修業②
今回はミル視点です。
次回はエリナ視点を予定してます。
今日から待ちに待った修業だ。
私にはもう神性がほとんどない。不老の人間みたいなものだ。
今の段階では総合的な能力でハヤトとエリナに大きく劣っている。
ハヤトの身体能力による近距離戦は凄まじいし、エリナは様々な魔法を使えて、再生能力まで持っている。この再生能力を使えば近距離戦も出来るだろう。
それに比べて私は魔力量や魔力操作に関してはハヤトやエリナに勝っているかも知れないが、エリナの様な強い魔法や便利な魔法を知らないし、ハヤトの様なずば抜けた身体能力もない。
だから私は強くなりたい。
二人の足を引っ張ってはいけない。
特にハヤトにはこの世界を楽しんで、楽しんで、楽しみ尽くしてもらわなければならない。
私はハヤトが願うなら私以外に迷惑をかけないならどんな事だって叶える。
ハヤトが私をこの世界に持ったいく物に選んでくれたときは死ぬほど嬉しかったし、救われた。
私はこの人の役に立てるんだって思った。
だけどハヤトの考えは違った。
私を物として使い潰そうなんて微塵も思っていなかった。
彼の中では私は持っていく『物』ならぬ『者』だったのだ。
こういう事を言うのもアレだがハヤトは私のルックスを見て何かしてくるものだと思っていたが、何もしてこなかった。
半分は私の願望だった。そうしてくれた方がいっそ楽になれると思ったから。
私は自分を恥じた。こんな私に恥じるなんて心があるのかも分からないが。
初めはハヤトは少しダメなところがあるし、私が直せるものなら直そうと考えていたが、ダメだ。
私の方が全然ダメな人間、いや天使か。
なればこそ私は強くならなければならない。
そんな事じゃ、私の負の部分を補えるとは思っていないけれど、それでもせめて強くなってハヤトの役に立つのだ。
ハヤトは私に対してこれっぽっちも貸しがあるとは思っていないだろう。
だけどこの話をハヤトには絶対にしてはならない。
しばらく一緒にいて分かったが、エリナやオルクスさんの扱いが雑だけど根は優しい人だ。
この話をすればハヤトはきっと私を優しく慰めて許してしまう。それこそ家族になろうって言って。
それは一番ダメな選択肢だ。
だから私はこの命が尽きるまでこの事を誰にも知られずにハヤトに尽くそうと誓った。
それがハヤトの人生をめちゃくちゃにした私のせめてもの罪滅ぼしだ。
私はベッドから降りて服を着替える。
この間オルクスさんにもらった服だ。
この装備一式をハヤトがオルクスさんに頼んだと聞いたとき演技するのが大変だった。
本当は涙が出そうで堪らなかったが、何とか我慢した。
そういえば昨日ハヤトに命令できる権利を得たのだが、あれを使うときは来るのだろうか?……いやないか。
リビングに行くとハヤトが朝食を作っているのが見えた。
ハヤトにしては今日は何だか早起きだ(といってももう九時を過ぎているのだが)。昨日の修業で疲れたはずだろうに。
「おう、ミル。おはよう」
「おはよう。昨日修業だったのに早起きだね」
「お前らは今日初修業だろ?せっかくだから精のつく料理を作ってやろうと思って」
いつものハヤトはあまりこういう事をする柄じゃない気がするけど……どうしたんだろう?
「おいおいおいおい!ミルまで俺にそんな目を向けるなよ。そんなに物珍しいか?オルクスにも言われたぞ。俺にだってこういう事をしたくなるときがある。気まぐれと思ってくれていいけど」
私そんなに顔に出てたのかな?
「ふーん……まぁでもありがとう」
「ん。修業、がんばれよ」
こういうのが卑怯なのだ。いきなりこんな事されたらびっくりする。
ハヤトにエリナを起こしてくるように言われたので私はエリナを起こしに行く。
ドアをノックして部屋に入るとエリナが酷い寝相でベットに寝ていた。頭の位置が枕の真反対になっている。
エリナに対するイメージは日に日に崩れていく。
吸血鬼王はだいたい領地を持っている貴族だ。つまりエリナはお嬢様なのだ。
しかし現実はこうだ。生活態度が悪すぎる。
姫様のところに行ったときは丁寧な言葉遣いをしていて普段からそうしていればいいのに、と思ったが、それを上回るレベルで生活態度が酷い。
まぁでもエリナは大事な家族だと思っているし、魔法関係で彼女から学ぶ事はたくさんある。
「エリナ、起きて。ハヤトがご飯作ってくれたよ。それに今日の朝ご飯は手抜きじゃないみたいだよ」
「……ん〜……おお、ミルか。おはようなのじゃ」
おはようなのじゃって、完全に寝ぼけてる。
「おはよう。早速だけど着替えてリビングに来てね。それに今日は修業の日だよ」
「そういえばそうじゃったな。うむ、ご飯は先に食べていてくれて構わんぞ」
「分かった。それじゃあ早く降りてきてね」
エリナ、修業の事若干忘れてたな。大丈夫かな?
私は朝食を手早く済ませて洗い物をする。
今日は魔法を使って家事はしない。魔力を無駄に使うともったいないからだ。
エリナもオルクスさんもご飯が食べ終わり、準備が完了したようなので早速庭に出る。
修業の始まりだ。
「じゃあ二人ともよろしくね。まずはミルちゃんから。まず使える攻撃系の魔法は初級魔法だけって事でいいんだよね?とりあえずどの属性でもいいから使ってみてくれる?」
実はもう無詠唱で発動する事が出来るようになった。生活魔法なんて言われる簡単な魔法だしね。
私は自分の手がライターになったようにイメージして炎を出す。
「うん!すごいね。しっかりとしたイメージを持っているようだ。次は中級魔法の火属性の『ファイアーボール』、水属性の『ウォーターボール』、風属性の『ウィンドカッター』、土属性の『アースウォール』なんだけど見た事ってある?」
「一回だけ見た事があるんですけど記憶が曖昧なのでもう一回見せて下さい」
魔法発動にはイメージが本当に大事だ。記憶が曖昧では習得は難しい。
「分かったよ。じゃあ行くよ」
本当にすごい。違う属性の四つの魔法を無詠唱で同時に発動している。
ちなみに家屋や庭に被害が出ないように上級魔法にも耐えられる結界が張られている。
「こんなもんかな。じゃあやってみてくれる?」
この人、地味に鬼だ。普通魔法を習得するときは詠唱を覚えてイメージがしやすくなるようにする。
しかしオルクスさんはその手順をすっ飛ばして、いきなり無詠唱で出させようとしている。
でもそれぐらいのハイスピードじゃないとハヤトやエリナに追いつけない……やってやる!
そう意気込んだのはいいがやっぱりそう簡単ではなかった。
「じゃあミルちゃんしばらく練習しててね。じゃあ次はエリナちゃんだ。……って言っても何が教えて欲しいのか僕には見当がつかない。君なら空間魔法レベルの魔法も使えるだろう?」
二人の会話が聞こえてくる。
「剣聖賢者オルクスのオリジナル魔法じゃ」
「それ、どこで聞いたの?」
オルクスさんの顔色が変わる。
「いやいや、わしらような暇人からしたら結構有名なネタじゃよ?大賢者オルクスが発明した五大魔法、時間魔法の『時間操作』、最強対人魔法の『空間切断』、軍滅魔法の『終焉の大地』、国亡魔法の『業火の忘却』、そして世界魔法、『試練創造』。どれも名前だけでどんな効果なのかも詳しく分かっていないそうじゃが」
何、その神様がやるレベルのヤバそうな魔法は!?
こんなの普通じゃない!
「……データは全て処分したつもりだったんだけどなぁ。でもその情報には間違いが大分ある。僕が使えるのは対人魔法、軍滅魔法、国亡魔法の三つだけだよ。時間魔法は不完全だし、世界魔法については考えただけ」
いやいやいやいや、なんで三つも使えるんですか!?
「では、その三つを教えてくれ」
「別にいいけどその前に理由を教えてくれるかな?」
そ、そうだ。エリナはそんな魔法を覚えて一体何をしたいのかな?
「ふむ……高みを目指したい、それだけじゃ」
「……分かったよ、ちょっと待っててくれるかな……ミルちゃん、一応上級魔法を見せておくから少し自分でやっててね」
そう言ってオルクスさんは火属性の『ヘルフレア』と水属性の上級属性である氷属性の『アイスランス』、風属性の『ハリケーンブレード』、土属性の『アースニードル』をさっきと同じように同時に発動した。
「じゃあ僕はエリナちゃんと少し行って来るからハヤトにもよろしくね」
そう言ってオルクスさんは私が返事をする前にエリナの肩をつかんで瞬間移動してしまった。
随分と焦っていたように見えたけどそんなに魔法の情報が漏れたのが大変な事だったのかな?
とにかく私は練習だ。手先に神経を集中させて爆発しそうな球を作る……。
「あっ出来た」
結局この日は中級魔法しか無詠唱で発動する事が出来なかった。風属性が一番難敵だった。
夕方、私がちょうど修業を終えたあたりでエリナが目を回しながらオルクスさんに担がれて帰ってきた。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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