修業①
なかなか余裕そうだ。焦っていないのか。
「何で俺がここに来ると分かったんだ?」
「まぁそう焦らないで一緒にお風呂に入ろうじゃないか」
こんな怪しい奴とは一緒に風呂など入りたくないが今は従っておいてやろう。
そうしないとこいつ何も言わなさそうだからな。
「どうしてここに来るのが分かったのか、だったかい?」
そう言ってオルクスは自分の眼を指差す。
「僕の眼は魔眼の一種である、『精霊眼』なんだよ。この眼は別に精霊からしたら珍しい物でも何でもない、全ての精霊が持っている眼だよ。この眼の効果は主に『透視』みたいな物、現世全てを見渡す眼。だから君の動きをずっと見てたんだよ。それでここに来ると分かったから『跳んで』来た。まぁそれ以前からここに来るだろうとは思っていたけど」
千里眼みたいな物か?
その効果かなんだか知らないが、何から何まで見透かしたような事を言う。
とてもイライラしてくるが、話が早くて助かる。
「じゃあ、俺が何を聞きたいか分かるんじゃないか?」
「だいたいの予想はついてるよ。僕が君たちに接触した真の理由が聞きたいんだろう?」
「これって頼めば、話してもらえるかね?」
「もちろんさ!ここまで辿り着いた君にはそれを聞く資格はある」
そんな大袈裟な。
俺は視線で続きを促す。
「まぁもう話している事ではあるんだけどね、僕の一番の目的はミルちゃんの魔法の才能さ。もちろん魔力の補給をしなければならないというのは本当だよ?だけど、その死活問題を軽々、上回るレベルには彼女の魔法の才能は凄まじい。だから僕自身がミルちゃんを最強の魔法使いに育てたかった。もちろん君の特異体質もとても稀有だ、僕から教えられる限りの剣術を教えよう」
「分かった。まぁ俺に対する害は無さそうだし、存分にミルを鍛えてやってくれ。じゃあ、お前の目的は自分の後継者育てをしたいって事でいいんだな?」
俺が言うとオルクスは否定する。
「それだけじゃないよ……僕は見てみたいんだよ、君たちの行く末を。きっと僕の人生の何倍も栄光に満ちた物となるだろう。何、心配は要らないよ。君たちには才能がある、三ヶ月あれば十分に強くなれるよ」
何だよ、俺たちの行く末って。
こいつも耄碌してしまったんだな。
「あっそ……そういえば意外に早く強くなれるんだな。てっきり何年もかかる物だと思ってたぞ」
「まぁでも三ヶ月だろうと何年だろうと、あって無いような物だよ。僕たち『不死者』にとってはね」
こいつもしかしてミルが天使だって事も見抜いてんのか?
「いやいや、それは見込み違いだぜ?俺は半分吸血鬼なだけだから『不死者』では無いだろ」
「僕が見たところ君は吸血鬼よりだよ?およそ君は『不死者』だよ。しかし、吸血鬼の体で人間の特性も引き継いでいるのは本当にすごいよ」
「やっぱり俺の体質ってかなり得なのか?」
「そうだね。吸血鬼の体で人間の特性持ちだから眷属になるより確実に強いよ。その代わり再生能力は落ちているけど、それも普通の吸血鬼レベルだ」
本当にエリナには感謝しなければならないようだ。
「僕は君たちがみんな『不死者』だからそこに何か感じたのかも知れないね」
なーに、今更浸ちゃってんだか。
とにかくオルクスは俺たちに危害を加える存在では無いと分かったので警戒は解くとしよう。
というかこいつは多分いい金蔓になる。
資金繰りが厳しくなったら遠慮なくレアな道具をせびって金にしよう。
「あ、そうだ。ミルに合う防具、見つかったか?」
「ああ、もちろんだ。あんな物は一瞬で見つかるよ」
時間がかかるとか抜かしてたくせに。
「魔法攻撃からの耐性がついた服とローブ、魔力の伝導率が良いミスリルロッド。後者の方は一応探しておいたけど、多分修業すれば必要無くなる物だから修業の間だけだね」
「防具だけじゃなくて得物も用意してくれたのか?」
「まぁ一応ね。君の分もあるよ……これ」
そう言うとオルクスは空間に黒い穴を開けて中から立派な青と金の鞘に入った凄そうな片手剣が出てきた。
「剣の銘はイングリッド。付与されている効果は『不可視』だ。試しに鞘から抜いて魔力を込めてみなさい」
俺はオルクスに言われるがままに渡された剣、イングリッドを抜き魔力を込める。
するとどうだろう、柄の先から切っ先までの全てが見えなくなった。しかも鞘までだ。
しかしこれでは自分も相手との間合いが分からなくなってしまう。
するとオルクスがまた見透かしたように、
「間合いが分からないから修業するんだよ」
「ありがたくこの剣は頂いておく。それじゃあこれからよろしくな、師匠」
「こちらこそよろしく、我が弟子よ」
というわけでこれで破局かと勝手に思っていたオルクスとの関係はより強固な物となった……はずだ。
ミルにも装備一式を渡し、修業のやり方を話し合った。
話し合った結果、修業場所は家のかなり広い庭に決まり、修業のローテーションはこのように決まった。
俺の修業→ミルとエリナの修業→クエストで実戦→休み
半分休みなんだが、これにはお分かりの通り(お分かりではないかも知れないが)俺の意思が大分反映されている。だって疲れたくないから。
まぁでも実戦の日は一日中魔物を狩るそうで、マジで疲れそうだ。
ちなみに魔力が切れるといけないので、ミルにはポーションを使って無限に魔法が打てるようにする措置がとられるようだ。
オルクスがポーションを内職していた頃ため込んだらしい。
しかし、俺にとってこの修業はとりあえずのものでしかないのだ。
死にたくないから強くなるというある意味じゃ、消極的な動機だ。
悪いがオルクスの言う行く末だかなんだかに付き合う気は微塵も無い。
俺はこの豪邸で静かに暮らすのだ。
だが、この間の姫様の事件の様な事があれば喜んで解決させて頂こう。
金が無ければ生きる事は出来ないのだ。
そんな事を考えながら俺は一日を過ごした。
余談だが俺とミルだけ物を貰うのはずるいということで、エリナには再生するバトルドレスがプレゼントされた。かなり気に入っていた。
次の朝
今日から早速修業を始めるらしいのだが、俺はミルとの賭け事を思い出したので聞いてみる事にした。
まぁ俺が負けたわけでもないし、結果としちゃ悪くない。
「そんな事もあったね。でも結局引き分けでしょ?」
「そこで一つ提案があるんだ。両方に好きな事を一つだけ命令できるって事にしないか?」
「ハヤトがそういうなら別に構わないよ」
「じゃあ、そういう事で」
別に何か考えがあったわけでもない。何だか面白そうだったという理由だ。
それにミルが俺に命令する事と、俺がミルに命令する事じゃ、重みが違う。
ミルの命令は善意に満ちた物だろうが、俺の命令は善意九割、悪意一割、といった具合になる。
何かあったら使えそうだし、この権利は大事にしよう。
俺はこの修業に際し、『血の記憶』で習得した剣技をオルクスに打ち込ませてもらった。
そうしなければアイゼナッハ流剣術と吸血鬼の剣術が混ざり、おかしな剣術になりかねないからだ。
そうは言っても、もうすでに俺の家の剣術と吸血鬼の剣術が両方頭に入っている状態なのだが。
「今のは『血の記憶』で習得した剣術だよね?」
俺は頷く。
「今のは吸血鬼の戦い方だと思う。身に迫る攻撃に対してあまり意識をしない攻撃的な剣術だ。そしてかなり完成されている。しかし君の再生能力は吸血鬼王の半分程度、改良の余地がある。君の修業はアイゼナッハ流の習得よりその剣術の改良と間合いを覚える事だ」
そういうわけで俺の修業は少し楽なもの(?)となって開始された。
この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。
趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。
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