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大浴場にて

 ギルドの宿舎には有料だが大浴場がある。

 この世界の住人には毎日浴槽に浸かるという習慣はないが、たまに入る事があるため大浴場があるそうだ。


 ギルドには何でもありすぎじゃないか?と思った俺だが、エドナには街の中に川が通っているため、水にはそんなに困らないらしい。だから大浴場があるのだそう。


 ちなみにこの大浴場、混浴である。

 面倒くさいところはかなり多くの魔力を流してやらないと水を温められないというところだろう。

 前にやろうとしたときは結構な時間がかかった。

 そして、俺はその大浴場でかなり面倒くさい事態に陥っていた。


「ふぃー、いい湯じゃのう」


「そ、そうだな、本当にいい湯だ」


 き、気まずい!なぜこいつは平気な顔して男と風呂に入れるんだ!?

 やはり見た目通りの年ではないのだろうか?


 いやまぁ本当にいい湯なんだがな。

 今回はエリナに沸かしてもらったからな。俺の魔力は平均だが、やはりエリナの、というより吸血鬼の魔力は高いらしくお湯がすぐ沸いた。

 俺はふと、思い出した事があったので聞いてみる事にした。


「そういやお前、姫様の事を金髪とか言ってたが、気を付けろよ?不敬罪に問われかねないぞ?」


「ああ、すまんすまん。わしも姫みたいなものじゃったからついな」


 貴族ならそういう事もあるか。


「ん?じゃあ、お前最初から姫様がお姫様って気付いてたのか?」


「うむ。今世の英雄の娘となれば名も知れ渡っているしの。それにわしはあのダンジョンの中で一回起きたからな。それであいつらが話してるのを聞いたのじゃ。まぁその後また眠くなって寝てしまったがな」


「じゃあ何だ?お前姫様が捕まってるって分かっていてそのままにしたのか?」


 まぁかく言う俺も姫様と無関係だったら助けなかっただろうがな。

 俺には高尚な人助けの精神およそはない、だが命の恩人を助けようともしないようじゃ本当に人間もどきになってしまう。

 そんな俺だから、こいつを助けたのは打算的な部分が大分ある。

 能力という部分が一番だが、やはりこのルックスは捨てられん。

 ごっつい男の仲間より可愛い女の子の方がいいに決まっている。


「まぁそうじゃな……というか、わしにはあの悪魔は倒せんぞ?かと言って負けもせんが……言ったであろう?あのときのハヤトにはわしは瞬殺されると。しかしあの悪魔はお前の攻撃を凌いでおった。あれは『読心』のお陰でもあるが、避けるにはかなりの身体能力が必要不可欠じゃ」


 つまり普通にエギルは実力があったという事か。


「というかハヤト、話を巧妙に変えておるな?わしとの話をミルにバラした事、忘れておらんぞ?」


 今の俺では簡単にエリナにやられる!知恵を絞るんだ!

 そういえばこいつ、俺と話したとき配下になるとかなんとか言ってたよな?


「お、お前は俺の配下なんじゃないのか?だ、だったら命令の一つや二つ聞いてくれてもいいんじゃないか?」


「ハ、ハヤト、お前に卑怯じゃぞ!?」


 お?思ったより効力を発揮してるぞ?これはいけるんじゃないか?


「吸血鬼の契約は血の契約。破るわけにはいかないのじゃ!だからハヤトの言う事は何でも聞かなければならないのじゃ……」


「へ?俺ってそんな強権持ってるのか?」


「うむ。だからわしはお前に逆らえんのじゃ」


 俺はこいつに何やっても許される、という事か!

 これは思わぬ権利を手に入れてしまったな。

 では俺のお願いを全部聞いてもらうおう。


「それならさっきの事はとりあえず許してくれ。後の話は背中を流しながら聞いてもいいか?あ、お前が俺の背中を流すんだぞ?」


「くっ……!わ、分かった」


 俺は風呂から上がる。というか俺、かなりクズいことしてないか?……まぁいいや、この時間帯だし風呂に入りに来るのは俺たちだけだろう。


「お前の年を聞いてもいいか?見た目通りではないんだろう?」


「ん?いや、ほとんど見た目通りじゃ。今年で十六になる」


 お、同い年だと!?まさかの事態だ。

 見た目通りの年齢だとしても中学生ぐらいだと思ったのに。


「じゃあ何でお前、老人みたいな言葉遣いしてるんだよ?」


「は、母上がこんな喋り方で子供の頃からの癖なんじゃ!」


 この反応……思いの外恥ずかしいんだな。

 可哀想だし触れないようにしておこう。


「そういえば、俺のスキルに『血の記憶』ってのがあったろ?あれの詳しい効果ってなんなんだ?」


 普通に考えて先祖代々全ての人の全ての記憶を頭に入れてたら頭が壊れてしまう。だからそんなスキルを俺に使ったら一瞬で死んでしまうと思う。


「ふむ。ハヤトは脳みそについて詳しく知っておるか?多分知らないと思うんじゃが、記憶には種類があるのじゃ。人が記憶を失くしても歩き方を忘れたり、言葉を忘れたりする事はないじゃろ?『血の記憶』というのは魔法の使い方とかスキル、その他諸々の『技術』に関する記憶を引き継ぐ事ができる。ちなみに引き継いだスキルの習得にはポイントを使わなければならないぞ。この『血の記憶』が吸血鬼の最大の強さと言ってもいい。人間にはできない事じゃからな」


 エリナよ、科学で地球人に勝とうなどとは考えない方がいいぞ。

 記憶の種類の話は俺でも知っているぞ。こいつの言っている『技術』に関する記憶というのは所謂、手続き記憶のことだろう。

 なんという便利スキルなんだ!今の俺って本当にメリットしかない!


「何だよそれ、吸血鬼最強じゃん」


「うむ、吸血鬼最強じゃ!」

 

 そのとき、大浴場の扉が開いた。


「ハヤト?何やってるの?」


 俺は後ろを振り向く。


「何って、見りゃわ……かる……だろ?」


 こうして俺は仲間からの株を大暴落させて、一日を終えた。

 この度は「異世界転生したのに魔王がいません!」を読んで頂きありがとうございます。


 趣味で初めて書く小説ですので、拙い部分がかなりあると思います。

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