出会いもまた突然に
次の朝
俺はいつも通りに遅い時間に起きて、朝食を作り出す。
「……あ、皿は五枚だった」
昨日は妹の胸で泣きじゃくるという死にたくなる程の恥ずかしい事をしてしまったが、気持ちを切り替えていかなければならない。
このままずっと沈んだ気持ちでいたらオルクスに申し訳が立たない。
俺は自分が楽しく生きるために強くなったのだ。自分のせいで俺が立ち止まっているのはオルクスも喜ばないだろう。
差し当たって今日は昨日ギルドに報告に行けなかったので、ゲイルさんのもとにオルクスの事の報告も兼ねて行かねばならないだろう。
俺たちは若干暗い雰囲気のままご飯を食べ終えて、ギルドに向かう。
ユリシアさんは修業の間、ギルドには行かなかったが、一応ゲイルさんとは面識があるそうなので同行してくれた。
「……師匠が亡くなりました」
「は!?それは本当ですか、ユリシアさん!?」
「確かです。この目で見届けました」
「そうですか。先生が……それで君たちは昨日報告に来なかったのか。何かあったのかと思っていたが、とりあえずは安心したよ」
「一応依頼は完了しました。ダンジョンの主はミノタウロスでした」
俺はミノタウロスの死体が入った魔法の袋をゲイルさんに渡す。
ちなみに魔法の袋には状態保存の魔法がかけてあるので中身が腐ったりはしない。
ミルはもう魔法の袋ぐらいならいくらでも作れるらしいので袋ごと渡してしまうのだ。
「どれどれ……!?やってくれたね、ミルちゃん、エリナちゃん」
「どういう事ですか?」
ミルが聞き返す。
俺も言ってる意味が分からない。何のミスもしていないはずなんだが。
「これ白金貨五枚ぐらいで売れるよ」
「ちょっと待ってください!それってエギル討伐よりも圧倒的に多い額じゃないですか!」
俺は驚いて聞き返す。
「それは当たり前だよ。今の世界の情勢的には魔王軍残党の指揮をしている奴なんてそのうち捕まるし、割とどうでもいい存在って考え方なんだよ。つまりそんな事よりよっぽど高級素材の方が重宝されるってわけ。それに加えてどうやってやったかは知らないけどミノタウロスの体に一切傷をつけないで頭だけ落としてるでしょ?普通戦うと素材が傷つくものだけどこれは無傷だ。こんな状態のいい素材はそうそう市場に出回らない、強い魔物なら尚更ね。この死体は僕が王都にオークションにかけるため送らせてもらうよ」
そんなにすごい事だったのか!?俺の遊び人人生に一歩近づいたな。
「あ、今回の依頼の報酬が金貨十枚ね。それと今回の依頼達成でAランクに昇進だ、おめでとう!これで君たちのパーティーはこのエドナ支部のエースだ。それにしても君たちはすごいよ、Dランクからスタートしたってのもあるけど三ヶ月で三階級も上がっちゃんうんだからね。これも先生の教えの賜物だよ?君たちはあの大英雄の愛弟子なんだ、胸を張って生きなよ」
そうだよな。オルクスは多分この世界で最強の人間だったんだ。
その弟子である俺たちはその技術をさらに後の世代に繋げていかなきゃならない。研鑽を上乗せしてな。
「まぁでも、とりあえずお疲れ様。色々整理が必要だろうから今日はゆっくり休むといい」
そういえば昨日は色々あってあいつの遺産を確認出来ていなかったな。家に帰ったら見てみるとしよう。
「ユリシアさん、オルクスの魔法の袋って知りませんか?」
「それならここにありますよ。皆で手紙を読みましょうか。それにしてもハヤト君は立ち直りが早いですね。あのときは一番泣いていたのに」
やっぱり!?はっず、これはっず!
「……あんまりウジウジしててもオルクスは喜ばないと思ったんですよ」
「ふふ、そうですか。では皆を呼びましょう」
皆がリビングに集まるとユリシアさんが手紙を読んでくれた。内容はこうだ。
『この手紙を読んでいるという事は僕はもうそこにはいないだろう。先に断っておくとここには涙ぐむような事は書いていないよ?あくまで引き継ぎみたいなものだ。
まずは困ったときの話だ。
そこにはユリシアもいるだろうから、解決できない問題が起こるとも思えないが、ユリシアもどうにも出来ない事が起こったら、レガリアのアイゼナッハ辺境伯を頼りなさい。この手紙を見せればきっと君たちの力になってくれるだろう。
次にこの手紙が入っていた魔法の袋の話だ。
この袋の中には僕が空間魔法で収納していたもの全てが入っている。入っている物の中で欲しい物があれば、遠慮なく持って行っていいよ。出来ればでいいが、余った物はアイゼナッハ家に寄付してあげてほしい。
僕はあの家に技術こそ残せたが、物としてはお金ぐらいしか残してあげられなかったからね。でも君たちのお金がなくなったときは道具を売っ払ってもらってもいいよ。
最後の話は君たちの行動の指針についてだ。
これはあまり参考にしなくてもいいけど、本当にやる事がなくなったら是非やってみて欲しい。君たちには膨大な知識を与えただろうが、所詮は情報としてのものだ。だから君たちには世界を見てきてほしい。世界には君たちがまだ見ぬ素晴らしいものがたくさんある。特にそこにいる三人は正真正銘の『不老者』だ、ゆっくり考えて生きるといい。
さて、長々と書いてしまったが、言いたい事は一つだ。自由に生きなさい、僕とユリシアはそのための翼を与えたつもりだ。鳥が大空を飛ぶように自由気ままにね。僕は君たちをいつまでも応援しているよ。
君たちの師匠オルクスより
追伸
僕はこの世界に体を持たなくなるけど、魂は精霊界に召し上げられるから、精霊の姿で会いに行けるならそちらに行く予定だ。楽しみに待っていてね』
なんだよ、あいつこっちに来れるかも知れないのか。死ぬ前に言っとけよな。
よし、これなら気分を切り替えられそうだ。
「まぁこの手紙も引っくるめて、皆色々あるだろうからここから一週間は自由に過ごす事にしないか?」
「ハヤト君の言う通りですね。ここで一旦リフレッシュして次にやる事を決めましょう」
ならば、とうとう時が来ただろう。
いい事をしてもらう時がなぁ!
「ユリシアさん、ちょっと話があるんで部屋まで来てくれませんかね?」
「もちろんいいですよ」
楽しみすぎて部屋に誘ってしまったが本当に何が起きてしまうのだろう。
俺は期待に胸を膨らませ、ユリシアさんを部屋に入れる。
「それでお話とは何ですか?」
「修業の最初の方に修業が全部終わったらいい事をしてくれるって話でしたけど、何をしてくれるのかな〜、と思って」
言った!俺は言ったぞ!
さぁ、どうなる、どうなる〜〜〜!?
「そんな事もありましたね……いい事かどうか分からない、というかお願いみたいになるんですけど……えーと、その……」
これはワンチャンあるぞ!来い、来てくれ!
「……私の子供になってください!」
……は?……イミガワカラナイ。
「もともとは何か好きな事をさせてあげる予定だったのですが……私、昨日、刀香ちゃんから聞いたんです!ハヤト君は早くにお母様を亡くされて、刀香ちゃんの母親代わりになってあげていたと!ハヤト君があんなに泣くとは思いませんでしたが、納得しました。だから私がハヤト君とトウカちゃんに愛情を注ぎます!それにハヤト君は私の剣技を受け継いだ子ですし……その、私、前から子供が欲しかったんです……!」
じゃあ、作れよ!!
分かってたよ、分かってましたよ!どうせこういうオチになるって……どうにかならないもんですかね、これ!
「……あ〜そうですね、じゃあ、母さんになってもらおうかな?俺も随分寂しいと思っていたんだよなぁ」
あー演技ダルい。
この人、一体俺を幾つだと思っているんだろう。この世界だったらもう成人しているんだぞ?
こんな歳で母親って、ありえないっす。
「そうですか!?ありがとうございます!これからはハヤトって呼びますね。ハヤト、愛してますよ」
俺を抱き締めるユリシアさん。
あ、この胸の感触、いいわ。家族って素晴らしいもんだな!
「私の事は母さんって呼んでくれていいですよ」
「……ユリシアさん、流石にそれはキツいですよ」
「じゃあせめて敬語はやめてください。ちなみに私のこれは性分なので気にしないでくださいね」
まぁそれなら許容範囲内かな?
「早速、私がお昼ご飯作りますね」
「ま、待って、ユリシアさん。ユリシアさんが料理してるところ見ると危なっかしくて見てられないからさ、他の家事をやってくれないかな?例えばお風呂掃除とか」
「料理をさせてもらえないのは残念ですけど、分かりました!」
そのまま部屋を出ていくユリシアさん。
危なかった。このままユリシアさんにご飯を作らせていたら、家が大惨事になるか、酷い昼ご飯を食べなくてはならないところだった。
だが、結果としていい方向になった。
なにせ自分の仕事が一つ減ったのだからな。
今日はこの後、何事もないまま一日が終わる……はずだった。
事が起きたのは夕食の後だ。
未だ鳴った事のなかった魔導インターホンが鳴った。こんな時間に一体誰だと思い、扉を開けると、
「ハヤトさんいらっしゃいます、か……ハ、ハヤトさん!お会いしとうございました!……じゃないですね!こ、こんばんは、夜分遅くにすいません!」
そこにいたのは間違いなくリリーシャ・ファン・アストレアス姫殿下であった。
そして、なんだ、この圧倒的既視感は。
「え、えーと……ひ、姫様ですよね?どうしてこんなところに?」
「は、話すと長くなるのですが……」
姫様はもじもじしながらそう言う。
あ、これマジで長いヤツだわ。
「とりあえず中はどうぞ。外は夏とはいえ夜は冷えるでしょう?」
俺は姫様を家の中にお通しした。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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