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お前とは会いたくなかったけど会いたかった

 今回はハヤト視点に戻します。

 いや〜それにしても暇だ。

 ミルとエリナは修業に行ってしまったし、今日やる家事はあらかた済ませてしまった。

 うん、本当に暇だ。

 こんなときはギルドに行って、クエストをこなして小遣い稼ぎでもするか。


 そうと決まれば話は早い。

 俺は昼ご飯を手早く済ませ、ギルドへと向かう。もちろん走らない。疲れるから。


 ギルドに入ると何やら受付カウンター近くが騒がしくなっていた。この喧騒、覚えがある。

 大型新人でも現れたのだろう。


 どれ、この大型新人の俺が挨拶に行ってやるとするか。

 しかし間違いだと恥をかくので一応周りの人に聞いてみる。


「シュミットさん、なんかあったんですか?」


 このシュミットさんは『初級剣技』でお世話になった人で、あれから何かと交流がある。


「おお、ハヤトか。何でもお前みたいな大型新人がまた来たみたいでな、戦闘職系の珍しい特性を持っているらしいぞ。何て言ったかな?『サムライマスター』とか何とか」


 サムライだと!?この世界にサムライっているのかよ!?

 それにしても『サムライマスター』か。どんな奴なんだろう。

 これは俺もますます挨拶しないわけには行かなくなったぞ?

 サムライの国から来た日本人としては顔を見ておかねば。これで金髪碧眼とかだったら絶対仲良くしてやんねー。


 しかし、本当に人だかりがすごいな。これでは前に進めないな。

 だって嫌だろ?筋肉ムキムキの男たちをかき分けて進むの。

 そこで俺はとりあえず声だけでも聞く事にする。特性を使って身体能力を上げる。

 これぞ特性の無駄遣いというものだな。


「すいません。珍しい特性だけあって最初にお渡しするはずの特性にあった得物をお渡し出来ないんです。代わりと言っては難ですが普通の銅の剣をお渡ししますね」


 ミレットさんの声が聞こえる。まぁ流石に刀は無いわな。


「いえいえ、大丈夫ですよ。私もう自分の得物持ってるんですよ。ほら」


 いやいや、待てよ!?何でこの世界に刀があるんだよ。今の得物を抜く音、完全に刀だったぞ!?

 それにこの声どこかで聞いた事のあるような声だ。


「珍しい形の武器ですね。『サムライ』の方は皆さんこの武器で戦われるんですか?」


「ええ、皆この武器を使って戦うと思いますよ」


 おいおいおいおい!俺の予想が外れている事を願うしかないぞ!?

 俺は男共をかき分けて声のした方へ急ぐ。


「嘘……だろ?……刀香(とうか)、何でお前がここに!?」


「……?今、聞き覚えのある声がしたような……!?に、兄さん!?もう会えました!」


 俺は今、揺れていた。

 特性を発動させている俺はこいつの動きが完全に見えている。

 つまりこいつのハグを避ける事は造作もない事なのだ。

 久しぶりなんだから受ければいいじゃん、と思うが、こいつのハグは痛いのだ。力が強すぎて。

 しかしやはり受けてやるべきか。大丈夫だ、俺の体は今、吸血鬼の体。人間ごときのハグなど恐るるに足りん……よし、受けるだ!


「兄さ〜〜〜ん!!」


 い、痛えぇぇぇ!?どうなったんだよこいつの筋肉!


「会いたかったです!触りたかったです!!キスしたかったですぅぅぅ!!!」


 俺の中で何かが切れた。


「いってえんだよ!!この愚妹が!!」


 我ながら綺麗な背負い投げが決まった。ギルドの床は石畳だが、大丈夫だろう。

 気付いた方も多いだろうが、俺の愚妹(いもうと)、桐生刀香は重度のブラコンなのだ。ちなみにシスコンでもある。


「せっかくの再会なのにいきなり背負い投げは酷いですよ、兄さん」


 当たり前のように受け身を取ってやがる。

 こいつは生意気にも武道の達人なのだ。それも全国大会で優勝するレベルの。


 俺と姉さんには武道の才能がほとんどなかったが、俺たちの武道の才能を全部凝縮したかのような才能を持っていたのが刀香だった。


 しかも、生まれながらにチートなような体質も持っていたりする。

 どんなものかというと反応速度が0.05秒というものだ。

 この速さは常人が一回剣を振るとそれを一撃で返して、二撃か三撃相手に加えられるというものだ。

 神経回路に異常をきたしているようでこのように武人としては圧倒的な強さを誇れる刀香だが、これで生活しているととても疲れるらしい。

 どれぐらい疲れるのか、と聞くとうんざりするような顔をして『死ぬほど』と言っていた。


「いやいや、いきなり抱きついてくるのは無いだろ?」


「やだなぁ、兄妹として当たり前のスキンシップですよ?」


 んなわけあるか!異常なスキンシップだ。

 ていうか何でこいつここにいるだ?……まさかと思うが、俺は一応声を抑えて、


「ていうか本当にお前何でここにいるの?ま、まさかお前……し、死んだりしてないよな?」


「え?死んじゃいましたよ?死んでなきゃこんな事出来るわけないじゃないですか。天使さんが言うには『お前を間違って殺してしまった……本当にすまん!』だそうです」


 おい、天界!!再発防止に努めろよ!?

 聞きたい事はたくさんあるがどれもここで聞くと面倒な事ばかりだ。

 とりあえずクエストにでも出てそこで話を聞こう。


「ミレットさん、なんかいい感じの討伐依頼ないですか?」


「え、ええと……この街の南西にある森にいるフォレストスパイダーの討伐なんてどうでしょう。Eランクの魔物です」


 Eランクか。それなら俺と刀香でも受けさせてもらえるだろう。


「じゃあ、それ二人で受けます!」


 そう言うやいなや俺は刀香を抱えて走り出す。


「ちょ、待って……今日はいいですけど次回からはちゃんとカウンターに依頼書を持ってきて下さいね!」


 ミレットさん、すいません。


「兄さんいきなりダ・イ・タ・ン!やっぱり寂しかったんですね」


 こいつウゼぇぇぇ!!


「ちょっと黙ってろ。それとしっかり掴まっておけよ」


「え、何ですか?……ってはやっ!?」


 森にはすぐ着いたが、何匹討伐すればいいか聞くの忘れたな。まぁいい適当に狩ればいいよな。


「で、お前何で死んじゃったんだよ?その格好からして学校からの帰りか?」


「はい、学校の帰りに車に轢かれて死んじゃったみたいです。まさか兄さんと同じ理由で死ぬとは思わなかったですけど」


 俺も思ってなかったよ。


「で、間違って殺してしまったお詫びにその刀か」


 でもその刀もただの刀じゃなさそうだよなぁ。


「はい、でもこの刀すごいんですよ?何でも名刀正宗と全く同じ性能で刃が損傷しても自動で修繕してくれるそうです」


 そういえばそんなのもあったな、刃こぼれしない名刀シリーズとか言って。


「お前カードみたいのギルドで貰っただろ?それ見せてくれないか?」


「いいですよ。はいどうぞ」


 魔法関係のステータスはかなり低めだが、物理系のステータスはかなり高い。それにサムライあるあるの敏捷ステータスがバカになってる。

 特性はシュミットさんが言う通り『サムライマスター』だ。


「この『サムライマスター』って特性どういう効果なんだ?」


「よく知らないです。発動中は身体能力が上がるとか刀を持ってると強くなるとかそんなんじゃないんですかね」


 なんかすげー投げやりだな。興味ねえのかな、こういう事に。

 俺はとりあえずカードを返す。


「じゃあ、お前はこの世界に来て何をしたかったんだ?」


 これは結構大事な事だ。俺と方向性が全く違うようなら一緒に行動するわけには行かないからな。


「兄さんと一緒に暮らしたいです」


「は?」


「いえですから、一緒に暮らしたいです」


「……じゃあなんだ?お前そのためだけにこの世界に来たのか?」


「私は姉さんも好きですけど兄さんだけ一人は可哀想だと思って」


 愛が重い!!

 てか父さんと姉さんマジで可哀想だな。こんな短期間に家族が二人死ぬなんて滅多にないだろうに。


「じゃあ刀香、俺のために働いてくれるか?」


「もちろんです!兄さんのために私、働きます!」


 こいつチョロ、簡単に扱えるな。

 手っ取り早くオルクスに鍛えさせて強いダンジョンに行かせて稼がせよう。

 しかし、兄としてこのチョロさは少し心配だな。

 まぁいい。俺が一生こき使ってやればいいだけの話だ。


「……なぁ刀香。俺と剣技で勝負してみないか?」


「いくら兄さんといえども、私、剣技で負けるつもりはありませんよ?」


 そう、こいつは負けず嫌いなのだ。だから勝負と名がつけばなんだって本気なのだ。

 これを利用して俺が勝てば、次こそは俺を倒そうとこいつはこの世界でも一生懸命鍛錬するに違いない。


「俺だってこの世界に来て何もしてないわけじゃない。例えば『肉体改造』とかな」


「いいですよ、兄さん。その勝負受けましょう」


「じゃあスリーカウントだ。行くぜ?三、二、一、スタート!」


 刀香がいきなり斬り込んでくる。しかし俺には完全に捉えられている。

 こいつのアドバンテージである反応速度は今の俺にとってはそこまで脅威ではない。それでも脅威ではあるが。

 俺は刀香の一撃を受けるが……いやなんだこれ!?

 こいつのマジで速い!!一瞬でも気を抜いたら一発でアウトだぞ!?

 真剣で稽古してるからこんな慣れてんのか?

 しかし、力では俺が勝っているし、この剣戟は五分も続かないだろう。

 なぜなら刀香が俺より先に疲れてバテるから。


「兄さん……中々やりますね。一瞬で終わると思っていましたが、ハァハァ……相当な修業を積んだようですね」


 修業は今、積んでいるところでこの剣技はなんの努力もしないで手に入れた力なんだけどね。


「俺から言っといて難だが、もうやめないか?ここでお前に疲れられると依頼達成が困難になる可能性があるんだよ」


「確かにこのままいけば私がバテて負けてしまいますからね。分かりました、ここでやめておきます。ですが、こんな事するの兄さんだけですからね!」


 およ?思ったより悔しがってないぞ?

 これじゃ俺が何のために戦ったか分かんないぞ?


「いや、逆に俺以外でこそやめた方がいいと思うぞ?俺だからここでやめるって言ったんだぞ?」


 それにしても使える人材を思わぬところでゲットしたぜ。一レベルでこの強さだ、ステータスが上がればどんな化け物になるんだか。


「まぁいい。とっとと依頼終わらせて帰ろうぜ」


「そうですね!たくさん駆除しちゃいましょう」


 こいつもうこの世界に順応してやがる。


 そんな感じで俺たちは久しぶりに家族と再会した嬉しさで興奮していて、アホみたいにクモを殺しまくった。クモは結構デカめで殺しやすい。


 俺たちは森を駆け回る。

 フォレストスパイダーを一瞬で殺して討伐証明部位である右前足をぶん取る。この繰り返しだ。

 途中でなんかさらにデカいクモが何匹かいたが、刀香が縦に一刀両断し、俺が足を切り落とすという、ここまでおよそ三秒で方がついた。


 刀香は一応女の子だったはずだったが、それを疑うレベルの格好している。

 返り血で制服は真っ赤に染まっているのだ。


 他の魔物も含めるともう何十匹葬り去ったか分からなくなっていた俺たちだが、俺のリュックサックのようなものに足が入りきらなくなったため帰る事にした。もう日は傾きかかっていた。


「なんだか元の世界では出来ない事をしてすごいスカッとしました。それにしても流石ですね、兄さん」


「刀香こそやるじゃん。まさかあそこまで骨があると思わなかったぞ?流石俺の妹だ!」


 そんな感じで刀香はこの世界に馴染めているようだったので安心した。

 まぁ刀香とっちゃ元の世界の方が生きにくかったのかもな。

 そういえばレベルはどれくらいに上がっただろう?

 カードを見てみると俺のレベルは二十四になっていた。

 我ながらアホみたいに殺したなと思う。


「刀香、お前のレベルはどうなってる?」


「えーと、私は今十八レベルです」


 マジか!?それもうさっきまでの俺と同じぐらいなんじゃね?

 そうか、こいつあのさらにデカいクモを俺より殺してたからだな。それでレベルがこんなに上がったのか。


「そ、そうか。中々じゃねーの?」


 ギルドに戻ると血塗れの俺と刀香は驚かれ、何にやられたか問われたが、刀香が全部返り血と言った瞬間周りの人の顔が青ざめた事は言うまでもない。


 そしてあのさらにデカいクモはクイーンフォレストスパイダーというらしくDランク相当の魔物で刀香のランクが初日からEランクに上がった。


 俺が殺したんじゃないかと疑われたが、刀香のレベルが十八に上がっている事が証拠として認められた。


 ちなみに今回のクエスト報酬で銀貨一枚、クイーン十匹、普通のクモ八十七匹分の討伐報酬で銀貨五枚と銅貨三十枚手に入れた。

 小遣い稼ぎとしては大成功だ。


「よし、今日は楽しかったな。刀香」


「そうですね、久しぶりに兄さんと遊んだ気がします」


 魔物狩りを遊びと言うとは中々に過激な妹だ。


「じゃあ(うち)に帰ろうぜ。聞いて驚けよ?俺の家は豪邸なんだぞ」


「本当ですか、兄さん!?私、いつか豪邸に住んでみたいと思っていたんです!」


 やはり兄妹は何か通じ合うところがあるようだ。


「あ、家に帰る前に食材の買い出しな。うちは結構大人数だからたくさん作らなきゃなんないんだよな。だからお前も手伝え」


「……それはどういう事ですか?兄さん」


「どういう事も何も仲間がいるんだよ。今日はあいつら家で修業でさ……そうだ明日からはお前も参加しろよ」


 あいつらも驚くだろうな。どんな顔するだろう。


「なぁんだ。仲間ならそうと言ってくれればいいじゃないですか。私てっきりこの世界でもう女でも作ってるのかと思っちゃいましたよ」


 こいつ目がイってやがった!?完全に殺る目をしてたぞ!?

 まぁいい別にいいけどさ。あいつらはそういうんじゃないからな。


「じゃあ買い出しして帰ろうぜ」


「そうですね、では行きましょう」


 俺はこのとき刀香の目がまだ据わっていた事に気付いていなかった。

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

 御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。


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