとき、召集があればそれを防がなければならない。これを破った場合、資格剥奪も有り得る。行くぞ、お前ら!」


 本当は若干ビビっていた事は言うまでもない。しかし格好つけて一度は言ってみたいセリフだった。


 ギルドに着くといつもの騒がしい雰囲気ではない緊張感が張り詰めた雰囲気を感じ取った。


 しばらくするとゲイルさんが出て来て魔導メガフォンのような物を持った。


『昨日、王都の大司教に『神託』が降りたらしい。それによればエドナの地に災いが降りかかるという話だ。今日、伝令が王都から届き、エドナ周囲を探索した結果、南の森にこちらに向かってくる吸血鬼の一団らしき物が確認された。すぐさま伝令を返し、大陸中の吸血鬼領に確認を取ってもらったが、何も知らないという事だった。つまり奴らは野良吸血鬼だ、しかし奴らの頭は……吸血鬼王だ』


 ゲイルさんがそう言った瞬間、周囲がどよめく。


『吸血鬼王といっても進化種だ。吸血鬼領におられる吸血鬼王よりは格段に弱い。敵の数は約百五十の大軍勢、それに相手は吸血鬼のためBランク以上の冒険者を召集した』


 そう、相手は吸血鬼。俺がされそうになったように相手は眷属化を俺たちに使ってくる。弱い冒険者を出しては眷属にされて、あちらの戦力が増えてしまう。

 それに眷属化すると下の方の冒険者ランクなら二つは上がるとされている。だからBランク以上の冒険者に絞ったという事だろう。


「なぁエリナ、吸血鬼って六芒星のなんとかでしか死なないんじゃないのか?」


「それは基本的にわしらのような社会的に認められた吸血鬼だけじゃ。野良吸血鬼ではまともな研究は出来ないじゃろうが、もしかしたらあの野良吸血鬼王だけは死なないかもしれん。じゃが任せておけ、オルクスの話によると『次元斬』で頭を飛ばせば魂の次元まで斬る事ができるそうじゃ。そのときになったらわしとミルが出る」


 なるほど、それなら取り巻きたちを片付けるのが俺たちの役目ってわけか。


 そうこうしているうちにゲイルさんの話が終わって、こちらに進んでくる。


「ハヤト君、君たちに話があるちょっと来てくれないか?」


 俺たちはこんなときになんだと思ったが、いつもと違った真剣な面持ちだったため黙ってついて行った。


「『五素の悪魔』のエギルを覚えているだろう?伝令と一緒に取り調べの結果が送られてきた。最高位の精神魔法使いによる自白魔法からの調書らしいから嘘という事はない。奴の話ではこの地に何ヶ月か前に神かそれに近しい存在が再臨したと言う話が残党軍の間で流れたらしい。その調査をするためにエギルはこのような辺境の地に来ていたらしい。僕は今回の吸血鬼の行軍も残党軍が絡んでいると見ている。君たちも何か知ってる事があったら僕に言ってくれ……それと今回の戦い、君たちが最大戦力だ。この街の事、よろしく頼む」


 ゲイルさんはいつになく真剣な顔をしていた。普段はあんな軽薄な奴でもこの街の事を大切に思っているのだろう。


 南門には一時間後に集合らしく、各自それまでは準備を整えておけという事だった。


 流れでここまで来てしまったが、俺もせっかく買った自分の豪邸をこのまま壊されては堪らない。俺たちも本気で侵略者に対抗しなければならない。


 この戦いではおそらく犠牲者が出るだろう。そして俺たちはその犠牲者をも斬らなければならない。

 いつになく嫌な戦いになると俺たちも含め作戦に参加する全て者が考えていた。

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

 御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。


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