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別れは突然に

 あの地獄の修業を始めてした日から約三ヶ月が経とうとしていた。

 一気に三ヶ月飛ばすとか、ちょっと雑すぎじゃね?と思ったそこのあなた!そうです、雑なんですよね、人生の均整の取り方が。

 修業が本格化する三ヶ月前はミルの一件があったり、刀香と仲を深めたりと、俺ってもしかしてハーレム方面の人生を送れるんじゃね!?とか思っていたらすぐこれだ!

 結果から言うと俺は確実に強くなった。

 経験はまだ足りないが、多分Sランク冒険者ぐらいの知識と強さを叩き込まれた。冒険者ランクだって一人前と言われるBランクまで上がった!(口利きは無しで)

 しかし現実は無情だ。三ヶ月前のような甘い青春はなかった。まるでお前の人生にはもったいないほどの青春をもう上げただろう?とでも言いたげな感じだ!

 まぁもともと変わらぬ日常を求めてはいたが、少しは動きがあって欲しかった!主に恋愛方面で!


 しかし今はそんな事を嘆いていてもしょうがない。俺たちは目下、オルクスの最終試験と銘打たれたAランク冒険者向けのダンジョン攻略クエストに挑んでいた。今回はオルクスもユリシアさんも同行していないので、ガチでやらないと下手したら死ぬぞ、と言われた。

 このダンジョンはまだ未踏破で本当に何が起こるか分からない。逆に最下層まで行き、ダンジョンの主を倒せば、お宝ザックザクという事だ。

 全員のレベルは四十後半になるように経験値の配分もした!これはSランク冒険者にしたらかなり低いほうだが、そこは技術と才能でカバーする!


 現在地は十五階層だ。

 統計データからしてこのぐらいの難度のダンジョンの最下層は二十階層から二十五階層という事になっている。ゲームとは違って本当に中途半端な数字が最下層であるときもあるらしい。

 しかし俺たちにとってダンジョンはヌルゲーだ。

 刀香が『気配殺し』を昇華させて『気配操作』に変化させたのだ。この能力は一定範囲内における気配を操作する。

 これを応用して刀香は今、俺たち四人分の気配の圧を纏っている。修業をほとんど終えた俺たちの存在感は凄まじい。隠す事も出来るようになったが、今は全開だ。

 そうすると魔物は圧倒的な存在を感じ取って弱い魔物は簡単に逃げて行くというわけだ。

 それでも逃げて行かない奴はただの雑魚か好戦的な強めの魔物という事になる。

 まぁ攻略の方法としては邪道もいいところであるが、ダンジョンの主を倒して、お宝さえ手に入れられればそれで試験はクリアだし、俺たちは満足なのだ。


「さっきから雑魚しか現れないな。『気配操作』が大分効いてるな」


 俺は歩きながら軽々とトラップを解除していく。


「確かにそうじゃな。これは楽チンでいいのう」


 エリナは喋りながら俺にトラップの位置を指差してくる。

 いや、お前も解除しろよ!このダンジョンのトラップの数は半端ないんだよ。


「ここからちょっと先に魔物がいるよ。多分、弱いと思う」


 ミルは風系統の魔法の応用で魔力を持った生物の探知が出来るようになった。

 少し先という事は逃げなかった雑魚か強めの魔物という事だ。


「じゃあ、それは私が倒しますね」


「ちょっと待て、その先はまだトラップを解除してない。下の階に落とす悪質なトラップもあるから離れるな。もし下の階に落ちたら『感覚共有』が切れて、真っ暗な場所を進む事になるぞ?」


 俺とエリナは意外と便利系だから吸血鬼の能力で暗いところでも目が効くし、パーティーから離れても生きていけると思うが、ミルと刀香は攻撃方面中心でサポートがないと危ない。


「……ほら、トラップあったし……これ下の階に落とすヤツじゃん!」


 こんな感じで軽口を叩き合っていけるほどには俺たちは強くなったつもりだ。

 別に警戒を怠ってるわけじゃない。各種警戒スキルや技術で危険を排除している。


「……いや待て。これそのまま俺たち全員で落ちれば楽に進めないか?」


「確かにそうじゃな。では行くか」


「待って!そんな急に大丈夫?」


「ミルとエリナがそれぞれ俺と刀香に『飛行』の魔法を使えば大丈夫だろう。それで着地には失敗しない。じゃあ改めて行くぞ。二人は魔法よろしく」


 俺たちは全員でトラップに飛び込む。

 本来なら加速しながら落ちていく体がふわりと何かに支えられるようにしてゆっくりと降りて行く。


「無事に着地出来たな……っておいおい、皆前見ろよ」


 そこには巨大な門があった。つまりはダンジョンの主がいる部屋だ。


「いきなり主の部屋に到着ですか、親切な罠ですね」


「確かにな、これは好都合じゃ。皆準備は良いか?」


 これが終わればめでたく修業は終了なのだ。

 そして俺はとても楽しみしていた、ユリシアさんのいい事が待っているんだ。負けるわけにはいかない。


「もちろんオーケーだ。行くぞ、皆!これが最後の試験だ!」


「「「うん(おう)(はい)!」」」


 俺は巨大は扉を力一杯押す。

 俺たちが部屋に入ると主の部屋の特別な仕掛けらしい、明かりが灯り出す。


『グオォォォ「「『次元斬』!!」」グ、ォォ……』


 最後の試験に相応しい十メートルは超える立派なミノタウロスは最初の雄叫びさえ満足に上げさせてもらえず頭を落とされた。


「……お前ら、いくら何でもこれは酷くないか?俺まだ一撃も加えてないんだが?」


「『勝てば何でもいいだよ、バカが!』とか言っていたのはお前じゃろう?」


「いやまぁ確かにそうなんだが……もっと、なんかないのかよ!折角、俺と刀香は色々修業してきたのに刀香なんて道中のザコい魔物何匹か倒しただけじゃん!」


 これじゃあほとんど俺たちにとっては試験になってない。

 折角、アイゼナッハ流と桐生流や気の使い方、『身体強化』までも完璧に習得して、近接戦なら負けない自信あったのに。

 大体、『次元斬』が最強過ぎるのだ。1on1なら初手必殺出来るとかチートだ。

 しかも唯一の弱点である斬れる面積が少ないという点も二人で補い合ってるし。


「刀香、せめて俺たちはお宝見て来ようぜ」


「……そうですね。でも一体どんなものがあるんでしょうね?」


 奥の部屋に進むと立派な箱が二つ置いてあった。

 どれどれ、ご開帳といこうかな。


「こ、これは……なんだ?」


「私にも分かりません。多分アーティファクトか何かだとは思うんですが……」


 一つ目の箱にはアーティファクトが三つ入っていて、二つ目の箱には宝石や豪華な装飾品が入っていた。


 とりあえず俺たちは箱を持って二人の元に戻る事にした。


「わしにもよく分からん。これはオルクスに聞いてみる他ないじゃろう」


「それもそうだな。『次元斬』を使ったところ悪いが、『テレポート』使えるか?」


 俺は巨大なミノタウロスの死体を魔法の袋に入れながらミルとエリナに聞く。

 『テレポート』とはあらかじめ行ったことがある場所に魔法陣を描いて、そこに移動できるようにする魔法だ。

 やっぱり魔法って便利なんだよなぁ。


「わしの魔力をミルに移せば可能じゃ」


「じゃあよろしく頼む……刀香、何にも出来なかったのはアレだから俺たちで試合しよう。それでお互いどれ程の強さか確かめ合おう」


「……虚しくなってきますけど、そうですね。やりますか。兄さんがどれだけ強くなったか見せてもらいます!」


 そう言って俺たちはそれぞれの得物を抜く。


「じゃあ、二人とも準備はいいね?では、始め!」


 ミルこ合図と同時に俺たちはまず消える。

 俺たちの場合はまず気配を使った化かし合いから入る。これを最初に見破った方が試合を有利に運べる。


 まぁ実はこれ簡単に見破れる。俺はスキル『魔力視』を習得している。

 これによって刀香の場所は簡単に分かる。悪く思うな、これも技術だ。

 俺は刀香のいる場所に剣を振り下ろすが、それは弾き返される。


 そこで俺は気付いた。こいつの反応速度は以前よりもさらに速くなっている。俺の剣を振るときに出来た僅かな音や風を聞いて反応したのだ。

 俺も必死に斬り返すが速さでは一段上を行かれている。


 仕方なく俺は『身体強化』の魔法で強化する。

 刀香も『身体強化』を使っていると思うが、魔力量が俺よりも少ないのでキツいはずだ。

 そして俺は力で刀香の刀を弾く。その反動で刀香は動けないはず!この勝負もらった!

 そう思い、俺は刀香から刀を離させようと刀を狙ったが、刀香は煙のように消えてしまった。一撃目は確かに手応えがあったのに!?

 その瞬間、俺の変わり身も倒された。俺も直前に気配でもう一人の自分を作っていたのだ。


 しかし俺の方が気付くのが早かった。

 俺は刀香の首元に剣を当てる。だが同時に俺の首元にも刀が当てられる。やはり刀香の方が速い。

 俺は仕方なく剣を納める。


「引き分けですね、兄さん」


「お前も実力をつけていたようだな。俺は安心したぞ」


「ハヤト、『テレポート』の準備が出来たよ」


「今、行くよ」


 さて、家に帰るとするか。

 楽しみだなぁ、いい事ってなんだろう?


「それじゃあ、行くよ。『テレポート』!」


 俺たちは家の門の前に転移する。

 ついに戻ってきた。これで俺たちの修業の全工程が終了したのだ。


「ただいま!」


 俺が言うと、ユリシアさんの焦ったような声が返ってきた。


「皆!早く来てください!」


 俺たちは驚きながらもリビングに急ぐ。


 リビングに行くと、ソファにオルクスが苦しそうに横たわっていた。


「どうした、オルクス!ユリシアさん、一体何があったんですか!?」


「それが、分からないんです。師匠がいきなり苦しみ出して、それからずっと寝たきりで……」


 するとオルクスにがいきなり目を開いた。


「……今から、僕が言う事を黙って聞いてくれ。僕の寿命はもうとっくに尽きていて、魔法でどうにか魂をこの世界に縫いつけている……それももう限界が来たようだ……つまり、僕がこれから言う事が最後の言葉になる、よく、聞きなさい。僕が居なくなった後の事については僕の魔法の袋に入っている手紙を読んでくれ、何かあったらそれを見るといい。それ以外の事は、ユリシア、君に頼んだ、この子たちをお願いするよ」


「おい、オルクス!どう言う事だ!」


「ハヤト、君には僕から直接教えられる事はあまりなかったけど、それでも僕は君を大事な弟子だと思っている。厳しい修業に耐えて、よく頑張ったね。それと君の作るご飯はどこで食べたものより温かった」


 おい、やめろよ……それじゃあ、まるで本当に……


「刀香ちゃん、君に僕が教えられる事はほとんどなかった。だけど僕から見ても君の剣の才能は凄まじいものだ。これからも精進しなさい」


「……はい」


「エリナちゃん……いや、エリナ。君はここにいる誰よりも僕に対して、疑問をぶつけてくれた。久しぶりの感覚でとても嬉しかったよ。君は元々、魔法がかなり出来たから、僕からはオリジナルの魔法と剣術しか教えられなかった。僕が教えた技術を後世に残していって欲しい」


「……うむ……いや、はい、師匠」


「そしてミル。君には魔法の全てを教えた。魔法に関する技術ではもう僕に教える事はないし、僕を超えているところもある。魔法の同時展開はこれからも修業あるのみだよ。そう考えると君は僕の半身みたいなものだ。この世界で最高の魔法使いは君で間違いない……僕が力尽きる前に君に魔法を教えられて良かった、君は僕の最後で最高の自慢の弟子だよ」


「……はい、師匠」


「……待てよ!お前、俺たちの行く末を見届けるんじゃなかったのかよ!魔力なら好きなだけ持って行け!だからこれからも俺たちの師匠でいてくれよ……」


「……なんだ、君も僕の事、大切に感じたくれてたんだね。僕は最期にこんなにたくさんの家族に看取ってもらえるんだね……それだけで僕は幸せだ……さぁ、もうお別れの時間だ。僕の教えを役立ててくれると嬉しい、君たちのこれからの人生に、さち……あれ……」


 オルクスがそう言うと、どんどんオルクスの体が光の粒子になっていく。


「待て、待ってくれ!……こんな別れってない。まだまだ知らない事、たくさん、あるんだよ!教えてくれよ!」


 俺が目を開けたときにはオルクスが身に付けていた物しか残っていなかった。


「嘘、だろ?また悪戯して、空蝉使っただけなんだろ?……早く出て来いよ……そうだ、今日はお前の好きなハンバーグを作ってやるよ、楽しみにしてろよ?」


「兄さん……!」


「離せよ、刀香。離してくれないと料理出来ないだろ?」


「離しません。いいんですよ、泣いても。皆同じ気持ちですから」


「う、うぅ……俺はもう大事な人を失いたくはなかったのに…… どうして、どうして居なくなるんだよ!そんなのってないだろ!」


 俺とミルとエリナはひとしきり泣いた後、その日は何もせずに寝てしまった。

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

 御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。


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