大きな課題
次の朝
昨日はあれから何事もなかったかのようにそのまま寝た。
つまり、刀香が何故ミルが俺を殺してしまったことを知っていたのか、という事情聴取をしていなかったのだ。
朝食の後、刀香に話を聞くと、どうやら刀香を担当した天使が俺とミルの事を話したそうだ。
正直、今これを知ったところで何が出来るわけでもないのだが、一応な形としてな。刀香が何を考えているのかも知りたかったから完全に無意味というわけでもなかった。
ミルと刀香は一応は和解したようだが、まだピリピリしている。
まぁそこは当人同士の問題なので俺が口を出す事でもない。
インパクトの強かった、修業の第一週目だったが、今日が終わればほとんどサイクルは一周したと考えていい。
しかし今日も今日とて気は抜けない。
何せ今日は実地なのだ。何が起こるか分からない。
昨日は何気に吸血鬼の体での初めてのまともな(?)実戦だったわけで、特に問題なかったので大丈夫だと思う。
しかしながら、今の俺たちには昨日の事があり、最低限の連携も取れないかも知れない(まぁもともと連携など学んでいないのだが)。
いざとなればエリナやオルクスが出張ってくると思うが、心配だ。
それでも時間は待ってくれない。俺たちはギルドに到着した。
するとオルクスが急に前に出た。
「ギルドマスターに白髪で長身の男が来たって伝えてくれる?少し話がしたいんだ」
受付嬢は怪訝そうにするが、奥へと入っていく。
少し待つとすぐに応接室に通された。
応接室にはゲイルさんが地面に膝をついて頭を低くしていた。
どういう事だ!?あの軽薄そうなゲイルさんが正座だと!?
「オルクス様、今日はどのような御用向きでございましょうか」
尊敬語を使っているだと!?
というかオルクスの正体を知っているようだな。
「一つ目はエリナちゃんにカードを発行して最初からDランクに、二つ目はトウカちゃんをDランクに昇級、出来るよね?」
「い、いえ。流石に……」
「出来るよね?」
「しょ、承知しました」
刀香からカードを預かってゲイルさんがエリナと一緒に部屋から出ていく。
こいつゲイルさんに一体何をしたんだ?
「お前ゲイルさんに何か貸しでもあんのか?」
「うん、まぁね。あいつの命を救ってやって、そんでもって鍛えてやったんだよ。だからあいつは僕に頭が上がらないってわけ。君たちもこき使ってやってよ。僕の名前を出せば大抵の言う事は聞いてくれるはずだよ」
ギルドマスターにコネがあるとは、中々便利で役に立ちそうだな。俺もこき使ってやろう。
しばらく待つとゲイルさんたちが帰ってきた。
エリナと刀香のカードはDランクになっていた。
「それでゲイル、ここにBランクかAランクの討伐依頼ってないかい?」
「はぁ……この子たちを鍛えるんですね?それならまずはBランクのウィンドウルフ討伐はどうでしょう?連携の大切さを学べると思いますよ?」
「じゃあそれにしようかな。それにしても良かったね。溜まっていたクエストを僕たちに消化してもらえるんだから」
「まぁこちらとしてもありがたいですよ、先生。じゃあ依頼が完了したらまた呼んでください」
話が済んだ俺たちは応接室を後にする。
向かう先は郊外の平原だ。
エドナ郊外の平原には様々な魔物が生息している。基本的には街に近いほど弱い魔物が生息し、遠いほど強い魔物が生息している。
これは強い魔物ほど賢いものが多く、人間の生存域に近づくのは得策ではないと理解しているからと言われている。
そんな中で今回のウィンドウルフだが、単体としてはDランク指定の魔物だ。
しかし、この魔物は群れで行動する事がほとんどだ。
そしてその統率力は非常に高い事で有名で、Aランク冒険者でも手を焼くほどと言われている。
俺たちはウィンドウルフの群れの生息域に到着した。
道中、俺は疑問を一つ解消する事が出来た。
この世界にはスライムという魔物が存在する。しかしこの魔物はまだ未解明な事が多い。
何せギルドで教わった倒し方はとりあえず剣で斬りまくるか、魔法で攻撃しろというかなり適当なものであったりしてしまうほどだからな。
そこで俺はオルクスにスライムについて聞いてみたところ、珍妙な答えが返ってきた。
オルクスが言うにはスライムには下級精霊とも言えないほどの思念体が宿っていて、スライムが水に変わるときはその思念体が傷つけられて、霧散したからだそうだ。
しかし、腐っても精霊みたいなものらしいので水を変化させ、消化液のようにしたり、毒にしたりなど出来る個体もいるそうだ。
たかがスライムと侮れない。
話が逸れたが少し遠いところに確認できた。
これから作戦を練るわけだが、俺たちはまだ互いの特性や使える魔法が共有出来ていない状況だという事に気付いた。
そこで俺たちはウィンドウルフと戦う前に共有する事にした。
俺の特性は『剣士のセンスS級』、使うスキルは『魔力操作』、『妨害』。使える魔法はなし。
ミルの特性は『魔法使いのセンスS級』、使うスキルは『魔力操作』、使える魔法は『初級魔法』、『中級魔法』。
エリナの特性は『吸血鬼王』……て何じゃそりゃ!
「いやいや、特性が『吸血鬼王』ってどういう事だよ!?」
「魔物の特性には種族名が入るのじゃ。出来る事はそうじゃのう……『ドレイン』、影の操作全般、『超高速再生』ぐらいかのう?」
という事らしい。使える魔法は『上級魔法』以下の難度の攻撃魔法全て。
そして、オルクスは何でも出来るとの事だ。
なお今回の戦闘には直接的には参加しないらしい。作戦のアドバイスなどのみという事だ。
一応聞いておいたが特性は『上級精霊』。精霊の血を色濃く受け継いだと言っていたから当然か。
刀香の特性は『サムライマスター』、使うスキルはなし。使える魔法もなし。
しかしこの『サムライマスター』という特性、本当に何も分かっていない。
オルクスもこの特性を持った人にはあまり会った事がないそうで、会ったときもそんなに話をしなかったらしい。
オルクスによるとここから立案される作戦は基本的な前衛と後衛に分かれた配置らしい。
しかし今回のメンバーには吸血鬼というイレギュラーが二人も入っているためもっと単純な作戦を取れるらしい。
どういう作戦かというと前衛二人、後衛二人で分けて前衛、後衛それぞれの吸血鬼は相棒にダメージが入らないようにカバーするという作戦らしい。
つまり実質、二ペアに分けてそれぞれのペアで戦うという事だ。
これでは連携にならないじゃん、と思ったが、最初は二人でも連携をとるのが難しいらしい。
まぁでもこういうのは実戦あるのみだ。
やってみなくちゃ何も分からない。
というわけで早速実戦開始だ!
俺たち前衛チームは昨日二人で戦っているので二人での連携は出来るはずだ。
とは言っても昨日の連携と言ったらクイーンフォレストスパイダーの何秒かだけだが。
こちらは走って近づいているので敵もこちらにすぐ気付く。今回の標的は五匹の群れだ。
俺たちは軽々斬れるかな?と思っていたが、それはまったく甘い考えだった。
ウィンドウルフは巧みに連携をとって俺たちが大振りな攻撃が出来ないように妨害してくる。
「一番右行くのじゃ!」
エリナが魔法を飛ばす前に声をかける。
後衛の詳しい作戦はこうだ。
片方が一撃目で敵に避けさせて、もう片方が敵の避けた地点にもう一撃入れるという作戦らしい。
つまりこの作戦を実行するためには前衛が臨機応変に動かなければならない。
エリナの一撃目はウィンドウルフに躱される。しかしここで面倒な事になる。
ウィンドウルフが俺を挟んで一直線上にミルと対峙してしまった。
俺は射線を空けなければならないのだが俺は他の敵をいなしているため、タイミング良く射線を空ける事が出来ない。
このようなチャンスが十回ほど訪れたが成功したのは一回のみ。本当に連携って難しい。
でもこのタイミングとかっていうのはやはり何回もやっていくしかないのだ。
それを通して相手の呼吸を知り、それに互いが合わせて噛み合うようにする、今回はそれだけでも分かっただけ上出来きだ。
結局、前衛が相手の隙をついて残りの四体を倒した。前衛同士、後衛同士の連携は一応出来てはいたのだ。
次に出会った六匹の群れでは後衛が二匹葬ったが、連携の成功率はまだまだだった。
しかしこの二戦目で事故が起きた。
後衛の連携による二撃目の射線に俺が後から入ってしまったのだ。これによりエリナは無詠唱の『ファイヤーボール』を止められず、俺に命中した。
一応、すぐに『ウォーターボール』が飛んで来て、消火でしたし、吸血鬼なので傷にはならないがこれが刀香だったと考えると大惨事になりかねなかった。
一応依頼は十匹の討伐だったので依頼は成功という事になる。
しかしこれはパーティーで行動するにあたって一番の課題だ。これをクリアしない限り俺たちはまともな連携はとれないと考えた方がいいだろう。
まぁこれも数をこなしていくしかないんだろうが。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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