修業③
今回はエリナ視点です。
次回はハヤト視点に戻す予定です。
わしは今、荒野に来ているようじゃ。
ここで何をするかは大方想像できているが、一応問うておかねばならないじゃろう。
「こんなところに連れてきてどういうつもりじゃ?」
「君の覚悟を試すだけだよ……具体的には君の全身全霊をかけて僕にかかって来てもらう。殺す気でね」
あの言葉だけでは教えられないという事か。
「了解じゃ。文字通り殺す気でいかせてもらうぞ?しかし、本当に殺してしまっては魔法の事を聞けんから、最後は寸止めでいいかのう?」
「それでよろしく。僕も久々に本気を出す事にするよ。念のため聞くけど本当に不老不死だよね?」
「流石に頭と心臓を同時にいかれると死ぬかも知れないからそこは頼む」
しかし本当に舐められたもんじゃ。もう殺す気でいるようじゃ。
我が一族の叡智を持ってしてどこまで行けるか。
わしとて本当に剣聖賢者を殺せるとは思っておらん。負けるんじゃろうが、これも一族の繁栄のためじゃ。
「では……行くぞ!!」
わしはまず広範囲を攻撃できる『ヘルフレア』を使う。この魔法は炎で相手を球状に包み込むものじゃ。
オルクスは全く避けないでそれを受ける。魔力障壁を張っているようで全くダメージが入っていない。
ならば近距離で直接攻撃すれば良い!
わしは氷魔法で剣を作りオルクスとの距離を一気に詰める。
オルクスはいつ出したのか禍々しいオーラを纏った剣で受けてきた。
そして、わしの氷の剣はあっさりと斬られてしまった。
「『魔断の魔剣』。魔法によってつくられたものなら楽々断ち切れる魔剣さ。所謂、魔法使い殺しってやつだよ」
あの魔剣で『ファイアーボール』などの魔法などは簡単に斬られてしまう。
つまり相手の認識できない速度で魔法が着弾するようなものでないとそもそも命中しない、しかしこの状況では例え命中したとしても魔力障壁に阻まれる。
だから此奴は言外に近接戦でかかって来いと言っているのだ。
剣を持っておいて良かった。オルクスは動く気がないようなので、わしは影の中から剣を取り出す。
この剣は家の宝物庫から拝借してきた名剣だ。
わしはあまり剣を使ってこなかったが、ご先祖様の剣術、使わせてもらうぞ。
吸血鬼の剣術は攻撃の剣術。ダメージは受ける前提だ。
わしは身体強化の魔法を強めにかけて斬りかかる。
しかしわしの剣技はことごとく剣で受けられる。だがわしもこれだけではめげない。
さらに身体強化のギアを上げてオルクスに再び斬りかかる。
オルクスが片手で剣を受けようとしているのをおかしいと思った瞬間、わしの腹を熱いものが貫いた。
「ぐぅっ!?」
わしは急いで後ろに飛び退く。
「これに引っかかる人、多いんだよね。まぁこれを受けて死なない魔物は初めてだけどね」
いつもなら何秒かで再生するはずの傷だが治りが遅い。
「お主、『浄化の光』を使ったな?神官の魔法も使えるのか?」
「正解。でもすごいよ、一瞬で治っていくものなんだね。ここまで速いものだと思わなかったよ」
厄介な奴だ。
吸血鬼のような高位の魔物になってくると神官の神聖な魔法は効きやすくなると聞く。
それを狙って撃ち込んできた。
ブラフに知識、伊達に何百年も生きてないという事じゃな。
「しかしこうなると勝負がつかないね」
わしは吐血した血を拭いながら言う。
「ハハッ、大丈夫じゃよ。再生は魔力を微量ながら使う能力じゃ、お主に攻撃され続けたらいずれは倒れてしまう……じゃが、その前にお主を倒す!」
しかしどうする。このままではダメージを与えられないまま負けてしまうぞ。
魔法は使えない、近接戦でも剣の腕で負けてはいないが、勝てもしない。だが勝機はある!
わしはすぐさま転移魔法で姿を消す。
「……ん?どこに行ったんだい?……まさか逃げた?」
わしは逃げてなどいないぞ?
わしが居るのはお主の『影』の中じゃ!ここには流石に入れまい。
ここでわしは細工をする。
そしてまた転移。流石に疲れるのう。
「待たせたのう。少し休憩をしていただけじゃ。さぁもう一度戦おうではないか」
「じゃあ次は僕から行かせてもらうよ!」
オルクスは一気に距離を詰めてくる。
またあの戦法か?
いや、二度同じ技を使ってくるような奴ではない。
今度こそ単純な剣術か?
しばらくわしらは斬り合うが、わしの剣術は防御が得意ではないため、どうしてもダメージが入ってしまう。
わしは仕方なく、一旦距離をとる。
「……!?君、一体何をしたんだい?」
「ようやく気付いたか?」
「僕の魔力がいつの間にか減っている。しかも理由が全く分からない」
「そう言われて、わしが教えるわけないじゃろ?お主なら何をやってくるか分からないからのう」
此奴の弱点は魔力を補給できないところにある。
おそらくミルと同等の魔力量なんじゃろうが、そのままでいればいずれは魔力が尽きて存在ごと消失する。
それは流石に避けたいじゃろう。
そのときオルクスが怪しく笑い出す。
「なるほど、これは追い詰められた。……では、使ってあげよう。対人最強の殺人魔法を!……行くぞ、吸血鬼……死ぬなよ!」
これはまずい!
わしはとっさに剣を振り上げ斬りかかろうとするが、遅かった。
「『次元斬』!」
なんじゃ魔法の名前も間違っておったのか。
そこで胸から上だけのわしは地面に倒れ伏す。
意識はギリギリある。不便な体だ、とても痛いのに意識が途絶えない。
「この魔法……初めて使ったけど燃費悪すぎだよ……」
オルクスもどうやら倒れたようだ。
「寝る前に……わしの体、くっつけてくれん……かの?」
「人使いが荒いね。けど、分かったよ」
ようやく意識が途絶えそうだ。
「……ん……は!?」
「あ、気が付いた?ごめんね、ついつい盛り上がってしまって。さっきも言ったけど、初めて使う魔法だったから、殺しちゃった」
それにしても久しく痛いという感覚を忘れていた。
吸血鬼は基本的にそこら辺鈍いからな。
「あれからどれくらい経った?」
「五時間ぐらい経ったかな?」
確かに後二時間ほどで日が沈みそうだ。
「お主はいつ頃起きた?」
「一時間前だよ。僕は魔力を一度に使いすぎて倒れただけだからね。エリナちゃんよりは回復が速かったのかな?……それよりだ、君が僕からどうやって魔力を抜き取ったんだい?一時間考えてみたけど全く分からなかった」
「ああ、あれの事か。あれはお前の影の中に細工をして魔力を吸い取っていたのじゃ。吸血鬼が噛みついて魔力を奪うやつの応用じゃな」
「しかしあれは継続的な吸収だったはずだ。ああいうのは影に触れてなくても出来るものなのかい?」
「わしの一回目の転移魔法でお主の影に入ってわしの影と繋げた。そのときに魔力の糸を通して影の中から魔力を吸い取っていた」
こんな事をしたのはわしが初めてじゃろうから、そもそも対抗出来るわけがないのじゃ。
「そうだったのか!影の中までは流石に探知出来なかったよ。分かっていれば何とか出来たのになぁ」
対抗出来ただと!?
「具体的にはどうやってパスを断ち切るんじゃ?」
「今はもう廃れちゃったんだけどね。闇魔法の上位魔法に影魔法っていうのがあったんだよ。それを使えば自分の影ぐらいは思うがままに操れる。流石に君のように人の影と繋げて何かしたりは出来ないけどね。そんな感じであまり習得してもメリットがないって事で影魔法は廃れちゃったんだろうね」
闇魔法は知っているが、影魔法は知らなかった。
まぁでもわしらには全く必要ない魔法か。
「そんな事より、わしにはあの魔法を教える事は出来んか?」
「まぁいいよ。教えてあげよう。『次元斬』を試させてくれた事のお礼も兼ねてね。だけど難しいのはその『次元斬』だ。他の軍滅魔法と国亡魔法は結構簡単で、力任せに魔力を振りかざすだけの魔法だよ」
あれだけ痛い思いをした甲斐はあったという事か。
しかしこいつあれだ。本当に天才じゃ。
魔力をただ振りかざすだけだとか言っておるが、それが難しいから出来ないんじゃろ。
魔力を出す事は誰にでも出来る。
しかし瞬間的に出す魔力量が大きければ大きい程、魔法を行使するのが難しくなるというもの。
街を焼くほどの規模の魔力を使うというなら今のわしではそもそも魔力が足りないかも知れない。
仮に足りたとしても上手く魔法として形にするというのは卓越した魔力操作技術と精神力が必要となってくる。
「あ、後言っておくけど、あの『次元斬』、君の頭部に当てていたら本当に殺せていたと思うよ?」
「……?頭部だけだったら吹っ飛ばされても再生出来ると思うんじゃが……」
「『次元斬』はね、あらゆる次元のものを斬ることが出来るんだよ。本当に斬れているかは分からないけど君の魂がある次元をも斬る。魂っていうのは本当かどうかは知らないけど頭にあると言われているから頭を斬られていたら死んでたかもね」
な、何という性能じゃ……!?
もし魂が心臓の部分にあったとしたらわしは死んでいたという事か!?
何て危ない事をするんじゃ此奴は!?
という感じにオルクスはとりあえず、わしを認めてくれたようなので魔法を教わる事が出来るようになったのじゃが、結局この日は何の成果も得られずに日が暮れかけていた。
オルクスが言うには魔力量がそもそも足りないようで、これから毎日魔力を使い切ってから寝るようにと言われた。
これをすると魔力の最大量が上がるそうじゃ。
今日はお試しという事でここで魔力を使う事になった。
「魔力をただ垂れ流すだけじゃ勿体ないから僕に注いでくれるかな?」
此奴、自分の魔力不足を補うためにこんな事を言ったのでは?という疑問が浮かんだが無かった事にした。
人に魔力を注ぐ方法は簡単じゃ。吸血鬼の『ドレイン』の応用で相手に触って逆に魔力を流し込むだけじゃ。
「それでは行くぞ?」
わしは一応声をかけてから魔力を流し始める。
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……………………
…………
何だか疲れてきたような気がする……。
それにだんだん体全体に力が入らなくなってきて……わしは一日に二度目の気絶を経験する事になった。
目が覚めると自分の部屋にいた。
「見慣れた、天井じゃ……」
「え!?何でそのネタ知ってるの!?」
ベッドの脇にいたミルが急に変な事を言い出す。
「魔力を使い過ぎて倒れちゃったんだって。あの方法を使った修業では最初はある事らしいよ?私もさっき魔力炉にありったけの魔力を流してきたけど気を失っちゃったみたい。エリナは修業の疲れが原因で私よりも長く眠っていたらしいよ」
心配そうな顔を向けてくるミル。
わしは今お前の心配ではなく魔力炉の心配をしてしまったぞ。
しかしまぁ人に心配されるというのも悪くない気分じゃな。
「……そういえばハヤトはどうしたのじゃ?気配が感じられないんじゃが」
「なんか街の方に行ったみたいだよ?お昼頃から姿を見てないよ」
「なんじゃと?」
何やらまた変な事をしている気がするが、まぁいいじゃろう。夕飯さえ作ってくれればな。
「エリナ、オルクスさんがここまで運んで来てくれたであろう事には触れないんだね」
そんなもん知らん。『先生』としては普通の事じゃろう。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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