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俺を殺した奴

「ただいまー」


 あれ?誰もいないのか?

 まぁいい先に風呂沸かしてご飯作ってりゃいいか。

 ちなみにいつ血糊を落としたのかというと、俺が少し無理をして魔力を使い、ミルに習った『清掃』で刀香ごとちゃちゃっと綺麗にした。


「なんか誰もいないみたいだし、先につくろうぜ」


「そうですね。台所はこっちですか?」


 俺は刀香を台所に案内してから、風呂を沸かしに行く。

 それにしても今日は調子に乗って討伐し過ぎた、おかげですごい疲れてしまった。


 俺は大きい脱衣所を通り抜け、風呂への戸を開ける。


「あ」


「「え?」」


 あーやらかした。こんな時間から風呂に入ってるとは思わなかった。


 ここから逃げる手順は簡単だ。

 追撃が来ないようにまずは戸を閉めて、それからダッシュで台所まで逃げればミッションコンプリートだ。


「すまん」


 行け、ダーッシュ!

 ハハハッ、フェーズ1完了だ!

 それにしてもミルのやついい体をしていると思っていたが、俺の目に狂いはなかった。

 というか俺が想像していたよりもすごかった。何がとは言わないが。

 フェーズ2は何食わぬ顔で台所に行くだけだ。


「どうだ刀香、この家、大きいだろ?」


「ええ、本当に豪邸ですね。流石、兄さんです」


 フェーズ2完了、ミッションコンプリートだ!


「ところでハヤトこの子は誰だい?もしかしてまた女の子引っ掛けて来たのかい?」


 お前いたのかよ!


「またって何だよ!人聞きの悪いこと言うな!こいつは俺の妹の刀香だよ。俺を追いかけて来たらしい、今日からこいつもここに住むから」


「兄さん、この方はどなたですか?それとこの方の後半の発言についても詳しく」


 ほら、勘違いしたじゃん。マジで面倒くせえ。


「こいつは俺の剣術指南役的な奴で、オルクスって言うんだ。後半のヤツはこいつの適当だ」


「……そうですか。よろしくお願いしますね、オルクスさん。それで兄さん、他のお仲間さんはいないんですか?」


 こいつ意外と察しがいいぞ!?

 こいつに俺が風呂を除いた事がバレたらまた面倒くさい事になるのは目に見えている。

 これ、俺詰んだんじゃないか!?


「いるけど今、風呂入ってると思う」


「お風呂ですか?兄さんさっきお風呂沸かしに行くとか言ってませんでしたか?」


「明かりがついてるから変だなって思って引き返してきたんだよ!」


「ふーん……そうなんですか」


 こいつ信じてないな。これ、大人しく怒られよ。


 そのまま刀香と料理をしていると審判の時がきた……はずだった。

 おかしな事にミルとエリナは覗きの件について何も言ってこなかった。

 謝れば許してくれるものなのか?

 刀香についての説明も特に何もなく終わった。


 しかしここで俺は思った事がある。

 今この家には転生に関係する人間が三人、俺の言う事なら何でも聞くとか言ってる奇特で危篤な奴が二人いる。

 それならこの場でもう転生について話しちゃった方が後々楽なんじゃないかと思う。

 うん、言ってしまおう、ご飯の後に。その方が隠さなくていいから楽チンだ。


 ご飯が全員食べ終わり、ミルも片付けが終わって全員が暇になったのを見計らい、俺はリビングに全員招集した。


「なんじゃ、いきなり全員呼び出して。トウカの歓迎会でもするのか?」


 本当にこいつさっきの件について何も触れてこないな。逆に心配になるぞ。


「いやそうじゃない。もっと大事な話がある。実は俺と刀香とミルはこの世界の人間じゃない」


 刀香とミルはそれ言っちゃう!?って顔をしているが今回は強行させてもらう。


「へー、で?それがどうかしたのか?」


 何その反応!?もっとこう、えー!?とか嘘でしょ!?とかそういう反応は無いのかよ!?


「え?それだけ?オルクスもなんか無いのかよ?」


「いやまぁ僕もそういう技術については考えた事がなかったわけじゃないからね」


 マジかよ!?こいつ何考えて生きてんだよ。


「え、じゃあ、ミルは天使なんだぞ?」


「天使がこの世界に降りてきたという文献は結構あるもんじゃぞ?悪魔がいるなら天使がいてもおかしくはないじゃろう?」


 ここまでの無反応は流石に想定してなかった。

 ミルも口をポカンと開けている。

 しかしここで俺は異変に気付く。


 刀香が傍の刀を急に抜いてミルに向かって行く。状況が全く理解できない俺は呆然としてしまう。

 刀香が刃をミルに振り下ろしかけたがそれは二振の剣に阻まれた。

 オルクスとエリナが反応したのだ。


 一拍遅れて俺もやっと反応する。


「おい!刀香、どういうつもりだ!?返答によっちゃただじゃ済まさねえぞ!?」


「兄さんはどうやらご存知ないようなので、教えて差し上げます!兄さんを殺したのはこの堕天使です!」


 い、一体どういう事だ!?何を言ってるのか分からない。


「だから私はこいつを許さない!!大好きなお兄ちゃんを殺したこいつを!!!」


 刀香は未だに剣を振り続けている。

 これだけは使いたくなかったが使うしかないか。

 俺は声を作って刀香に近付いて呼びかける。


「おい刀香」


 俺の優しい声音にこいつは絶対に振り向く。


「へ?」


「俺もお前の事、大好きだぞ?」


 そしてキス。


「「「え!?」」」


 これでこいつは大体気を失う。

 それにしても兄妹でキスって何にも感じないよな。


「おい、エリナ。こいつ影にぶち込んどけ」


「わ、分かったのじゃ」


 俺のカミングアウトが霞むレベルの大事件だぞ?というか俺を殺したのがミルってどういう事だ?


「ミル、あいつが言ってた事に心当たりあるか?」


「……」


 おいおい、嘘だろ!?刀香の虚言じゃなかったって事かよ。


「……エリナ、オルクス、呼び出しといて悪いが、席外してくれ」


 なんだかんだでミルは結構隠し事多いな。

 天界の者が間違えて殺したって言ってたが、それがミルだったって事か。

 こいつは良い奴だからこういうのは隠さずに言っちゃうタイプだと思うんだが……何か理由があるのか?


「あーなんだ、悪いが話してくれないか?お前にも事情があってそれを説明すれば刀香も分かってくれると思うぞ?」


「……ハヤトは優しいね。今の発言、ハヤトの事が全く入ってなかった……それってもう言うまでもなく許してるって事でしょ?」


「そりゃあな。前の世界にいても勉強とか色々面倒くさかったからな。それにこの世界はゲームみたいで楽しいよ。お前らみたいな仲間にも恵まれたしな。というか俺がお前に対して何か言う資格はないはずだぞ?だって俺はお前をこの世界に連れてきたからな」


 感謝こそすれ恨むなんて以ての外だ。


「それと私がハヤトの人生をめちゃくちゃにしちゃった事じゃレベルが違うよ……ハヤトは私がハヤトの人生をめちゃくちゃにしたって分かっても今が幸せなら別にいいって言って、私を許すでしょ?だから私はハヤトに知られないように罪滅ぼしをしようと考えていたんだよ」


 なるほどな。だからミルは俺にこの事を言わなかったのか。


「俺はさ、結構ダメな人間だなって自覚はあるんだよ。だけどそういう面は他人には見せないものだろ?俺は前の世界では結構頼りにされる事が多かったんだよ。外面は良かったからなんだろうな。だけどそれって結構疲れるし、俺のやりたい事でもない。だから俺はお前が転生の話をしたときに決めたんだよ、これからは自分のやりたいようにやろうって。俺がそういう面を初めて家族以外に見せたの誰だか分かるか?それはミル、お前だよ。俺がお前をこの世界に連れいこうって思ったのは完全に俺のエゴだろ?この時点で俺はお前の人生をめちゃくちゃにしたわけだ。だけどお前は俺とは違ってめちゃくちゃな人生を生きなきゃならない。それなのにお前はイヤな顔一つせず……いや、イヤな顔はしてたな……あれも演技か?まぁそれは置いといてだ。結局は俺についてきてくれただろ?俺はすげー嬉しかった。だってこんな可愛い子が旅のお供だぜ?男なら誰もが羨むシチュってもんだ。また話が逸れたが、とにかくだ!俺は多かれ少なかれお前の人生をもらってんだよ。だけど俺はお前に殺されて逆に楽しい生活を送らせてもらってる。そんな状況でお前が俺に罪滅ぼしなんてあり得ない。そればかりか俺の方がお前に恩返しをしなきゃならない。今の俺じゃ、何も返せないがこれだけは言わせてくれ。俺についてきてくれてありがとう。それと悪かったな、この世界に堕として」


 なんだか俺、オルクスの事言えないぐらいすごい長く喋った気がする。

 というか今まで生きてきて一番長く喋ったんじゃないか?


「私こそ、ごめんね……グスッ……本当にごめんねぇ!私、本当はこんなつもりじゃなかったの!あのときは間違って……ハヤト、ごめんねぇ……」


 俺は初めてミルの本心に触れた気がする。これも演技だったらバカウケだな。


 これで一件落着。

 まさか妹との再会に始まりこんな一日の終わりが待っているなんて思いもしなかったな。

 さーてと風呂にでも入って疲れを癒すか。

 泣いている女の子に何のフォローもしないで行くのかよ、と思った諸君。


 俺はそんな面倒くさい事はしない……本心を言うと何か失恋につけ込む男みたいでかっこ悪い的な?

 ここで慰めたりしたら、ミルが惚れちゃうかもじゃん?


 ここは一人で泣いてスッキリするのが一番、な気がする。

 それに明日もいつも通り修業だろうしな。


 風呂に入る前に刀香を出してもらうのを忘れかけていたので忘れないうちにお願いしに行く。

 刀香はまだ眠っているようなのでエリナに叩き起こさせておく。

 エリナとオルクスには問題は解決したと伝えたので刀香にも伝わるだろう。


 それにしても大変な一日だった。

 そしてこのときの俺は明日も大変な一日になるとはつゆほども思っていなかった。

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

 御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。


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