これからの事
無事にリリーの入居が認められた日の夕食後、俺はある事で悩んでいた。
というのも俺とリリーは結局婚約について何も決めていないんじゃないかと思ったのだ。
一応キスはした。しかし明確に婚約が成立していたか思い返せば微妙なところだろう。
そして俺はこの他にも考えなければならない事がある。
それは俺たちはこれからどう過ごすか、という事だ。
俺とかエリナあたりは家でぐうたらしていればいいと考えているが、おそらく真面目なミルやリリーはそれを認めないだろう。
もしかしたら刀香やユリシアさんも良しとはしないかもしれない。
そこで俺は考えた。
家にいながら働いているように見せる事が出来る事はないかと。
そして、俺は思いついた。地球の娯楽を商品化して金を稼げばいいじゃないかと。
幸いこの世界には娯楽がものすごく少ない。
特にトランプをするとか、ボードゲームをするとか、そういう類の娯楽はないのだ。
娯楽といえば闘技場での試合を見るとかそういうものなのだ。
つまりこの世界で娯楽に飢えている貴族向けにオセロとか将棋を売り出せば、ぼろ儲け出来るという事だ。
体を動かさないで金を稼げるなんて最高だ。
考えがまとまった俺は皆をリビングに召集する。
「今回呼び出したのは今後の方針を決めるためだ。色々あったが、元々一週間の約束だったから皆の意見を聞きたい」
静まり返るリビング。そうでした、このパーティーには俺も含めて積極性のある奴はいないんでした。
「……じゃあ、俺から言わせてもらうが、俺は家で商品開発をしようと思っている」
「商品開発、ですか?」
ユリシアさんが不思議そうに聞いてくる。
「少しアイデアがあって、それを形にしてみようかと思ったんだよ。他の皆はクエストをこなしたりして好きに過ごしてくれればいい。あ、エリナだけは俺を手伝ってもらう」
エリナは基本なんでも出来る便利な奴なのだ。
ただやらないだけで料理なども出来るらしい。流石お貴族様だ。
「何故わしなのじゃ……」
「商品開発ってどれくらいかかるの?」
ミルのもっともな質問。だが俺にも目処はついていない。
初めてやる事だからな。
「うーん……とりあえず一ヶ月ぐらいだな。それまでは好きに過ごしてくれ」
好きにしろとはいったが、こういうとき皆は何をするのだろう?
「他に何か意見はあるか?」
本当に主張のない奴らだ。まぁこっちも助かるが。
そういうわけで商品開発をさせてもらえる事になったが、果たして上手く行くのか。
もちろん俺には経験がないので生産と販売のルートなども確保しなければならない。
これは意外と大変な事になりそうだが、俺はとてもワクワクしていた。
次の朝
俺は目が覚めると異変に気付いた。
布団の中が異様に温かく、しかも布団の中に何かいる感じがする。
俺は恐る恐る布団をめくる。
「……ってお前かよ!」
中に居たのはエリナだった。
俺はリリーが来たのかと期待してしまったじゃないか!
「……ん?……何故ハヤトがここにおるのじゃ!?」
「ここは俺の布団だ!」
こいつの部屋は隣だから間違えたのだろう。
それにしてもそそっかしい奴だ。こんなところをリリーに見られたらどう思われるか。
「ハヤトさん、おはようございます!今日は起こ……」
「待って、誤解だ!こいつが夜に勝手に入って来たんだ!」
「あ、あ……あんまりですぅぅぅ!!」
終わった……。
「おい、お前後で説明しとけよ?」
「トイレに行った帰りに部屋を間違えてしまったのじゃ……す、すまん」
リビングに行ってエリナに説明させ、朝ご飯を食べた後、俺たちは早速製作に取り掛かる事にした。
「それで、どうしてわしなのじゃ?」
「お前は要らないような魔法も使えるだろ?ミルはそういう魔法は仕えなさそうだったから」
「そういう事か。それで商品開発と言っていたがどんな物を作るんじゃ?」
「俺が作ろうとしているのは遊びだ。お前らには馴染みがないだろうがテーブルゲームという物だ」
「それがどんな物かはわしには分からんから、一旦わしがお前の影の中に入る。そうしたら強くそのてーぶるげーむとやらを思い浮かべるのじゃ。細かい指示は後で出す。分かったな?」
俺が頷くとエリナは俺の影に入っていく。
『よし、いいぞ』
俺はとりあえず将棋がやりたいと考えたので強く思い浮かべる。
親父とはよく将棋を指していたので記憶にはよく残っている。
『ふむ、大体の形は分かった。次はこの文字が書いてある駒を強く思い浮かべてくれるかのう?』
俺はまた言われた通りに駒を思い浮かべる。
『よし、大体分かったのじゃ』
エリナはそう言うと影から手だけを出して俺の足を掴む。
『ハヤトも影の中に入ってくるのじゃ。その方が説明しやすいのでな』
なんか自分の影にのめり込んで行くって変な感じだ。
「ようこそ、影の世界へ」
影の中はてっきり真っ暗なのかと思ったが、蝋燭が何本も立っていて明るい。
それにテーブルやソファもあって居心地が良さそうだ。
「なんなんだ、この充実した設備は?」
「影の中では吸血鬼は最強じゃ。思い浮かべればどんな事でも実現できる。まぁもちろん、外には持っていけないがな」
俺が周囲を見回すとテーブルの上に将棋のセットが一式揃っていた。
「どうじゃ、こんな感じで良かったかのう?」
「ああ、完璧だ!」
すごいクオリティーだ。俺の記憶そのままどころか、さらに綺麗になっている。
「そうか、そうか!それにしてもここに書いてある文字はなんじゃ?この国の言語ではないじゃろ?」
「まぁ今説明してやる」
俺はこれがテーブルゲームの中の将棋という遊びだという事と各駒の漢字の意味、役、将棋のルールをエリナに教えていく。
「大体分かったか?」
言葉だけで理解するのは辛いよなぁ。
「……試しにやってみるのじゃ」
まぁ習うより慣れろだよな。
俺はエリナにルールを補足説明しながらゲームを進めていった。
結果から言えばもちろん俺が勝ったが、エリナは十分にルールを理解してくれたようだった。
「ちなみに将棋盤と駒って外の世界で作れるか?」
「もちろん可能じゃろう。だが、ここに置いてある物と同じレベルの物は少し難しいと思うぞ?特にこの文字の彫りを再現するのが難しいじゃろう。文字は彫らずに書いた方が得策じゃな」
俺が売り出したいのは将棋の仕組みであって、駒のクオリティーなどにはそんなに力を入れるつもりはないから大丈夫だろう。
それにしてもここまで真剣に考えてくれるとは思わなかった。気に入ってくれたのかな?
「じゃあ一回外に出て試作品を作ってみるか」
「ちょ、ちょっとだけ遊んでいきたいのじゃ」
あ、お気に召したんですね。
とりあえずもう一試合やってから俺たちは影から出た。
「さて、材料は木でいいよな?」
「そうじゃな。木材は適当に森から取ってくるとして加工は魔法でいいかのう?」
本当は黄楊っていうのが一番いいらしいが、俺は見分けがつかないのでどうでもいい。
「魔法で精密な加工とかって出来るのか?」
「ふふん!前は苦手じゃったが、わしも色々修業したのじゃ!」
なるほど、ならばやってもらうとしよう。
というか俺ってアイデアだけ提供したらやる事なくならないか?
「じゃあとりあえず森に行って木を切ってくるか」
俺たちは森に行って木を一本切る。これを家に持ち帰り、加工を始めた。
俺の予想通りやる事がなくなってしまったのでそばで見ながら指示を出す事になった。
「しかし前世の知識でお金儲けとは楽チンじゃな。その知識があれば無限に金が手に入るのではないか?」
「まぁな、先人のアイデアを使い放題なわけだからな。今はそんな事より集中だ!」
こうして将棋の試作品が出来上がっていった。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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