このチョロさは心配になる
ギルドに依頼達成を報告して俺たちは家に帰ってきた。ちなみに今回のウィンドウルフ、毛皮が金になるので死体ごと持ち帰ってくれば依頼達成報酬だけでなく毛皮の分の金ももらえるのだ。
俺は家事を一通り済ませ、風呂に入る。
この世界の人間は風呂に入らない日があると聞いたが信じられないな。こんな疲れた日は風呂が一番だってのに。
俺がゆっくり風呂に浸かっていると風呂の戸が開いた。
オルクスが入ってきたのだろうか?あいつはこの世界の住人にしては風呂に入る方なのでそこは評価している。
「おい、オルクス。人が入ってるんだからノックとかしたらどうなんだ?」
返事がない。どうしたんだ?
「……兄さ〜〜〜ん!!」
「うおっ!?……ってお前かよ!!くっつくな、気持ち悪いんだよ!!」
何故、人が風呂に入っているところに来る!
「兄さんたら恥ずかしがって可愛い。私たち両想いじゃないですか。愛し合う二人が一緒にお風呂に入るのは普通ですよね?それより今日は何で何もしてくれなかったんですか?私、待ってたのに」
しまった!?あのとき言った事を覚えてるのか!これをやるときは大体前後の記憶がなくなっているのだが、今回は違うらしい。
ここはもう正直に打ち明けて許してもらおう。というか最初に暴れ出したこいつが悪い。
「あのときのあれはな?お前を止めるために言ったんだよ。嘘ついて悪かった、でもありがとな。俺のためにやろうとしてくれたんだろ?俺は嬉しかったぞ」
情状酌量の余地ありと認められるはずだ!こいつはとりあえず褒めときゃ機嫌が治る。俺は伊達にお前の兄やってないんだよ!
「…….お兄ちゃんなんて、大っ嫌い!」
そう言って濡れた黒髪を揺らして、風呂を駆け出る刀香。
「……え、えぇ……」
ど、どうしよう。チョロ妹なんてこれで落ちると思ったのに……これってやっぱりちゃんと謝らないといけないのかな?……面倒くせえな。
まぁでもご機嫌とりをしておかないとそれこそ後々面倒だ。ここは兄として世話を焼いてやろう。
体を洗い、風呂を出た俺は刀香の部屋に向かう。
「刀香、いるか?」
返事はないが、人の気配はする。
「入るぞ、刀香」
刀香はベッドで布団にうずくまっていた。
俺はとりあえずベッドに座る。
「さっきはその、悪かったな。別にお前が嫌いなわけじゃないぞ?俺だってお前を愛している」
「なら今すぐ結婚しましょう!私の事、愛してるんですよね!?」
こいつキ○ガイかよ!?目がイッてやがる!?
「ちげーよ!俺はお前に恋愛感情を抱いてるんじゃなねえ!兄弟愛とか家族愛とかそういう愛してるだよ!」
大体こいつは普通にしていれば可愛くて引く手数多だろうに。俺をこんなにも好いているのは小さい頃のアレが原因だろう。
アレ、というのを説明しておくと、俺たちには母さんがいない。
母さんが亡くなった原因は刀香を産んだ事で体が弱ってしまったからだ。
刀香自身はこれを別に特段気にしているわけではない。どうしようもなかった事だと分かっているのだ。
問題はこの次の段階だ。
姉さんと俺は刀香を母さんの代わりに我が子のように可愛がった。父さんは忙しかったので俺たちは親代わりのように刀香を愛した。
そしてその反動は刀香のイカれたレベルのシスコンとブラコンというわけだ。
「……兄さんが私を愛してくれているのは分かっています。ですから、嘘をついた事は許します。ただし!条件があります。明日デートして下さい!」
面倒くせえけどマジでチョロいな。俺はそういうところが心配だぜ?
「分かった、分かった。明日デートをしましょう。それで今回の事はチャラにしてくれる、これでいいな?」
「はい!よろしくお願いしますね、兄さん!」
刀香から妥協案を引き出せた俺はもう二つ済ませておくべき事があったので、ある場所へと向かう。
「エリナ、入るぞ?」
こいつにはノックなしだ。
「こんな時間にどうしたのじゃ、ハヤト?」
「単刀直入に言う。この間、風呂を覗いた事、許せ」
「ちょっと待て!悪い事をしたのはお前でわしは被害者じゃぞ!?何故命令形なんじゃ!?」
「だってお前言ってたじゃん。俺には強権があるって。それにもう俺たち一緒に風呂に入ってるだろ?あのときは何でもない感じだっただろ?」
「なんじゃと!?嫁入り前の女子の肌を覗いておいてその不遜な態度、流石に承服しかねるぞ!?ええい、表に出ろ!その腐った性根叩き直してやるのじゃ!」
あれ?流石にこの態度はやり過ぎただろうか?
「じょ、冗談だよ!一応謝りに来たんだよ。まぁわざとじゃないにしても悪い事したからな……この通り、すいませんでした」
殺されそうなときには素直に頭を地面につける。これが俺の処世術よ!
しかし、さっきのように見返りは要求させんぞ。
「では、何かお詫びの品を要求する」
「それは無理だ。俺に出来るのはお前に俺の血をやるぐらいだ。そうだ、お前最近、血、飲んでないよな?今日は多めにやるよ。たくさん飲めよ」
「え?良いのか?」
こいつも比較的チョロいな。
「ええ、どうぞ、どうぞ。たくさん飲んでいいぞ?」
まぁ少し痛かったがすぐに済んだ。これで許してもらえるんだから儲け物だ。
というわけで最後はミルの部屋だ。
こいつは昨日色々あったので慎重に行かねばならない。
「ミル、入っていいか?」
今回はノックだ。するとすぐに返事が返って来た。
「どうぞ」
「こんな時間に悪いな。今日は話があって来た。この間、風呂を覗いた件なんだが、何でもいう事を聞いてくれるってので許してくれないか?ごめんな、わざとじゃなかったんだ」
俺の中で今のミルは全く読めない奴という事になっていた。
俺の言う事を聞いてくれていたのは俺を殺した事への負い目だと思うし、今のミルは俺に対してどう思っているのかも分からないからだ。
「え?そんな事だったの?」
あれ?意外に気にしていない様子。
「うん、もちろん許すよ。だけど私たちあんな事があったからお互い立場が分からないでしょ?だから私もあの権利を使うよ。それで一回全部リセットしよう?」
良かった。そんな気にしている様子はないようだ。
「そうか!何でも言ってくれ!」
「うーん、そうだね……じゃあ今日一緒に寝てくれる?」
「ん?俺はいいけどそんな事でいいのか?それじゃお前に何の得もないんじゃないか?」
というか俺に得しかない。
「まぁいいから、いいから。じゃあ今日はもう寝ようか」
なんだか流されるがままベッドで一緒に寝てしまったが……どうしよう!すごいドキドキする!
ていうか、何この匂い!すごい甘い匂いがする!
そんな事を考えているとミルが後ろから手を回してくる。
「私、感じたかったんだよ。ハヤトが生きてるって」
ああ、そういう事だったのか。
「俺は生きてるよ。お前のお陰でな。これからもよろしくなミル」
「うん」
俺はなんだか安心してしまって、そのまま寝てしまった。
次の朝
俺はミルより先に目が覚めたので布団を静かに抜け、リビングに向かう。
今日は出掛けるので家事を早めに済ませておかねばならないだろう。
とは言ってもやる事といえば簡易な掃除と朝食作りぐらいしかないのだが。
しばらくするとだんだんと皆が起きてくる。
朝食作りを急がなければ。
「ハヤト、毎日朝ご飯が同じではないか?」
「朝ご飯が出てくるだけありがたく思え」
そう、俺は面倒くさくて朝ご飯の献立を一週間に一回しか変えない事にしている。
今週はパンに目玉焼き、ベーコンだ。
俺はふと思った事がある。
デートって何するんだ?露店で何か買い食いしたりとかそういうのか?まぁいいそこら辺は刀香に任せよう。
さぁ、あまり嬉しくないが、デートに出発だ。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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