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剣聖賢者

「で、あんた誰なんだよ?事と次第によっちゃ、不法侵入で警備に突き出しますよ?」


 俺の隣には長身で美形の二十代前後と思われる白髪の男性が我が物顔で風呂に浸かっていた。


「いやー、君が僕を無視してお風呂から出て行きそうになったときは驚いたね……ん?ああ、そうだったね、僕が誰でどんな用でここにいるのか聞きたいんだったね。僕は人呼んで剣聖賢者オルクスだ。オルクスって呼んでくれ。人呼んで、といっても僕も結構気に入ってるから自分で名乗ってもいたんだけどね。え?そんな事聞いてないって?申し訳ないね、僕はついつい必要ない話をしてしまってね、友人にも直した方がいいと言われていたんだが、どうにも直らなくてね。おっと、またやってしまった。えーと、次はどんな用でここにいるかだったかな?どんな用かと言われれば、君たちに挨拶に来たってところだね」


 な、なんて話の長い奴なんだ。お陰で話が全く入って来なかった。なんとか要点だけを思い出す。


「あーなんだ、話をまとめるとお前の名前はオルクスで俺たちに挨拶しに来たって事であってるか?」


「すごい纏めたね。ふむ、その感じだと僕の事をご存知ない?」


「ご存知ないも何も今会ったばっかりだろ?それとも剣聖賢者というのが有名なのか?」


 いきなり現れるし、こいつ強そうだもんな。剣聖賢者なんて大仰な名前も過度ではないかもな。


「いや、知らないんならいいんだ。僕の名もまだまだだね。挨拶と言ってもね、お願いがあるんだ」


 こんななんでも持ってそうな奴がお願いとはなんだろう。


「お願いというのはこの家の魔力エネルギーを分けて欲しいんだ」


「魔力エネルギーって魔力炉でつくられるやつか?」


「そうそう、君は魔力炉について詳しく知っているかな?魔力炉というのは魔力を増幅させる装置なんだよ。普通の家の変換効率は二倍ぐらいなんだけど、ここのは百倍なんだ」


 どうなってんだここの変換効率。他のところよりかなりいいと聞いてはいたが、ここまでとは驚いた。

 しかしこんな変換器がどうして戦いのときに使われないのかと思う人もいるだろうが、理由は簡単だ。

 通常、人間は一度外に出した魔力を体内に戻す事は出来ない。人間が魔力を回復させる手段は主に二つ。

 一つ目は自然回復。二つ目はポーションを飲む事だ。

 例外的にスキルを使った回復も出来るようだが詳しくは知らない。

 それに一度魔力炉に魔力をくべてしまったら取り出す事は魔族でも出来ないはずだ。


「だけど、オルクス。魔力炉の中の魔力なんて取り出せないんじゃないか?」


「そこは大丈夫だよ。うーん、君はどうやら僕とは少し似た境遇にあるようだ。いいだろう、僕の体質の事を教えてあげよう」


 こいつ、俺の吸血鬼性を見抜いたのか!?外見からは絶対にわからないはずなんだが。


「僕はね、人間と精霊の間に生まれたんだ。僕は精霊の方の血を色濃く受け継いでいたから魔法の方に適性があったんだけど、人間の父は剣がとても上手くてね、剣術も教わっていたんだ。しかし両親は僕が大人になるとすぐに死んでしまってね。両親からは『もう教える事はない!』って言われてたから、それからは魔法の研究をしたよ。研究は捗る捗る、何せ精霊の血が入っているからね。魔法は大得意なんだ。そんなだから僕の研究は認められてね、賢者なんて称号を賜ったんだよ。まぁそこで研究をいったんやめて気付いたんだ、僕の外見は二十ぐらいの頃から全く変わってないってね。そのとき僕は悟ったよ、僕は精霊の方の寿命なんだなってね。精霊は基本何百年か生きる、そして容姿もあまり変わらないんだ。おっとまた要らない話をベラベラと言ってしまったね。ごめんごめん。そんなわけで精霊の血を色濃く受け継いだ僕には精霊の特性の一つである『超魔力操作』って技能を使って魔力炉から魔力を抜き取る事が出来るんだ」


 こいつは見た目通りの年齢じゃないって事か。

 しかしこれまたすごい人物に会ってしまった。多分こいつ本とかに載ってる有名人だな。

 だが、俺の考えではこいつはゲイルさんと同等かそれ以上の軽薄さがある。

 見た目が見た目だから敬語を使いづらい。まぁ使う気ないけど。


「魔力炉から魔力を抜けるってのは分かったよ。だけどお前、『超魔力操作』がどうのこうのって言ってたけどそれを使えば大気中の魔力を吸い取れるんじゃないのか?」


「鋭いなぁ。本来の精霊だったらそれは可能なんだ。だけど僕は人間の生存域にいるから、最上位の精霊たちから制限をかけられていてね。大気中から魔力を吸い取れないんだ。普段、生活してると、魔力はどうしても使うでしょ?だけど僕には、というか精霊には魔力を自然回復する器官がないんだ。そんなわけで魔力炉から魔力を吸い取るのにも魔力を使うわけで、僕の家の魔力炉じゃ、逆に僕の魔力が減ってしまう。だからここで魔力エネルギーを分けて欲しいというわけなんだ。前のこの家の家主には少し違う形で説明して魔力エネルギーを分けてもらっていたんだけど、大事な理由があったようでここを引き払ってしまったんだ」


 まぁ魔力エネルギーを分けるのはやぶさかではない。

 しかしだ、タダでものを渡すというのはあまり良くない事だ。というわけで対価を頂戴しよう。


「ちなみにお前は俺に何をくれるんだ?」


「僕の全てを君にあげよう。これは死活問題なんだよ。精霊は魔力がなくなると消滅してしまうんだよ。今もギリギリのところなんだ」


 なに、気持ち悪い事言ってんだ。


「お、お前の全てとか別に要らねえよ。お前は剣聖賢者とかいうぐらいだから剣も使えるよな?」


「もちろんだよ。君は剣士のようだし、僕が創始したアイゼナッハ流剣術を教えてあげよう」


 なんか凄そうな剣術だな。

 というかアイゼナッハって、こいつ貴族だな。

 賢者になったとき叙爵されたとかそんなところだろう。

 俺は一つ気になっていた事があったので聞いてみる事にした。


「分かった、その条件でいい。話は変わるんだが、お前いきなり風呂場に現れたのはどういう能力だ?」


「ああ、あれは僕が開発した空蝉長距離瞬間移動という体術と魔法を混合させた動きでね。空蝉っていうのは知ってるかい?これは身代わりを出して超近距離の擬似瞬間移動を可能にする体内の魔力操作と熟練した体術とを合わせたすごい技なんだけどね。僕は常々この超近距離の移動では敵からは逃げられないと考えていたんだよ。だから瞬間移動の魔法を取り入れて確実に敵から逃れる術にしたんだよ。驚いたでしょ?」


 確かに技術的には凄まじいもので、常人が真似してできるようなものではないのだろう。

 だが、


「お前は俺を驚かすとかいうしょうもない理由で残り少ない魔力を使ったってわけか?」


「君が僕を心配に思って怒る気持ちは分かる。しかしだ、この行為には理由があるんだ。君はその感じだと吸血鬼にあった事があるだろう?……いや、すぐそこにいるのか。そうなると吸血鬼のほとんどの死因が自殺だという事も知っているじゃないかな?その自殺の動機というのが生きる意味がなくなって、というのがほとんどだ。精霊は吸血鬼よりは圧倒的に寿命が短いが、平均死亡年齢が精霊の方が高いんだ。何故だか分かるかい?その理由は簡単さ、楽しく自分のやりたい事を無邪気に為そうとするからさ。つまりだ、僕が言いたいのは、自分がやりたいと思った事は人に少し迷惑をかけるぐらいなら、やった方がいいって事さ!」


 別にお前を心配しちゃいねえよ!

 それになんて迷惑で危険な思想なんだ!

 しかし、全く同調出来ないわけではない。

 地球にいたときは他人への配慮を忘れた事はなかった。

 お陰で多くの友人がいたが、自分の思うようには過ごしていなかった気がする。

 俺はこういう生き方を多少は見習おうと思ってしまった。


「お前の生き方にとやかく文句を言うつもりはないが、俺に迷惑をかけるのだけはやめろ。ちょっかいかけるなら俺以外の誰かにしてくれ、例えばこの家の中にいる二人とかな」


「僕が言うのもなんだけど、パーティーメンバーなのに扱いがひどいね」


「あいつらはいいんだよ。俺と違ってある程度人が出来てるから初対面のお前には文句も言わないだろう」


 まぁエリナの方はとても人間が出来てるとは言えないが。


「じゃあ早速いたず……もとい、挨拶をしてくるとするよ」


「待て待て、流石に裸はまずいだろ。服を着てけ」


「流石に僕も裸で会いにはいかないよ。本当に警備に突き出されかねないからね」


 こいつの事だからどういう方法かは知らないが服を着ると同時に瞬間移動するとかいう術をまた使うのだろう。


 今こそ仕返しのときだ。

 実は俺はさっき、不動産屋のおっさんに面白い魔法を教わった。

 その名も妨害。この魔法はほんの数秒だが、周囲に魔法を妨害する空間をつくれるのだそうだ。

 これをこいつが転移する一瞬前に使えば、オルクスに気付かれずに、何かしらの妨害が出来るはずだ。

 俺は運がいいらしいので期待はある!


「よし!行ってくるよ」


「おう、行ってこい」


 やばい!笑いを堪えるのが大変だ!

 来るぞ、三、二、一!


「『ジャミング』!」


 オルクスは一瞬振り返り、驚いた顔をするがもう遅い。

 風呂場の床に服がふわふわと落ちる。

 俺は大きな笑い声をあげる。


「大成功だ、ざまあ見ろ!お前はこれでド変態英雄だ!」


 特性を使って身体能力を上げ、耳を澄ましてみる。

 聞こえるぞ。これは……エリナの声だ。

 前に風呂に入ったときは恥ずかしがってなかったが、急に現れられると流石に恥ずかしいようだ。

 エリナには悪いが、人柱に……ん?これまずくないか?

 エリナが『消し炭にする』とか言ってるぞ!?

 オルクス、しっかり対抗してくれよ!


 俺の心配は果たして杞憂に終わった。エリナはそれはそれは怒っていたが。

 なんでも魔法をキャンセルされまくったらしい。

 流石、賢者様だ。


「オルクス、今どんな気分だ?」


「悪戯で僕の上を行くとは中々やるじゃないか。そういえば、君の名前を聞いてなかった」


「ハヤトだ。よろしくなオルクス」


「うん、よろしくお願いするよ、ハヤト」

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

 御意見、御感想、御評価を頂ければ幸いです。


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