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楽な掃除方法

「友情を感じてるところ悪いんだけどさ、その方はどなたなの?」


 怪訝な目をオルクスに向けるミル。

 どうやらエリナだけでなく、ミルにもオルクスを大分誤解されちゃってる様なので風呂場で話した事を全て話してあげた。

 もちろん俺が魔法で妨害した事もだ。

 これでオルクスは情状酌量の余地ありと見られるだろう。


「まさかお主がかの有名な剣聖賢者であったか!その様な若い姿をしているとは思わなかったぞ」


 こいつ、オルクスが剣聖賢者だって分かった瞬間、態度変えやがった!なんて現金な奴だ!


「オルクスさんはハヤトに剣術を教えるんですよね?私には魔法を教えてくれませんか?」


 ミルはかなりの才能があるが覚えている魔法は少なかったはず。

 俺とエリナは身体能力が馬鹿になってるし、自分も戦力を上げておきたいという事か。


「うん、もちろんさ!君たちには僕の積み上げてきたもの全てを伝えよう。僕の子孫にはどうやら魔法より剣術の方が伝わっている様でね、僕の魔法を継承してくれる人を探していたんだ。見たところ君には僕の大きく上を行く魔法の才能があるようだから楽しみだよ」


 なんとな〜く、さっきの悪戯の事はもう忘れている様だし、俺もオルクスも許してもらえそうだ。


「じゃあオルクス、お前もここに住むといい。その方が何かと便利だろ」


 俺が言うと突然オルクスが涙を流した。


「ちょ、おいおい!泣く事ないだろ、そんなにここに住むのが嫌なのかよ!」


「い、いや違うよ。僕は人と同じ家で暮らした事が何百年かの間なかったから……嬉しくって」


 なんだよ、驚かせやがって。


「確かに孤独死は怖かっただろうな。だがもう大丈夫だ。お前の知識を全て頂いたら俺たちが看取ってやる」


「「なっ!?」」


 ミルたちが俺の優しさのかけらもない発言に何か言おうとするが、オルクスが笑って制する。


「ハヤト、ありがとう。君のそういうところ、温かみを感じるよ」


 そういうつもりで言ったわけじゃないんだが。


「そりゃ良うござんすね」


「語尾の意味はよく分からないが……うん、良いものだ」


 話がひと段落したので俺たちは部屋割りをして寝る事にした。オルクスは自分の家で今日は寝るそうだ。

 明日荷物を持ってここまで来るらしい。


 俺は自分の部屋に行く前にエリナに頼みたい事があったので、俺の部屋に来るよう言った。


「なんじゃ、頼みたい事とは?」


「結局俺、『血の記憶』使ってもらってないなと思ってさ。よければ今、俺に使ってくれないか?」


「そういえばうやむやになっていたな。良いじゃろう!ハヤトに我が一族のの叡智を継承してやろう」


 話通りならこれで俺は強くなれるはずだ。

 なにせ吸血鬼の長年の研鑽が手に入るわけだからな。

 それも何もせずに!こんな美味しい事は他にないだろう。


「わしの一族には変わり者が多くてのう。魔法はもちろん、剣術や槍術、弓術、その他諸々に精通したご先祖がたくさんおる!このスキルを使えばおよそ全ての達人クラスの技術が手に入るじゃろう!」


 なんと魔法だけでなく、剣術まで手に入るのか!

 これは美味しいなんてもんじゃないぞ!


「まずはそこのベッドに横になれ、そして何も考えずに目を閉じればいい……では行くぞ!三、二、一!」


 何故だか分からないが、ここで俺は苦しくなって気を失ってしまった。



「うおっ!?……ここは……俺の部屋か」


 えーと?俺は確か『血の記憶』を使われてなんでだか気を失ったんだよな?


「お、ハヤト起きたか!多分、頭に負荷がかかって気を失ってしまったんじゃな。何、案ずる事はない、無事に記憶の継承は終わったぞ」


 ふむ、特に変わった事はない様に思えるが……。


「ほれ、剣を持ってみろ」


 俺は頷くと剣を持ってみる。

 なんだろう、知らないはずなのに分かる。剣の振り方、体の使い方が。


「うむ、分かっただろう。それが継承された技術じゃ!生まれたばかりのときに行えば何の違和感もなく自分の記憶として継承出来るんじゃが、年を取ると少し違和感があるのかのう?」


「違和感はあるが、しばらく使っていれば慣れそうだ。ありがとう、付き合ってくれて」


「気にするな。ではわしは部屋に戻る」


 これじゃ『初級剣技』いらなかったな。

 まぁいいこれで才能はないがちょっとした魔法なら使い放題だし、あらゆる武術に精通する人間になったって事だからな。

 もう今日は疲れたし寝よう。


 次の朝


 俺は昨日の晩ご飯に比べたら手抜きした朝ご飯をミルとエリナに作り、余った金で何をするか考えた。

 まず当初の目的である防具を買うというのは余った金でも出来るはずだ。

 しかし防具を買うと金が底をつきそうになるはずなんだよな。


「おはようハヤト、何か考え事かい?僕に言ってくれれば、何か力になれるかも知れないよ?」


「この家を買ったときに余った金で防具を買おうと思うんだが、どうすればいいと思う?」


 何故かオルクスは急に笑い始めた。


「防具?君がかい?そんな物は要らないよ。君は吸血鬼王の眷属もどきだよ?身体能力どころか、体の強さまで上乗せされてるんだ。それに何と言ったって再生能力があるだろう?現にエリナちゃんは防具とかは付けてないでしょ?今度、吸血鬼の戦い方を教えてもらいなさい」


 確かにそうだが、何かムカつく上からな言い方だな。


「……じゃあ俺はいいとしてもミルには何か買わなくちゃならないだろ?それはどうするんだ?」


「ミルちゃんには僕の『蔵』からちょうどいい物を上げよう」


 ここに越してくるのに蔵の中身ごと持ってこられたんじゃ部屋が一部屋埋まるぞ?


「お前の家には蔵なんてあるのか?」


「言い方が悪かったね、『蔵』というのは空間魔法で作れる空間の事だよ。『蔵』には僕の築き上げた全てがある、魔法のデータや財宝はもちろんアーティファクトなんてのもあった気がするな」


 金持ちは良いねー!なんでも持ってやがる。

 だが今となってはそれも好都合、ミルに防具を融通してもらえる。


「じゃあミルに合いそうな防具を出してくれよ」


「今すぐには見繕えないよ。今日の夜くらいには候補が決まると思うから少し待ってくれよ」


 一体どれだけの量があるんだよ。


 じゃあ俺たちは昨日サボっちまった屋敷の中の掃除をするか。


 皿洗いは昨日と同じくミルがやってくれているようなので、どこかに逃げそうなエリナを捕まえて、俺たちは掃除を始める事にした。


 一時間後


 自分の部屋と持ち場の二部屋の掃除が終わった俺はエリナの様子を見てくる事にした。


「おい、エリナ。なんでお前は掃除した部屋は水浸しになるんだ?」


「何故かのう?……違うのじゃ!わしはちゃんと掃除しておったのじゃ!なのにバケツを足に引っ掛けて……」


 こいつ泣き出しやがった!


「泣くなって!……分かったって。あんな言い方した俺が悪かった!」


 泣くのはずるいだろ。なんか俺が悪いみたいじゃん。


「なんか乾かす魔法とか無いのか?」


「あ、その手があったか」


 こいつバカだ。


 エリナの様子を見終わったので途中から手伝ってくれているミルのところにも行く事にした。

 掃除の進捗を見に行くというのもあるが、オルクスに防具を探してもらっている事を伝えておこうかと思ったからだった。


「ミル、掃除の進みはどうだ?」


「皆が掃除した部屋以外全部終わったよ」


「良い進み具合だな!……ごめん、なんて言った?」


 適当にやってるのかと思ったが、ミルが掃除した部屋はとても綺麗だ。

 というか俺のところより綺麗だと思う。

 掃除には自信あったのに……。


「驚いた?これは『清掃』というスキルなんだよ。オルクスさんに教えてもらったんだ」


 『清掃』というスキルについて詳しく聞くとこうだ。

 効果範囲は約1cmで一瞬でほこりや汚れを取ってくれるスキルらしい。

 何故こんなにも効果範囲が狭いのかというと、もともとこのスキルは自分の体や服を綺麗にするスキルだからだそう。


 これでは普通、全く掃除にならないと思った俺だったが、ミルは普通じゃなかった。

 このスキルは魔法の部類に入るそうで特性にS級を持つミルが同じだけの魔力を込めて使うだけで効果範囲が十倍になる。

 さらにこのスキルの魔力消費量はもともと少ないらしく、魔力関係のステータスがバグってるミルにとっては使った事にもならないほどの量で、消費魔力を二十倍に高めたのだそう。


 この状態のスキルを永続使用しながら屋敷中を走り回った結果が俺たちが掃除したところ以外の全ての部屋だというわけだ。

 ちなみにそれだけ魔力を消費しても四分の一も使っていないそうだ。


 俺はミルの掃除方法に驚き過ぎて、ここに来た半分の理由を話し損ねていたが、ようやく掃除の話がひと段落したので防具の事について話した。


 ミルは話を聞くとオルクスに悪いだなんだと言っていたが、そこは押し切った。

 あいつが良いと言うんだから別にいいだろう。それにこの家の魔力で生きてるんだし。


 ん?そういえばおかしくないか?

 あれだけ色々な物を持っているのなら全て売ればこの家の一つや二つ、買えてもおかしくない。というか買えなければおかしい。


 なぜならオルクスはアーティファクトやレア防具を持っているんだ、金になる物も持っているはず。

 そうなるとますますオルクスが怪しくなってきた。

 あいつの狙いはなんだ?俺たちの誰か?

 いや、俺たちの中で価値のある奴なんてそれこそミルくらいしかいない……。


 いや……考えても仕方ないか。問いただしてみるのが一番だ。

 そうと決まれば俺はミルと別れてオルクスの居るであろうところに向かう。

 それはここ……風呂場だ!

 俺は勢いよく脱衣所から風呂場への扉を開ける。


「やあ、ハヤト。そろそろ来る頃だと思っていたよ」


 そう言ってオルクスは湯船に浸かりながら怪しげな微笑を浮かべていた。

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

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