結局こうなるのね
俺は街に来ていた。
何しに来たかって?そりゃあデートですよ……妹とですけど。
俺は何気に人生初デートだったりするのだが、刀香はどうなのだろうか?と言っても妹と街に行くのが果たしてデートなのかは分からないが。
しかし真面目な話、贔屓目抜きで刀香は美人なのだ。彼氏の一人や二人いてもおかしくない……あ、一人や二人って刀香ダメな子って事になっちゃうじゃん。
「なあ、デートって具体的に何するんだ?」
「兄さん……それ、私に聞いちゃいますか?……うーん、でも具体的にどんなものなんでしょうね?」
「お前が誘ったんだからプラン考えてとけよ……そうだ!お前今、制服しか持ってないだろ?服、買いに行こうぜ?」
そう、こいつは今、制服を着ているのだ。これでは目立ってしまってしょうがないし、これから何かするとき困る事が出て来るだろう。
我ながら名案を思いついた。服ならボルドーさんのところに行けばいいしな。
「兄さんが服屋に心当たりなんてあるんですか?」
「ある。じゃあ、行くぞ」
まぁ現在地から比較的近い位置に店はあったのですぐに到着した。
店に入って店員さんにボルドーさんがいるか聞く。
「すいません、ボルドーさんいますかね?」
「はい、少々お待ちください」
すぐにボルドーさんは出て来た。
「おお、ハヤトくんじゃないか!今日はどんな御用で?」
「こいつに合う服を見繕ってくれませんかね……それとこいつが今着ている服、俺が持っていた服と似た材質の物が使われているかも知れませんよ?」
「それは本当かい!?あの服なんだが、じっくり調べさせてもらった後、商業ギルドに持って行ったら、新種の繊維だという事でとんでもない額で売れたんだよ。その額なんと締めて金貨三十枚!この間はあれっぽっちの額しか渡していなかったから、今日は好きなだけ服を持っていってくれ!それとその子が着ている服を売ってくれるなら後ほど君にその額、まるまる渡そう」
マジか!?化学繊維ってこの世界ではそんな値段で売れるのか!
「でも、ボルドーさん。それじゃ今回の服のアンタの取り分がないですけどいいんですか?」
「ああ、全然いいんだよ。私は繊維の研究をさせてもらっているし、正直な話、ここから少し高めの服を五十着持っていったとしても金貨二十五枚ぐらいにしかならないだろうしね」
俺は思わず笑ってしまった。この人、義理堅い人だ。
金貨二十五枚にしかならないなんて言ったら俺たちは高い服を買うに決まってる、それなのにそれを言うという事は本当に好きなだけ持っていていいという意思表示だ。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらいますよ」
「兄さん勝手に話を進めないでください!」
「いいじゃねえか。お前は服、選んでもらえよ、ついでにミルの分もな」
というか俺もそんなに服持ってないからもらっておこう。
結局、刀香の制服を売り払い、色々な衣類を六十着ぐらいもらって行く事になった。
今回は大量の買い上げという事で家まで荷物を運んでくれるそうだ。
ちなみに何故だか分からないが、浴衣のような物が置いてあったので刀香はもらって、着てい行く事にしていた。ついでに俺も着流しを着させられた。
まぁ家でもたまに着流しを着ていたけど、意外に脱ぎ着しやすいからいいんだけどね。
「兄さん、この服どうですか?」
「可愛い、可愛い、超可愛いよ」
「流石に適当過ぎませんか!?」
「じゃあ俺が本気な感じで言ったら嬉しいのか?」
「ええ……そりゃあ、まぁ……」
そうだった!こいつは本当に嬉しいんだった!
「照れてんじゃねえよ!こっちまで恥ずかしくなるわ!」
というか次はどこに行こう?と言っても俺ノープランだしなぁ。
そんな事を考えながら歩いていると刀香が人にぶつかったようだ。
「なんだ、姉ちゃん?面白い服着てんな?良かったら俺と遊ばない?」
「……邪魔しないでくれませんかね?」
そう言ったのは俺ではなく刀香だ。
「まぁそう言うなって。遊び代は俺が払ってやるからさ?」
俺の妹はマジで頭おかしいんじゃねえの?
こんなところで刀抜こうとしてやがる。しかも殺気びんびんに出して。
「おい、刀香やめとけ。お前が捕まるぞ?」
「だってこの人が兄さんと遊ぶのを邪魔するんですよ?当然じゃないですか」
「もうその人はいねえよ。お前の殺気で逃げてったよ……それよりどうしてくれんだ。お陰ですごい目立ってるじゃねえか。ただでさえ服で目立つってのに」
「それならご心配なく、はい」
「……それは何の手だ?」
「繋ぐんですよ!私の特性でどうやら気配を消す事が出来るようなんですよ。それに自分が触れてる人も効果の対象に出来るみたいです。だから手、繋ぎましょうよ」
そんな効果あるのかよ!?というかそれじゃもうサムライというか人斬りじゃねえか。
あまり目立ちたくないので俺は手を繋ぐ事にする。決して女の子の手ってどんなものなのかなとか思って繋いだわけではない。
「……兄さん、さっき『恐れた』でしょう?」
「確かな恐かったな。お前が」
誰だってあんなに殺気を出している奴がいたらビビる。
「魔を狩る者が『恐れ』を抱いてはいけませんよ?魔の者は『恐れた』者を狙います。少なくとも妖はそうでした」
「妖だぁ?お前とうとう頭がイカれちまったのか?そんなものいるわけねえだろ?」
「本当の事ですよ?家に刀があったでしょ?あれが妖斬りの妖刀です。ご先祖様やお父さんは妖を退治する仕事をしていたんですよ?私もたまに手伝ってましたよ」
「人をからかうのも大概にしておけよ?第一、そんなものがいたらニュースになるだろ?」
「普通の人には見えないんですよ。だから私たちのような特別な家系が妖を退治するんです。姉さんと兄さんはお母さんの血が多く流れているから妖が見えなかったんです」
「……本当、なのか?」
「はい、本当です」
おいおいマジかよ。それじゃあますます刀香は死んじゃいけない人材だったんじゃん。
そうか、だから刀香は実戦慣れしてたのか。あれは馴染んでいたんじゃなかったのか。
「なんか、お前も大変だったな。俺は泣けてきたよ。今まで姉さんと俺の分を背負ってきたんだろ?迷惑かけたな。だがそれも前の世界の事、楽しく暮らそうな」
「え!?それって結婚してくれるって事ですか!?」
「ちげーよ!ったくいい話が台無しだ!」
俺はさっきから刀香が勝手に進むのについて来ただけだが、何かあるのだろうか?
「腹が減っては戦は出来ぬ、なればデートも出来ないでしょう」
「あーはいはい。ご飯食べたいのね」
俺たちはレストランが軒を連ねる地域に来ていた。たまにはこういうところに来て贅沢したってバチは当たらないはず。
ミルたちには作り置きをして来たので負い目もない。
「いや、お前本当にここでいいのか?あまり言いたくないが……太るぞ?」
俺たちは焼肉屋に来ていた。
別に焼肉屋に行く自体はいい。しかしこいつはとんでもない大食いなのだ。しかもこういうところに来るとストップが効かなくなる。
「いいんです。私、太らない体質なんです」
世の女性が聞いたら刺されそうな事を言うが、確かにこいつがダイエットをしていたのを見た事はなかった。
店の人には悪いが食べ放題を頼ませてもらった。
「ふぃー、食った、食った」
「私も久しぶりにたくさん食べました」
「お前は食い過ぎだ。店の人、泣いてたじゃん」
まぁ食べ放題なのでそんなにいい肉ではなかったが、それでもあれだけ食べられたら痛手になるだろう。
「ねえ、兄さん。この後、散歩がてら魔物を狩りに行きませんか?」
散歩がてらで魔物を倒しに行く奴があるか。
「分かった。今日はお前のための時間だからな。付き合ってやるよ」
まぁ俺もこんな事になるんじゃないかと思っていたよ。剣持ってきて良かった。それに今日の焼肉でこの間、二人で稼いだ小遣いも使い切ったからな。
「ミレットさん、なんかいい仕事ありますかね?」
「うわっ!びっくりした!いたんですか、ハヤトさん」
「この間の事、謝ろうと思って。この間ドタバタしていてあまり話せなかったでしょう?」
「別にいいですけど、次からは気を付けてくださいね?」
「了解です。ギルドマスター呼んでくれますか?」
しばらくしてゲイルさんが出てくる。
「今日はどんな御用かな?」
「Cランクの仕事を斡旋してもらいたくて」
この間はよく分からなかったが、冒険者というのは自分のランク以上のクエストを受けられないらしい。だからこの間はオルクスがお願いしたという事だ。
「討伐依頼でいいよね……そうだなぁ、これ。下級悪魔の討伐」
「それで行きます。報告のときはまた声かけますね」
「はいはい、死なない程度に頑張ってね」
下級悪魔、こいつはダンジョンなどの暗い場所に湧く。しかし奴等はそんな暗闇の中でも当たり前のように周囲が見えている。
こういう理由から『暗視』スキルがないままダンジョンに入るのは自殺行為とされている。そして俺たちは今、ダンジョンに来ている。そのため今は『感覚共有』で『暗視』を共有している。
それに奴等は低級魔法なら使用可能でたまに使ってくる事もあるらしい。
「というかお前さっき気配を消せるとか言ってただろ?あれ使えば最強じゃん」
「動物とかは近づくと殺気とか害意に気付いて、『気配殺し』は破られると思いますよ?それでも背後から襲えるのは大きなアドバンテージですけど」
まぁ刀香の『気配殺し』とまでは行かなくても俺も気配を薄くする事ぐらいなら出来るんだけどね。
『明鏡止水の境地』。父さんはそう呼んでいた。
落ち着き払った、静かな心の境地。つまりは邪念がないから相手に気付かれにくいというわけだ。
それでもやっぱり存在感は残るし、良く知られた人なら普通に見破られる。
しかしそんな技でも相手が目を離した隙に使えば、タイマンでも一瞬見失わせる事ぐらいは出来る……らしい。俺は出来た事ないけど。
「じゃあ、やばくなったらその技で逃げよう」
「何ですか、兄さん?もう逃げ腰じゃ倒せるものも倒せませんよ?」
だが、その心配は結局、杞憂に終わった。昨日のウィンドウルフと違って、下級悪魔は一体で行動するのでサクサクと倒せた。
今日の依頼は二十体倒せばいいと分かっていたため前回のように暴れ回ったりせずに討伐証明部位の小さな角だけ取って帰る事にした。
「あ!そういえば!この世界に来たときに転送された場所から見た景色が結構、綺麗だった事を思い出しました。兄さん、今から見に行きませんか?」
まぁまだ日が暮れるまで結構あるからいいか。
「じゃあ、行くか」
「ここです、兄さん!」
そこは街から外れた小高い丘の上にあった。
そう高いわけではないと思ったが、意外に高い。街が一望出来そうだ。
「……本当に綺麗だな」
街の市場などは閉まり始める時間帯だが、その分酒場や食事処が活気付きだす。
そんな景色に日が傾き始めているのも相まって、街をオレンジ色に染め上げている。
「今日のデート楽しかったですか?」
「それは俺が言うべき台詞じゃないのか?まぁ……楽しかったよ。久しぶりに遊んだ気がする」
「……では、私と結婚してくれますか?」
「何でお前はそう一足飛びなんだ!?まずは結婚の前に付き合うっていう段階があるんじゃないのか!?」
まぁこいつはそういう奴か。
「まぁでもそりゃあ……未来永劫無理だろうな。だって俺たち兄妹だろ?」
「そんな……こんなにも私は愛しているのに、兄妹という仲がそれを邪魔する……」
マージで面倒くせえ。でも可哀想になってくるなぁ。まぁ夢でも見せといてやるか。
「……じゃあ、そうだな……俺が二十歳になるまでに彼女が一回も出来なかったら、俺をもらってくれるか?」
「本当ですか!?そのときは必ず結婚します!……でももし、兄さんが本当に愛せる人が出来たときは……譲りますよ?ちゃんと、約束は守ります」
「……そうかよ、じゃあそのときが来たらよろしくな。どっちの場合でも」
「はい!……でも最後にちょっとだけ、こっち向いてくれますか?」
「ん?なんだ……むぐっ!?」
「……これでおあいこですね!じゃあ、ギルドに報告して帰るましょう!」
こいつマジで、おかしい。でもいいか、どうせ何も感じないんだし。
こうして俺と刀香はまた少しだけ仲良くなったのだった。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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